重力糸-グラビティースレッド
笹崎.A.弘樹
第0章 産声
忘れもしない……
高度三万一千フィート。
摂氏マイナス四十七度の極寒に晒されたアルミ合金の悲鳴が聞こえる。
十八気筒九千馬力の怪物の爆音と鼓動、吐かれる黒い吐息──
人が踏み込めぬ限界領域への侵入を可能とするその強翼に跨り、私は今ここにいる。
極薄い大気中でも、その怪物の翼は力強く、危なげなど微塵も感じさせない。
大国をその身に宿す怪物は、私の合図と共に口を開け、『インドラの矢』を直下に落とした……。
この怪物が非常識な放つ矢は、世界を震撼させ、理を震わせる──。
上空で観測した、あの波形。
『あぁ……神様。』
祈らずにはいられなかった。
あの日の彼のように……。
あの日、祈った“彼”が見た世界を、
私は、今ようやく“名付けた”に過ぎない。
そしてそれは、まだ始まりでしかなかった──。
等価交換により観測したあの波形。
それは仮説の立証に十分であり、相対性理論の不完全さを補完するに足る満足な結果だった。
アインシュタインでさえ完成に至らなかった、その一片を。
確かに、私たちはその怪物のはらわたの中で観測したのだ。
数多の天才たちが追い求めた──神の数式、最後の一ピース。
それが完成すれば、万物を理解し、証明できるという、
「最後の一ピース」を私は確かに受け取った。
よく晴れた、熱い夏の空の下で。
確かに、等価交換は“あった”のだ。
過去の偉人たちが積み重ねてきた数多の理論も。
そのすべてを置き去りにして──
これが最後でありますようにと祈りを捧げ……
いま、ひとつの理論が“ 産声”を上げる。
重力糸理論――グラビティスレッド。
……と、私はそう名付けたい。
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