第四章 スタンピード

第41話 悪魔からのドロップ

   ▽第四十一話 悪魔からのドロップ


 後日のことである。

 カイトとシュマロはギルドにて、悪魔からのドロップを回収することになっていた。もうシュマロを連れることは隠さない。


 正確には隠し通せない。


 前回はともかく、今回は悪魔討伐だ。

 悪魔をぶち殺したいっぬとして、さぞやシュマロは有名となっただろうな、とカイトは怯えているのだった。


 カイトはもう掲示板は見ない。


 それでもSNSや動画投稿サイトには切り抜き動画が挙がっている。どうしても目を触れさせないことはできなかった。

 とくにショート動画だ。

 スクロールしていたら勝手に映る。


 結果、見た。


 なんか訳の解らない力で無双している、何故か無表情の自分。目が信じられないくらいに赤く光っている。

 カイトはこう理解した。


 ――悪趣味なフェイク映像だ!

 と。


 犬飼カイト。

 彼はあまりにもネットの悪意に晒され慣れていた……

 そして何よりも信じられない。信じられる理由がない。自分が知らぬ間に自分が勝手に超常の力を操って、あのウヴァルを翻弄し、蹂躙し尽くしたなど。


 夢遊病患者が彷徨う姿を映像に収められても、なかなかに信じないように。


 そもそも【テイマー】の常識とも、自身の経験とも一切合致せぬ映像を信ずるよりも、また、、誤報なりフィクションや悪意、、だと理解するほうがカイトの平常であった。

 それほど現実離れした映像であった。


「ああいうのがあるし、それを信じるからネット民って嫌いなんだよなー。なんだよあの映像。あれを無垢に信じたら俺がまるで厨二病みたいじゃない?」


 自分にはじつはすごい力が眠っているんだ、と思うにはカイトは精神的に疲れ果てている。そのようなカイトの振りに対して、サモエドは小首を傾げた。


「あう?」

「そうか、あう? か」


 シュマロも同意してくれた、とカイトはポジティブに捉えることにした。

 長い受付時間だ。

 悪魔騒動を経たことにより、このダンジョンも人気が増したらしい。あくまでも一時的なことだろう。活気あるダンジョンとなってしまった。


 いつもならばすぐに終わるのにな、とうんざりする。

 暇潰しに動画を視聴していれば、やはり先の加工映像疑惑が映る。一度、大元の動画を渋々と確認してやろうかとも思ったが、実行に移そうと思えば――ずきりと胸が痛む。


 部位としてはかつてヌイに触れられたところが近い。

 体が受け付けない。

 すっかりウヴァル戦がトラウマか、とカイトは探索者のうち五人に一人がPTSDを患う、という教本情報を思い出していた。


 そうやって油断していれば。


「お、おまえ犬飼カイトだよな?」

「犬飼じゃーん!」

「動画見たぞー! 詳しく話聞かせろ!」


 などと何人もがカイトに話しかけてくる。

 あまりにも困っていれば、受付の人が待機室とやらにご案内してくれた。受付の人は「すごかったです! 握手してもらっても!?」と問うてきた。


 どうぞ、そう承諾すれば、当然の如く受付はカイトの手が握られる。


 これにカイトは驚いた。

 少し前、ヌイに「触って良いですか」と問われてシュマロではなく、自分の身体をなで回された。

 その時の衝撃に近い。


 活躍したシュマロと握手は解るんだが、何故に俺、とカイトは訝しんだ。


 二時間も待った。

 思わぬ繁盛具合にパンクしたようだ。べつに急いでいなかったので構わない。シュマロもリラックスしたように丸くなって昼寝タイムを謳歌中である。


「お待たせいたしました、犬飼さま」

「いいえ、それで……あの悪魔のドロップって何でした?」

「指輪です」

「おー」


 アクセサリ系の装備は三つまで効果を持続すると言われている。

 今のカイトの装備はこうなっている。


 武器【【導きたる原初の牧杖カドゥケウス】】

 頭部装備【守護のピアス】

 上半身装備【守護の上着】

 下半身装備【守護のスラックス】

 アクセサリ【祝福された蜘蛛糸の腕輪】

 アクセサリ【MP自然回復の指輪】

 アクセサリ【守護の指輪】


 こうなっている。

 ピアスは頭部装備判定となっていた。

 靴はシンプルな靴にしている。いくつか魔道具型の靴も履いたのだが、あまりにも履き心地が悪く、探索に支障を来すので動きやすいスニーカーにしてある。

 またグローブといった、別の装備枠も空いたままだ。


 これは直接戦闘を意識しない、【テイマー】だからギリギリ許される所行だった。


 これに新しく加わるのが悪魔の装備、かもしれない。

 ちなみにシュマロもいくつか装備はしてある。が、犬用の装備は中々に手に入らず、その性能は大したことがない。


「【ウヴァル・リング】……ですか」

「はい、ウヴァルを討伐時に確率でドロップするアイテムですね。種類は全部で七種類あると言われています。まだ見つかっていないものもあるかもしれませんが……」

「なるほど。当たりですか?」

「……犬飼さま的には外れかもしれません」

「えー」


 とりあえず装備して確認してみる。

 どうやら効果は二つほどあるらしい。ひとつが『精神的な攻撃への耐性』を得る効果。もうひとつが『ヘイトを奪うデコイを生み出す』効果らしい。


 ……当たりでは、とカイトは首を傾げた。


 受付的には「あんなに戦えるカイトが装備枠をひとつ潰してまで、デコイをほしがる」という可能性を感じなかったようだった。

 が、無論、自力でウヴァルを討伐したと信じていないカイトには無用な心配である。


 カイトは【守護の指輪】を外し、その場で受付に頼んだ。


「これを売却でお願いします」

「……え【守護の指輪】?」

「はい、だめでしたか?」

「い、いいえ、いいえ!」


 わりとカイトは愛らしい顔をしていた。

 そのカイトが不安そうな顔で「だめでしたか?」と言ったことは、存外に受付にとっては良い威力を持ったらしい。

 あれだけの活躍をしていたギャップも手伝った形だ。

 カイトほどの実力者がまだ、、【守護の指輪】を使っていた事実はさておく。


 守護系の装備は装着者に「鉄装備」くらいの防御力を与える。レベル20を超えてくる魔物相手にはやや不足気味の性能なのだ。


 新しい指輪を嵌める。

 禍々しい装飾のデザインだ。悪魔がモチーフというだけあり不吉な印象もある。隠しステータス補正も素晴らしく、まるでカイトは新生したような心地だった。


「よし、試そうか、シュマロ」

「……くー」

 

 シュマロはまだ夢の中。


       ▽

 指輪に魔力を通す。

 するとカイトそっくりの人形が出現し、それはカイトと同じ走り方でダンジョンを駆け出した。


 わんわんわんわん、とシュマロが尻尾を上下に揺らしながら吠える。


 対象は無論、カイトが生み出した偽カイトであった。装備も同じに見える。戦闘能力は皆無らしい。


「こいつは偽物だ、大丈夫だぞ、シュマロ」

「うー!」

「一回、消しておくか」


 指輪を翳して消す。

 また出す。これを何度も行い、カイト自身がやっていることを理解させた。クールタイムがわりと長いので連発はできないが、頑張って慣らすことが最優先である。

 理解後は面白いおもちゃ判定をしたようで、偽カイトの足を甘噛みなどして遊んでいる。


 タラリアが電子音で告げてくる。


『二分後に接敵いたします』

「解った、ありがとう」


 ちなみにタラリアからカイトへの対応がやや変化している。というのも、やたらとカイトを高難易度ダンジョンへ連れて行こうとするのだ。


 階層の敵が何体いても問題ない、と判断して前へ進ませようとする。


 悪魔の所為でAIがバグった、とカイトは勘違いしている。

 本当はウヴァルを圧倒するカイトを撮影したことにより、彼の本当の戦闘能力で計算を行っているからだったりする。


「タラリア、ほんとに頼むよ。俺は何度も言うけどレベルは15のテイマーと犬なんだから。過大評価はしないでくれよ。修理に出したり初期化したくないんだ」

『承知しております』

「ほんとに……?」

『誠でございます』


 ともかくタラリアの警告通りに、魔物は2分後に出現した。数も指定した通りに一体だけだ。六腕の熊である。

 早速、とカイトはデコイを生み出す。


 六本熊はシュマロやカイトをガン無視して、逃げ出すデコイを追いかけ始めた。無防備な背中をシュマロにご披露する、敵。

 容赦なくサモエドは熊を狩った。


「めっちゃ優秀じゃん、これ。MP消費は少なめ。ただクールタイムが五分……これはネックだけど、ボス戦とかでやばい攻撃をデコイに押しつける戦い方は強そうだ」


 良い装備が手に入った、とカイトはにまにまするのだった。



   次回 たくさんのお誘い

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