第30話 決意の時

魔法少女協会月華支部、作戦会議室。重苦しい空気が漂っていた。美月は黒のパンツスーツを着ており、緊張でジャケットの襟元を何度も直していた。ひなたは制服姿で、不安そうに椅子に座っている。


「ヴォイドの活動が活発化しています」


 支部長が深刻な表情で切り出す。プロジェクターの光が、出席者たちの顔を青白く照らしていた。


「特に、ここ一週間で中級以上の出現頻度が3倍に」


 スクリーンに表示されたグラフを見て、全員が息を呑む。美月は立ち上がり、データに近づいた。タイトスカートが太ももに密着している。


「これは……」


 さゆりが呟く。今日の彼女は紺色のワンピースを着ており、裾が膝下まである落ち着いたデザインだった。


「大型ヴォイドが現れる前兆では?」


「その可能性が高い」


 美月が冷静に分析する。ジャケットを脱ぎ、白いブラウスの袖をまくり上げた。汗で、ブラウスが背中に張り付いている。


「過去のデータと照合すると、パターンが酷似している」


「どれくらいの規模を想定すべきですか?」


 麗華が尋ねる。先日の一件以来、美月への態度は軟化していた。今日の麗華は、落ち着いた茶色のスーツを着ている。


「最悪の場合、A級相当。いえ、それ以上かもしれません」


 会議室がざわめく。何人かの若手魔法少女が、緊張で制服の襟元を掴んでいた。


「全員で当たっても……」


 誰かが不安そうに呟いた。


「大丈夫」


 ひなたが立ち上がる。立ち上がる勢いで、制服のスカートが揺れた。


「みんなで力を合わせれば、きっと勝てる」


「天宮さんの言う通りです」


 支部長が頷く。


「今から対策を立てましょう。柊さん、分析をお願いします」


 美月は立ち上がり、ホワイトボードに向かった。歩く際、ヒールの音が会議室に響く。


「まず、出現予測地点ですが……」


 美月が地図に印をつけながら説明する。前かがみになる度に、ブラウスの胸元から黒いインナーが覗いた。ペンダントが揺れている。


 会議は3時間に及んだ。綿密な作戦が立案され、各チームの役割が決められていく。美月は何度も立ったり座ったりを繰り返し、スカートの裾を気にしながら説明を続けた。


 会議が終わった後、美月とひなたは訓練場に向かった。美月は動きやすいようにジャージに着替えており、体のラインがはっきりと分かる。ひなたは制服のまま、重い足取りで歩いていた。


「みつきち、大丈夫かな」


「何が?」


「A級以上って……私、戦ったことない」


 ひなたの声に不安が滲む。制服のリボンを無意識に握りしめていた。


「怖い?」


「……うん」


 素直に認めるひなたを、美月は優しく見つめる。


「怖くて当然よ。私も怖い」


「みつきちも?」


「ええ。でも、だからこそ準備が必要」


 美月は分析装置を起動させる。機械を操作する手が、わずかに震えているのをひなたは見逃さなかった。


「これまでの訓練を思い出して。一つ一つ確認していきましょう」


 二人は夜遅くまで訓練を続けた。基本動作から始まり、コンビネーション技まで。すべてを丁寧に確認していく。ひなたは途中で変身し、ピンクと白の魔法少女衣装が汗で体に密着していった。


「ムーン・ノヴァ・ストライク!」


 銀色と月光色の輝きが訓練場を照らす。威力も精度も、以前より格段に向上していた。技を放った後、ひなたは膝をついた。スカートが広がり、白いアンダースコートが見える。


「いい感じ」


 美月が満足そうに頷く。ジャージも汗でびっしょりだった。


「この調子なら……」


 突然、美月のペンダントが強く光った。


「え?」


 一瞬、懐かしい感覚が蘇る。変身の予兆。しかし、すぐに光は消えてしまった。美月の全身に鳥肌が立つ。


「みつきち、今……」


「ええ、私も感じた」


 美月がペンダントを見つめる。震える手で、そっと触れた。


「もしかしたら……」


「力が戻ってきてる?」


 ひなたの目が輝く。興奮で立ち上がり、美月に駆け寄った。


「分からない。でも、何かが変わり始めているのは確か」


 その夜、美月は自室で一人考え込んでいた。もし力が戻ったら、自分はどうするのか。再び前線で戦うのか。それとも、今のままひなたのサポートを続けるのか。部屋着のTシャツとショートパンツ姿で、ソファに深く沈んでいた。


 ノックの音がする。


「みつきち、入っていい?」


「どうぞ」


 ひなたが心配そうな顔で入ってくる。パジャマ姿で、上下ともピンク色だった。


「眠れなくて」


「私も」


 二人はソファに並んで座った。ひなたのパジャマから、石鹸の良い香りがする。


「ねえ、みつきち」


「何?」


「もし、みつきちの力が完全に戻ったら……」


 ひなたが俯く。パジャマの襟元を握りしめた。


「私、いらなくなっちゃう?」


「何言ってるの」


 美月が驚いて、ひなたの肩を掴む。Tシャツの袖から、白い腕が伸びている。


「そんなこと、絶対にない」


「でも……」


「ひなた、聞いて」


 美月が真剣な眼差しでひなたを見つめる。ショートパンツから伸びる脚を組み直した。


「力が戻ろうが戻るまいが、あなたは私の大切なパートナー。それは変わらない」


「本当?」


「ええ。むしろ、二人で戦えたら最強じゃない?」


 美月が微笑む。


「想像してみて。私とひなたが並んで変身して、一緒に戦う姿」


「それ、すごくかっこいい!」


 ひなたの表情が明るくなる。興奮で身を乗り出し、パジャマの胸元が開いた。


「でも、まだ分からないことだし」


 美月がペンダントを握る。


「今は、目の前のことに集中しましょう」


「うん」


 二人は手を取り合った。繋いだ手のひらに、お互いの体温を感じる。


「みつきち、約束して」


「何を?」


「どんなことがあっても、ずっと一緒にいるって」


 ひなたの真剣な表情に、美月は優しく微笑んだ。


「約束する。ずっと一緒よ」


「指切り?」


「ええ、指切り」


 小指を絡め合い、いつもの約束を交わす。触れ合った小指が、離れたくないかのようにしっかりと絡み合っていた。


 翌日、街の空気が違っていた。重苦しく、不穏な気配が漂っている。美月は黒のタクティカルウェアに身を包み、分析装置を装着していた。体にフィットしたデザインで、動きやすさを重視している。


「来るね」


 ひなたが呟く。すでに変身しており、魔法少女の衣装が朝日に輝いていた。


「ええ、間違いない」


 美月が分析装置を確認する。数値が異常を示していた。手が震え、何度も画面を拭った。


 協会から緊急招集がかかる。全魔法少女が集まり、最終確認が行われた。皆、戦闘服や魔法少女衣装を身に着けており、緊張感が漂っている。


「皆さん、準備はいいですか?」


 支部長の問いに、全員が頷く。


「では、配置についてください」


 それぞれが指定された場所へ向かう。美月とひなたは、市街地中心部の担当だった。移動中、ひなたの魔法少女衣装のスカートが風で何度もめくれ上がる。


「みつきち」


「何?」


「愛してる」


 突然の告白に、美月は目を見開く。立ち止まり、ひなたを見つめた。


「どうしたの、急に」


「だって、もしかしたら……」


 ひなたの目に涙が浮かぶ。震える手で、スカートの裾を握りしめていた。


「縁起でもないこと言わない」


 美月がひなたの頬を両手で包む。タクティカルグローブ越しでも、ひなたの温もりが伝わってきた。


「必ず生きて帰る。二人でね」


「うん」


 ひなたが涙を拭う。その拍子に、魔法少女衣装の肩紐がずれた。


「ごめん、弱気になっちゃった」


「いいのよ。でも、戦いが終わったら、ちゃんと返事するから」


「え?」


 ひなたが驚いて美月を見る。


「今は集中して」


 美月が微笑む。タクティカルウェアの胸元で、ペンダントが微かに光っていた。


 二人は手を繋いで、配置場所へ向かう。繋いだ手は汗ばんでいたが、どちらも離そうとしなかった。


 空が暗くなり始めた。嵐の前の静けさ。風が強くなり、ひなたのスカートと美月の髪が激しく揺れる。


 美月は改めてひなたを見つめた。ピンクと白の魔法少女衣装は、戦いの準備が整っていることを示している。露出した肩や太ももに、決意の汗が光っていた。


「ひなた」


「なに?」


「あなたと一緒に戦えて、本当に良かった」


 美月の言葉に、ひなたは涙ぐみながら微笑んだ。


「私も! みつきちと出会えて、本当に幸せ」


 二人は最後にもう一度、強く手を握り合った。


 決戦の時は、もうすぐそこまで迫っていた。

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才能を失った最強魔法少女が、かつての後輩に「ざぁこ♡」と煽られながらサポート役から再起を目指す もこもこ @mokomokotanuki

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