三十一刀目 俺が殺した

翌朝、ニュースが放送されているラジオを聞く。


『昨日、午前九時頃……』


と、ラジオの直ぐ側に立っていた冬和がラジオを止める。

なんで止めちゃうんだろうか。

聞いてたかったのに。

ラジオに手を伸ばすと、カナさんからの声が飛んでくる。


「今聞くとは辞めとけ」


「なんで聞かないほうが……」


「なんでんだ」


なんでもだって言われても……。


「そんなこと言われたら気になるって……」


カナさんは少し眉をひそめ、でも声色はいつものままで言った。


「聞きたかなら聞きぃ。後悔したっちゃ知らんけんね」


ラジオで後悔も何もないとは思うけど。

俺は、ポチッと電源ボタンを押す。


『……繰り返し放送いたします。昨日、午前九時頃、船橋市湊町で強盗事件が発生しました。強盗は民家を狙ったようで、住んでいた60代の女性1名と男性1名が殺害された模様です。警察によりますと……』


……ここまでは、よかった。

ここからだ。

カナさんや冬和が、必死で俺にラジオを聴かせないようにしていた理由は。

次の言葉を聞いて、俺の顔から一気に血の気が引き、背筋が凍りつくように冷えていく。




『大気中の、通称「和の魔法」の魔力が薄れていたからでは、とのことです』




……


俺のせいで、人が

もう、戻らない命だ。


―――――俺が、




思考が一瞬止まり、一気に猛烈な吐き気が襲ってきた。

……気持ち悪い。

……俺が。俺のせいで。

人が犠牲になって。

帰らぬ人になって。


嫌だった。―――やってしまった。

やりたくなった。―――結局は……。


俺のせいじゃ……いや、俺のせいだ。

俺が悪い。

俺が殺した。

人を、殺した。

しかも、2人も。

思考がぐるぐる回って、一向に進もうとしない。

認めたくなかった。

認めなくてはいけなかった。

やりたくはなかった。

でも、もう、失ったものは戻ってはこない。


一瞬思考が止まって、一気に、強い吐き気が襲ってくる。

……気持ち悪い。

頭が痛い。


「大和、落ち着け」


俺は浅く、速い呼吸を繰り返す。

この状況で、落ち着け?

自分が人を殺したことに気づいた人に言う言葉か?

落ち着けるわけないだろ。

自分が、冬和たちの話を聞かないで勝手に行動した結果こうなったんだよ!?


「大和!」


俺はビクッと小さく震える。


「……お前のせいじゃ、ないから」


「でも、俺が体調治そうとしなかったから……!」


「一度黙れ。……お前は何も悪くない。わかったな?まだ病み上がりだ、症状が戻ってくる可能性がある。せめて横になっとけ」


俺は、何も言えなかった。

何も言えず、よろよろと立ち上がり、寝室へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る