BODY × SOUL ~ポンコツ魔法使いが恋した彼は、クールで美麗な学園長様だったはずですが!?~
糀野アオ@『落ち毒』発売中
プロローグ
至福の時間(BEFORE)
あぁ、週に一度の至福の時間……。
カーヴェル魔法学園の中でも、一番小さな教室の一番前の席――
ステラ・フェルトンは黒板に書かれる内容を機械的にノートへ書き移しながら、授業を淡々と進める教師をうっとり見つめていた。
魔法史担当のクレイグ・カーヴェル――このアルトナ王国レジカント自治領を代々治めるカーヴェル家の現当主にして、現総督。
前学園長が高齢で引退して、今年の春から孫のクレイグが新たに学園長も兼任することになった。
ステラより三つ年上の彼は、まだ十八歳だというのに立ち振る舞いは貴族のように優雅で、話し方も落ち着いていて知的だ。
右肩でゆったりと編んだ長い黒髪の横には、漆黒の瞳を際立たせる色白な肌に、目鼻立ちの整った麗しい顔。濃紺のローブをまとうすらりとした長身は、どちらかというと華奢にも見える。
にもかかわらず、彼は十五歳でこの学園に入学して、たった一年で訓練用ダンジョンの地下八十階層を単独踏破。階層主レッド・ドラゴンを倒すことで得られる『魔導師』の称号を史上最年少で獲得した天才魔法使いでもある。
正直、ステラの人生において、ここまですべてが完璧にそろった男性は見たことがない。
半年前の入学式、新学園長として壇上であいさつをするクレイグを初めて目にして、ステラはすとんと恋に落ちた。
そんな完璧を絵に描いたようなクレイグに対してステラはというと、レジカントの下町にある料理店の娘というド庶民。
平凡な顔立ちに、国民の大半と同じ亜麻色の髪。あえて自分のチャームポイントを挙げろと言われたら、せいぜいトレードマークのポニーテールと、若草色の瞳くらいか。
魔法使いとしての才能はといえば、この学園に入学できたこと自体が奇跡に近い。
カーヴェル魔法学園は才能ある魔法使いを集め、人類を脅かす魔物を倒すエリートを育成する教育機関。十五歳以上で魔法適性を持っていれば誰でも受験できるが、毎年百人の募集定員に対して、受験者はおよそ五十倍という狭き門になっている。
そんな学園に合格して万々歳のステラだったが、待っていたのは厳しい格差社会だった。
各学年AからEクラスまであって、魔力量・攻撃力・防御力など、魔法使いとして必要な能力を数値化したもの――
ステラが所属するのは最低ランクのEクラスで、その中でも最低ステータスを誇る。
つまり、すれすれの最下位で合格できただけだった。
もう何度学園をやめようと思ったか。
講義で魔法の理論や構造を学ぶことは楽しい。しかし、魔法による戦闘を想定した実技の授業となると、己の力のなさに毎度毎度打ちひしがれる。
同じEクラスの学生からも嘲笑を浴びせかけられる始末だ。
『あれでよく入学できたな』と。
それでも学園をやめるという決断にまで至らなかったのは、週に一度この魔法史の授業があったから。
クレイグが忙しい総督職と学園長職の合間に、唯一担当しているこの授業。それを知って、ステラは迷わず選択科目の一つとして選んだ。
魔法の実践を主とする学園において、
『寝ていても単位が取れる』という噂通り、とりあえず進級用の単位を稼ぎたい学生が取る科目。実際、ステラ以外の学生のほとんどは、机に伏してお休み中だ。
もっともステラも、授業の内容は頭半分、残りはクレイグの麗しい姿で満たしている。
ああもう、どうしてみんなクレイグ先生に興味がないの? こんなに素敵なのに。
『人形みたいに整い過ぎていて、逆に気味が悪い』――というのが一番の理由らしい。
確かにステラもクレイグが表情を崩したところを見たことがないので、『人形みたい』というのは同意するところ。
『そこがクールでいいんじゃないの!』という好みが、他の人とは相容れないだけだ。
あたしからすれば、ライバルは少ないに越したことはないんだから、ちょうどいいんだけどね。
とはいえ、クレイグとのつながりはこの魔法史の授業だけで、入学式以来、ただ見ていることしかできなかった。
うん、見てるだけでも幸せなんだけど!
そんな日々も今日の授業を最後に終わる。
来週の試験期間の後は、半年間のダンジョン実習。ほとんどの時間をダンジョン内で過ごすことになる。来年になるまで、クレイグに会う機会はないだろう。
わざと単位を落として、来年も履修させてもらおうかな。
そんな不届きなことを考えてしまうくらいに、ステラがこの学園に通う理由はクレイグ以外になかった。
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