第48話
「そこで、まず相談をしたいと思ってな。貴重な鉱石であり、大事にされているという話も聞いていてな。……嫌なら無理にというか、強制はできないというか、強制したら国……というか色々崩壊しそうというか」
リオクルはどんどん歯切れが悪くなっていく。ティラノベヒモスとは別に、何か怯える存在がいるかのようなほどの言い方にダリウスは少し疑問を抱いていたが、
「別に構いませんが」
「え? ……か、構わないのか? なぜだ? 大事な鉱石ではなかったのか? クリスタリウムはいずれ、一流になったときに加工したいとルナ殿から聞いていたが――」
「そうですね。……ですが、求められているときに使ってあげた方があの子のためになると思います。……それに、アリアたちも関わるんですよね?」
「……そう、ですが」
「親として、彼女たちを守るために協力できることがあるのなら、なんでもしたいんです」
ダリウスが微笑むと、驚いたようにリオクルは目を見開いていた。
ただ、ダリウスとしてはそれが本心だった。
問題は、クリスタリウム鉱石が満足できるほどの腕を今の自分が持っているのか。その一点に過ぎなかった。
「それは……そうかもしれないが……ほ、本当にいいのか?」
「ええ。大事な鉱石ではありますが……ルナが相談に乗ってくれていたり、バルドゥスさんやアルドさんもいますし……あなたが不必要なことにクリスタリウムを使うためにここに来たとは思っていませんので」
ダリウスがそういうと、リオクルは少し驚いたようにしながら、少し照れたように頭をかいていた。
「……それは……そこまで信頼してくれるのは嬉しいが少し照れるな」
リオクルが少し照れくさそうに苦笑していた。
その彼の表情に、ダリウスも同じように微笑んだ。
最初見た時は厳格な人かと思っていたダリウスだったが、彼は思った以上に接しやすい人だ。
「とりあえず……ティラノベヒモスについて詳しい話を聞かせてもらってもいいでしょうか? 敵が敵ですし、しっかりと対策したいです」
「ああ、もちろんだ」
未だ照れていたリオクルへと問いかけ、話を進めていく。
リオクルから聞いた内容は、アルドリアン王国に関連する話だった。
ソフィアとヴェリエの活躍によって、王国の一部の結界が再生したこと。また、今度は首都を奪還するため、ティラノベヒモスの討伐が必要になるかもしれないということ。
また、ティラノベヒモスは伝承によればクリスタリウム鉱石を用いた武器を使ってまずは展開される障壁を破壊する必要があることなど。
それらの話を聞き終えたダリウスは、静かに頷いた。
「今俺が持っているクリスタリウム鉱石は、本当にごくわずかです。たぶん、それだけだと……量が足りない可能性もあります」
「……そう、か」
リオクルの表情が、僅かに曇る。
だが、ダリウスはすぐ言葉を続ける。
「ですが……一つだけ、試せる手があります。クリスタリウムと似た波長をもつ魔石を用いて、うまく適合させて加工すれば……短剣程度ならば作れると思います」
「……しかして、適合というのは……確か鍛冶師の中でもかなり技術のいるものではなかったか? 私も、少し鍛冶の本などを読んだことはあるが、そこらの鉱石でさえもかさましするのは難しい中で、ましてやクリスタリウム鉱石ともなれば……」
その難易度は計り知れない、とリオクルは言いたいのだろう。
確かに、口で言うほど簡単な作業ではない。異なる素材の魔力波長を完全に同調させ、一つの武具として練り上げるなど神経をすり減らすほどの作業だ。
一歩間違えれば、加工のために使った魔石がダメになる。それだけならばまだいいが、クリスタリウム鉱石を傷つける可能性だってある。
それでも、すでにダリウスの脳内にはクリスタリウム鉱石を加工するための思考が巡っていた。
(ティラノベヒモスは、クリスタリウム鉱石が持つ魔力でないと障壁を破壊できない。どのように加工していくか? いつものように溶かして混ぜ合わせるか……あるいはクリスタリウム鉱石で作った芯を覆うようにしていって……いやそれとも――)
貴重な鉱石であることは確かだ。失えば、もう二度とお目にかかれない可能性もある。
ただ今のダリウスにはそんな不安などはなかった。
未知の素材と、未知の領域へと踏み込むことへの純粋な高揚感。
今はそれしかなかった。
これまで繰り返してきた反復しての鍛冶とは違う。
挑戦だ。
全てが手探り。まさに、初めて鍛冶をしたときのようなワクワクとドキドキで溢れ、ダリウスの体は感動によって震えていた。
(……後がない、この極限の状況で向き合うからこそ、見えてくる新しい境地があるはずだ。新しい素材、新しい挑戦……ああ、早く始めよう。この熱を、クリスタリウム鉱石にぶつけ、まずは素材たちの声を聞きたい)
ダリウスは大きく深呼吸をして、丁寧に声をかける。
「時間もあまりないのでしょう。早速、作業に入らせてもらいます」
ダリウスはすでに三人の返事など耳には届いていなかった。
今はただ、クリスタリウム鉱石に全神経を向けていたかったから。
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