第27話
ルナは、駆け寄りたい気持ちを抑え、冷静に育ての親の姿を観察した。
最後に会った時から何も変わっていない。
けれど、魔力の流れを視ることができるルナの目には、明らかだった。彼の内に渦巻く魔力の総量は、会うたびに増している。
その力は、もはや並の冒険者を遥かに凌駕する領域に達していた。
それを見て、ルナは思わず口元が緩んだ。
(……私も、負けていられないわね)
静かな対抗心を胸に灯す。
この偉大すぎる父親に、いつか追いつき、そして隣に並べるように。
ダリウスは、背負っていた巨大な金属塊をどさりと地面に下ろすと、ふと思い出したように言った。
「そういえば、この間アリアも来たんだぞ。バルドゥスさんって元騎士団長の人と一緒にな」
「みたいね。あの子……いつまでも親離れできないものだから。迷惑をかけたんじゃない?」
まったく、自分がしっかりしないと。
ルナはそんな気持ちを込めたため息をつき、やれやれと肩をすくめてみせた。
ダリウスはあまり気にした様子はなく、いつもの朗らかな笑みを浮かべる。
「まあ、ちょっと子どもっぽすぎるかもしれないが……俺としては、皆が会いに来てくれるのは嬉しいけどな」
「ダメよ、あまり甘やかしすぎたら。アリアも、それにソフィアのためにもならないわよ?」
ダリウスは「そっかそっか」と笑い、それからその大きな手を伸ばし、ぽん、とルナの頭に置いた。
「とにかく、お帰りなルナ。わざわざ、会いに来てくれてありがとな。嬉しいよ」
「……もう」
(嬉しい……! ダリウスさんの手だ。大きくて、ガサガサしてて優しくて……い、今は堪能している場合じゃないわ! しっかりしなさい、私……!)
優しく撫でてくるダリウスの大きな掌の感触に、ルナの頬は恥ずかしさと嬉しさで熱くなり、俯いていた。
そんな心中を知ってか知らずか、ダリウスは話を続ける。
「そうだ、ダンジョンに行ってたんだが、魔石の質はかなりよくてな。今回のダンジョンは当たりかもな」
「そうなのね」
「他にも素材もいくつか珍しいものがあってな……っ」
そう言って目を輝かせる彼は、やはり根っからの魔導鍛冶師なのだろう。
「その話はまた後で聞くわ。今日は紹介したい人がいるの」
「……紹介したい人?」
ダリウスは一瞬身構えるようにしてから、ルナの後ろにいた男性へと視線を向ける。
「……そちらの方か? ……えーと、お二人はどういう関係で?」
「こちらはアルド・ヴィンセントさんという方よ」
ルナが紹介すると、アルドは一歩前に出て、自ら深々と頭を下げた。
「はじめましてになります、ダリウス殿。今紹介にあったように、私はアルド・ヴィンセントといって……単刀直入に申し上げると、私にも杖を作ってほしいと思って、こちらまで案内していただきました」
「……杖を?」
ダリウスはその言葉を聞いて、ほっとしたように息を吐いていた。
(ダリウスさん、今の安堵って……何か最初勘違いしていたようね? 何かしら?)
ルナは首を傾げながら、そんなダリウスとアルドの様子を眺めていた。
「ええ。先日、ルナ院長が手にされていた杖を拝見し、感銘を受けました。……どうか、私のためにも、一本、魔導杖を打ってはいただけないでしょうか?」
「なるほど……そういうことでしたか」
ダリウスが少し考える素振りを見せたので、ルナは補足するように口を開いた。
「簡単に言うのなら、以前アリアがバルドゥスさんを連れてきたでしょう? あのような形で、紹介を頼まれたのよ」
「なるほどな……でも、俺の作ったもので、本当にいいのか?」
「ダリウスさんのものだから、いいのよ」
迷いなく言い切る。
この世界に、ダリウスのそれを超えるほどのものがあるはずがない。
ルナのそんな信頼の言葉をぶつけると、ダリウスは照れ臭そうに頭を掻いていた。
「そうか。……魔導杖なら、最近色々と試作しているからな。その中に気に入ったものがあれば持って行ってくれていいぞ?」
「最近? そうなの? でも、確かダリウスさんってよく武器を作っていたわよね?」
「まあな。でも、もしもルナに新しいものを作ってくれと頼まれたときに、恥ずかしいものを作るわけにはいかないからな」
「ふぅん……そうなのね」
(私のために!? 新しい杖を!? なんてこと! ダリウスさん、私のことをそんなに気にかけて……! 嬉しい! さすがダリウスさん! 最高!)
ルナはあくまで冷静に、しかし少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「そう。ダリウスさんは、本当に勉強熱心ね」
「まあ、娘たちが頑張っているのに、負けるわけにはいかないからな。それで、アルドさん。一から作るのもいいけど、まずは倉庫にいくつか試作品があって……バルドゥスさんも、そこから自分に合うのを見つけていったから、そちらを見に行ってみますか?」
「……是非。見せていただけるのであれば、お願いしたい」
「ええ、それじゃあどうぞ。こちらへ」
そうして二人が案内されたのは、工房の隣に最近増設された建物だった。
どうやら、杖などはこちらに保管するようにしたようで、綺麗に、とまではいかないが整理されていた。
そんな室内を見て、ルナとしては感心していた。
「ダリウスさんが整理整頓するなんて……珍しいわね」
「さすがに、俺の生活できる空間が減ってきたもんでな。皆が遊びに来たときに困ると思ってな」
その言葉に、ルナの胸が少しだけ温かくなる。
ダリウスが離れの扉を開け、中へと足を踏み入れた。
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