アラフォー魔導鍛冶師の辺境籠り ~英雄になった娘たちが使う俺の武具が伝説扱いされてる~
木嶋隆太
第1話
ダリウスの人生は、良く言えば自由奔放、悪く言えば無計画なものだった。
始まりは、幼い頃に偶然見た街の魔導鍛冶師が汗水流して鉄を打ち、見事な剣を鍛え上げる姿。その力強さと美しい道具を生み出す魔法のような技術に、まだ幼かったダリウスの心は鷲掴みにされた。
『俺もいつか、あんな風に凄いもんを作れる魔導鍛冶師になりてぇなぁ……』
その一心で、彼は魔導鍛冶師の世界へと飛び込んだ彼は……その現実に愕然としていた。
鍛冶ギルドの掟は厳しく、一人前の魔導鍛冶師になるには気の遠くなるような下積み期間が必要だった。
おまけに、新しい技術や自由な発想はなかなか受け入れられず、古くからのやり方や組合のルールに縛られ、自我を出すことが禁止された。
工房を構えるにしても、ギルドの許可がなければ不可能だった。
弟子入りした魔導鍛冶師が、槌を握れるようになるのは十年後というのも珍しくはなく、汎用的に、一定の質のものを作り続けるように教育され、それが継承されていく鍛冶師たち。
それに、ダリウスの夢だった魔導鍛冶師の姿はなかった。
『これじゃ、俺が作りたいものなんて、いつになったら作れるんだ』。下積み時代のダリウスは、半ば諦めながら魔導鍛冶師ギルドの規則本を読み込んでいた。
そして。
全てのルールを読み終えたダリウスは、それからルールの穴をつくことを考えた。
『結界外なら、文句言うやつはいねえな。俺は俺の作りたいもんを、自由に作ってやるか』
そう決意も高らかに王都を飛び出したのが、十八歳の春だった。
「結界外」。人間たちが暮らしている場所は「結界内」であり、比較的安全に過ごすことができた。
しかし、「結界外」は治外法権の世界。すべてのルールが通用しない危険な地域だった。
凶悪な魔物が跋扈し、まともな人間ならまず近寄らない。「結界外」に行くのは、「結界内」では暮らせないような立場の者たちばかりだった。例えば、犯罪者など――。
その多くが、結界外の凶悪な魔物に命を奪われ、消息不明になるのが世の常だった。
ダリウスが言う通り、魔導鍛冶師ギルドのルールはすべて「結界内」での話。そもそも、「結界外」に関してはルールを定めたとしても守られることなんてないので、何の規定もない。
つまり、結界外で活動しようと考えるのは、短絡的で恐ろしく馬鹿なものがする発想だった。
だが、ダリウスは魔物と戦いながら、誰もいない辺境の森へとたどり着いてしまった。恐らく、この光景を見ていた者たちの多くが、魔導鍛冶師ではなく冒険者か騎士になることを勧めるだろうくらいに、ダリウスの戦闘センスは良かったのだ。
そうしてたどり着いた辺境の森に、ダリウスは工房を造り始めた。
ダリウスは満足していた。
色々と問題はあったが、ここならギルドの堅物たちも来ないし、何より、夜通し鉄を叩いても誰にも文句は言われない。
持ち前の気合で工房を建て、独学で鍛冶の腕を磨いていった。
ついでに、素材集めや護身のために、そこら辺の魔物と渡り合える程度の剣術と、火種くらいは起こせる初歩の生活魔法も身につけていった。
すべては、心ゆくまで鍛冶を楽しみ、最高の道具たちを作るためだった。
そんな自由気ままな鍛冶ライフが数年ほど過ぎたある雨上がりの日のことだ。素材探しの道すがら、森の奥深くで、ダリウスは信じられない光景を目にする。大きな木の根元に、小さな三つの影が折り重なるようにして倒れていたのだ。
「……ん? おいおい、こんなとこに子どもか?」
慌てて駆け寄ると、それはまだ五歳にも満たないであろう三人の少女たちだった。泥と雨に濡れそぼり、ひどく衰弱している。
その小さな体には、痛々しい痣や傷跡がいくつも見受けられた。まるで、魔物にでも追い立てられ、命からがら逃げてきたかのようだった。
ダリウスは、少女たちのそばに膝をつき、一番手前にいた少女の濡れた前髪を優しく払いのけた。怯えたように閉ざされた瞼が、微かに震える。
「……おじさん、だれ……?」
か細い声で、少女の一人がうっすらと目を開けた。
その瞳は不安に揺れている。
「お、おじ……!? まあ、そう見えるか……は、ははは……」
ダリウスは一瞬言葉に詰まったが、すぐに首を振る。
それから、膝をつき目線を合わせ、できる限り子どもたちを落ち着かせるため、笑顔を見せた。
「俺はダリウスっていってね。しがない鍛冶屋のおじさんで……君たちはこんな森の奥でどうしたんだ? おうちの人は一緒じゃないのか? ……何か大変なことがあったのかな?」
ダリウスはそう質問しながらも、最悪の回答が脳裏に浮かんでいた。
それでも――ただの迷子、あるいはたまたま偶然子どもたちだけでいるというわずかな可能性を考えてその問いを投げる。
「それは――私たち、捨てられたの」
「……捨てられた?」
「私たち……三つ子で……三つ子は不吉だって……村の掟、とかで……」
少女は、ダリウスの顔をじっと見つめていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。その内容はダリウスも危惧していた通り、聞くに堪えないものだった。
「……」
言葉の端々から、彼女たちがどれほど恐ろしい目に遭ってきたのかが痛いほど伝わってくる。
見捨てれば、この子たちは確実に死ぬだろう。かといって、引き取れば、ようやく手に入れた自由な鍛冶ライフは大きく変わる。
ダリウスにとって、一瞬の逡巡。
だが、彼の心はすぐに決まった。目の前の小さな命の灯火を、ここで消えさせてたまるか。
ダリウスは、壊れやすいガラス細工でも扱うかのように、そっと三人の小さな頭を撫でた。
温もりが失われかけた小さな体は、あまりにも軽く、そしてか弱かった。
「よしよし、もう大丈夫だからな」
「……え?」
「とりあえず、おじさんの家に来な。しっかり温まって、腹いっぱい飯食って、元気出すんだぞ」
(これからは、魔導鍛冶師兼お父さんとして頑張るとしようかな)
ダリウスは、三人の小さな命をしっかりと抱きしめ、決意を新たにするかのように、力強く工房へと案内していった。
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