24.アメリアの迷い

 御用邸に戻った後も、アメリアはコーネリアスの好意に迷っていた。考える時間をくれとはいったがコーネリアスの好意にどう答えればいいのかわからない。そもそも、自分は本当にコーネリアスを好いているのかだって、アメリアにはわからない。


 自室にこもり、ライティングテーブルに突っ伏したままアメリアは唸る。

 治療をする上でコーネリアスのことを知って、親しみがわかなかったわけではない。だが、それはよくある患者と仲良くなる上で感じる気持ちの一環だと思っていた。


 だが、コーネリアスの涙をなぐさめた時から変わっていってしまったようにアメリアは感じる。普通ならしないような膝枕を許したこと、そうやってコーネリアスを甘えさせていたことは、ただの治療以外の意味も持っている気がしたのだ。

 世話焼きだから、という生来の資質があったとしても、自分の懐に入れるまでコーネリアスを許していた。そうさせた気持ちを、アメリアはまだうまく飲み込めない。


「どうしたらいいんだろ……」


 呟くも答えるものはいない。こういうときルルは話し相手になるより一人で過ごすよう距離をとることが多い。それがルルなりの優しさだし、接し方でもあった。

 大事なことはまず自分で納得いくまで考えてから、そうルルに教えたのはアメリアだ。それが今自分に返ってきていることに苦笑しアメリアはため息をつく。


 こういうとは一人で考えるより、誰かと話せたのなら幾分か気持ちも落ち着くだろう。でも、それができない今はただただ気持ちを抱えることが重く感じられて窮屈だった。

 息が苦しくなるような気持ちなのに、コーネリアスのことを考えると嬉しくなって、口元が綻んでしまう。相反する体と気持ちの反応にアメリアはいつになく不安になっていた。


「好きって言われたってさ……勘違いだったら損なだけじゃない」


 コーネリアスに対しても、自分に対しても。

 ――いいよな魔女様は。自分のいいように好き勝手できるんだから。

 ずっと昔に言われた言葉が、ちくりとアメリアを刺す。


「力があったって好き勝手できるわけじゃないわよ」


 そう呟いて、アメリアはため息をつく。自分の感情に振り回されるのはこれで二度目だ。


 一度目は十年前、二度目は今回のコーネリアスの告白。

 一度目はあまりいい気分にはならなかったが、今度は嬉しく感じる自分がいるだけに質が悪い。国王たちはどうだか知らないが、少なくともオリバーやコーネリアスの周りの人間はこれを微笑ましく思っている。だから余計に居心地が悪い。

 だってそうだろう、まるで自分の力で王子をたぶらかしたように捉えられるのだから。似たようなことで十年前に苦い思いをしたアメリアは、またそう勘違いされるのも恐れていた。


 目立って槍玉にあげられると、義憤の拳で散々殴られる。自分が正しいと思っている人間ほど、その暴力に気づかないものだ。間違っているのならたとえ骨を砕いて二度と歩けなくしたとしても悪びれない。

 人間のそういう性を知っているから、アメリアはコーネリアスの好意を受け入れた後が怖くて仕方がない。

 逃げていると言うのならそれもそうだろう。自分の気持ちを飲み下したとして、その後を考えると足がすくんでしまう。


「怖いだけなのかな、私……」


 かつて紅の魔女として活躍したとは思えないほど、今のアメリアは弱気になっていた。自分の気持ちの整理に少し時間はかかるが、おそらく自分なりに答えが出せるだろう。それでも、一歩を踏み出せない。

 きっと自分はコーネリアスが好きだ。心をまさぐっていた指先が本音に引っかかる。本音の糸を指に引っかけたまま、アメリアはそれをたぐりよせられない。あと一歩、勇気を振り絞れない。


「ほんっと、めんどくさい……」


 テーブルに突っ伏したまま、アメリアは悩む。

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