23.コーネリアスの告白
好きだ、とコーネリアスに伝えられた。そのくらいはアメリアもわかっている。わかっているから、自分はどうなのか上手く答えられない。
最初は話を聞いて知ろうとしたことが始まりだった。そこからなし崩し的に親しくなって、気付けば抜き差しならない関係になっている。
「コーネリアス様が甘えられるから、好きなのでしょうか」
コーネリアスが好きと言ったのは今こうして甘えられることからくる勘違いかもしれない。アメリアはまずそこを聞いた。
だが、コーネリアスはかぶりを振る。
「いや、そのような都合のいい好意ではないと私は思っている。確かにあなたに甘えるのは心地よい。だが、それだけが好意の理由ではない」
「では、一体……?」
「あなたは、初めて私を私として見てくれた。接してくれた。王子でも騎士でもなく、一個人として。それが何より嬉しく思ったのだ。それに」
「それに?」
アメリアが促すと、はにかみながらコーネリアスは答える。
「私のためを思って叱ってくれた。それが何よりも心に響いたのだ」
リムネアに来た当初、コーネリアスがあまりに卑屈になっているから叱り飛ばしたことをアメリアは思い出した。あの時は苛立ちから思ったことを言い放ってしまったが、まさかこんな風に感謝されるとはアメリアは思ってもみなかった。
「だから、私はあなたのことをもっと知りたい。あなたがどんなことを考え、思い、何を見ているのか知りたい」
「コーネリアス様……」
アメリアは先ほどまでコーネリアスを撫でていた手を所在なさそうに握る。こうもまっすぐに好意を向けられて、アメリアは初めて戸惑っていた。
普段なら勘違いだとか、面白い冗談だとか笑い飛ばせるのがアメリアだ。しかしそれを真っ向から言えなくしているのは、アメリアも似たような感情を抱いているからだ。
コーネリアスの言葉にアメリアは返事をすることができない。コーネリアスはこうも自分の気持ちをはっきり言えるようになったというのに自分はまるでそんなことができていないことにアメリアは恥ずかしくなった。
「アメリア。どうか、応えてくれないか」
「私は……」
どう答えればいいのだろう。小川の流れる涼やかな音だって今のアメリアには急かすように聞こえる。視線をコーネリアスに向けられない。まっすぐ見つめてくる眼差しに答えられるほど、今の自分は立派ではない。そうアメリアは思った。
アメリアは目を伏せてかぶりを振る。
「少し、考える時間をください」
それだけ言って立ち上がると、アメリアはオリバーと護衛を呼びに足早にコーネリアスの前を辞してしまった。
「アメリア……」
コーネリアスは離れていくアメリアの背中を見つめ、名前を口からこぼした。
小川の音だけが静かに響き、そよ風は変わらぬ優しさで頬を撫でていく。
だというのに、コーネリアスはひどく冷たく寂しい気持ちにさらされているようにも感じた。
「殿下」
そんなコーネリアスの元へ、オリバーが歩み寄ってくる。
オリバーは一人小川のほとりに佇むコーネリアスの元へ行くと、名残惜しげにアメリアを見つめる瞳に話しかけた。
「アメリア嬢に何かあったのか?」
「いや……自分の気持ちを伝えたのだが、待ってほしいと」
大体の事情を察したオリバーはコーネリアスの肩を叩いて言った。
「なら、待つしかないな。待つのも大事なことだぜ?」
「そうだといいのだが……」
コーネリアスは護衛に連れられて去って行くアメリアを見ながら、そっと呟いた。
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