第6回 希望を奪っているのは、“表”か、“陰”か”(後)
続、前回の続きです。
“クビ”宣告をされた数日後。一度しか着なかったユニフォームや名札を持って、約1ヶ月ぶりの職場へ行きました。
だいぶ緊張していて、日傘をぎゅっと握り締め、強張る身体で向かいました。
ホテルの従業員用口で、やはり1ヶ月ぶりに顔を合わせた上司に、震えた手で一式を入れた紙袋を渡し、無言で頭を下げてさよならしました。
この時上司からは、「ありがとうございます」か「お疲れさまでした」か、何か一言だけあったんですが、病気を心配する言葉はありませんでした。
その日はクリニックにも行く日だったので、その後に行きました。
先生に、この1ヶ月のあいだにあったことを話していた時、また無意識に手が震え出しました。クビ宣告をされるまでのことを話している間、恐らく2分〜3分くらい、ずっと震えは止まりませんでした。
私に震えの症状があることを初めて伝えたので、先生は前回と違う薬を処方してくれました。
「不安症」なのか訊くつもりでしたが、それどころじゃなくなってすっかり忘れてました。
仕事のことを考えるたびに震えが出ていましたが、新しい薬のおかげで、徐々に収まっていきました。
そのまた1ヶ月後に行った時に、先生に「前のような『適応障害』なのか、それとも別の疾患なのか」と訊くと、「不安障害の一つ」だと言われました。「不安症」と言っても多種あるので、どれに当て嵌まるのかは名言されませんでしたが、これで自分が「不安症」であることははっきりしました。
先生が病名を名言しないのは、私が出来事を事細かに言わないせいもあるんですかね? でも、先生が詳細を訊いてこないのは、説明したいのにうまく言葉が出ないのを見て、やっぱり気遣ってくれているのかも。
抑うつに、身体表現性障害に、適応障害。そして今度は、不安症……。精神疾患をコンプリートするつもりか、私は。
……というのは冗談でありたいですが。
「不安症」と聞いて、原因とかいろいろと考えました。
自分で勝手に不安を作ってしまっているのかな、とか。
今は仕事に対して自己肯定感がかなり低くなっている状態で、慢性的な不安感があって、社会の役に立たない人間なんだとか思ってて、職場では何もなかったのに、漠然とした感情が原因で急な不安に襲われたのかな、とか。
なんでこんなに心が弱ってしまったんだろう、とか。
自分の気持ちは自分次第で、「自分は大丈夫」だと揺るぎなく思えれば不安はなくなるんだろうな、とか。
誰かに相談できたらいいけど、でも誰に相談したらいいんだろう。大人になってからは自分のことは基本的に自分一人で解決してきたから、家族にすらどう切り出したらいいのかわからないし、躊躇うな……とか。
“困ったら誰かに頼れる自分”というのを、作らないといけないんだろうか。
でも、今から変われるんだろうか。
でもそうすれば、不安も嫌なことも話せて、心も健康を取り戻して、普通に働けるようにはなるんだろうか。
こんな生活になってから、こんな自問自答ばかりです。
自分から続けるのを諦めたり、理解されないから仕事を辞めて。バレたら、会社の判断を已む無く飲んで。そしてまた、すぐに辞めるかもしれない仕事を探す。
探すけど、それは不安と恐れを伴う作業で。採用されても隠さなきゃいけなくて。働き続けるために不安も恐れも心の底にギュッと押し込めて。出て来そうになっても必死に堪えて。
そうやっていかないと、仕事は続けられない。でも、そうしてまた、精神を病む。
結局は、今のままでは負のスパイラルが続くだけなんです。
自分を変えようとしない私が悪いんだろうか。
本当の私を拒む社会は、本当は悪くないんだろうか。
負のスパイラルを作ってる私が、一方的に悪いんだろうか……。
だけど、今の私が頼れるものは、社会の中にはあまりにも少な過ぎる。そう感じるのも本音です。
私は「精神障害者保健福祉手帳」の取得を望んでいます。以前書いたように、それは、普通の社会と線引きされる可能性があることは、承知しています。
それは、“表”で生活する人間の皮を被りながら、“陰”で生きることのようにも思えます。
私はまだ、手帳取得者の働き方や生活がどういうものかは知りません。クリニックの先生から聞いたことは、「一般より時給が下がる」。「手帳を取得しても普通の会社で働く選択はできる」。そして、「必ずしも手帳を持っていることを会社に言う必要はない」と言っていました。
でも確か、確定申告の時にはバレると言ってたと思います。そうなると、“表”で生活する人間の皮を被っていても、会社からは「要注意人物」というレッテルを貼られてしまうんでしょうか……。
今の私には、普通の会社で働ける自信は10%程度。この胸に巣くっている漠然とした不安と恐れをどうにかしないと、“陰”で働くことすらままならなくなりそうです。
とりあえず今は、薬に頼った治療を続けるしかありません。
このエピソードは今回で終わりです。長々とすみませんでした。
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