第1話 スラム育ちの聖女・後編
「全く、なんだかなあ」
朝焼けに似た橙色の髪をぐしゃりとかき上げ、セラフィナは疲れ切った溜め息を吐いた。
結局あれからたっぷりとフスティシアに「スラム育ちはこれだから」と嫌味を言われ続けたのである。
「確かに汚い言葉を叫んだ私が悪いんだけどさあ、何もあそこまで言わなくても……」
「フスティシア様はフォー様の一人娘ですから聖女には並々ならぬ理想がおありなのでしょう」
フォー様、とは神殿の管理者の名前である。神殿の清掃や人員の管理、経理など実務的なことは全てフォー氏が取り仕切っている。偉い人だ。
「文句があるならリリジェン様に言ってよ……」
対してセラフィナは、神殿長リリジェンが神託があったと言ってスラムから連れて来た少女だ。リリジェンは先代聖女で今も神殿内どころか国中の祭祀全般を取り仕切っている。当然偉い人だ。
「フォー様はどうしてもフスティシア様を聖女になさりたいんでしょう」
「でも残念ながらフスティシア様は『聖女の力』を宿していない……聖女は祈ることにより『聖女の力』で国の守護神に力を与えることができたり、逆に聖女が守護神の力を借りることができる」
「でも、その力がないのでフスティシア様は聖女にはなれないのですね」
「うん。でもこの国で『聖女の力』を信じる人はもう少なくなってきてるから」
フスティシアだけではなく、この国の大半は魔術に必要な魔力とはまた違う「聖女の力」なる存在を信じる者は少なかった。
そのため「聖女」とは彼らにとっては国教のシンボルでしかないのである。
「セラフィナ様が『聖女の力』をお持ちであったとしても、それを知覚することが出来ないのであれば、フスティシア様たちにとっては無いのと同じ」
「そう、そこなの」
だからフォーもフスティシアもスラム街から拾われたセラフィナが聖女と認めていない。高位神官の娘、つまりフスティシアこそが聖女に相応しいと主張している。
「セラフィナ様が頑張ってらっしゃることは皆知っています」
セラフィナの後ろにいたユネが慰めの声をかける。
金髪碧眼のユネは隣国の戦乱から命からがら逃れてきた難民だった。年端もいかない少女が生きるために武術を学び、今ではこうして聖女の侍女兼護衛を任されている。
「私の立場であれば本来聖女の護衛など務めさせてもらえません」
ユネが自嘲気味に笑う。彼女も後ろ盾はない。本来であれば国の象徴たる聖女には国軍から生え抜きのエリートを護衛をつけるはずだ。
だがスラム育ちの聖女には難民上がりの護衛が相応しかろうと、フスティシアの父がユネを任命したのである。
「こーらユネ、そんなこと言わない」
振り返ったセラフィナがむにりとユネの頬を軽く突く。
「リリジェン様がもうすぐファミリーネームをくださるんでしょう? そしたら正式に国から任命された聖女騎士になれるのよね?」
「ええ……まあ」
「それはユネが頑張ったからよ、もっと堂々として」
セラフィナもユネも誇れる血統などない。だが彼女たちは真面目で人の何倍も努力して働いている。
そんな二人の姿勢が人々に真っ当に評価され、今では表立って批判してくるものはフォー氏とフスティシアの父娘しかいなかった。
「……ふふっありがとうございます」
「それはそうとファミリーネームがもし決まってなかったら『ブライトン』にしてよ」
「そんな! セラフィナ様と同じファミリーネームなんて畏れ多いです!」
「いいじゃないの、そしたら私がお姉さんでユネが妹ね」
「そんな……!」
困り顔のユネにセラフィナはケラケラと快活に笑う。
そんな折、優しそうな声がセラフィナの耳に届いた。
「何やら楽しそうな声が聞こえてくるね」
⭐︎⭐︎⭐︎あとがき⭐︎⭐︎⭐︎
お読みくださりありがとうございます!
毎日前後編で更新予定です。
面白いと思ってくださった方、続きが少しでも気になると思ってくださった方は⭐︎評価、フォローをしていただけたら嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます