第4話
「敗者の人材派遣ね……さっきも言っていた合法的な国で人身売買ってやつか……」
ミョウゴの二つ名について追及する。彼は素直に自らの過去を自白する。
「うん。そうだよー……一発逆転を狙った犯罪者が出場することがあるからね。そういう文句を言われない実力者を狙って売るのさ」
「うわっ…悪質……」
「治安維持に貢献しているんだから褒めてくれてもいいじゃないか」
「犯罪者を警察に案内したら褒めるわよ」
「それじゃあお金は貰えないんだ」
物騒な会話をするミョウゴとアキ。ヒロトは先のことを話題に出す。
「これからはどうする。このまま解散か?」
「それでいいよ。ただ新しい情報を仕入れたら連絡してくれ。互いに交換会をしようじゃないか」
「分かった」
同盟関係は結ばずに緩い協力関係で別れることにした3人。アキとヒロトは同じ道を歩く。
「しっかし、厄介ね。海外の俳優とファンの連合だなんて」
「そこら辺も含めて情報の裏どりと基本的なルールをしらなきゃな」
「あら?あんたに教えてなかったっけ?」
きょとんとするアキ。彼女の中ではルール説明は済んでいたという認識だったようだ。
「しっかりとは聞いてないさ。参加申し込みもしてないし」
「してるわよ。さっきミョウゴと話していた町があったでしょ?あそこは『参戦の町』って言ってね…入るだけでイベントに参加することになるのよ。私みたいに途中でリタイアすることもできるけどね」
イベントの参加者を増やすことを目的としたシステムであり、町の中で襲い掛かることも良しとされているようだ。
「だからミョウゴと出会う前は襲われまくったのか」
「ええ、あいつが安全な場所に誘導していなかったら、今も忙しかったでしょうね」
先ほど別れた裏世界の住人のことを思い浮かべながら、これからのことを考える。
「とりあえず今は生き残ることを考えればいいんだよな」
「ええ、マッチングフェスは予選と本戦の2つがあって、今は予選だけどやることは変わらない。生き残ればいいのよ!!」
なんでも予選の生存者が100人になれば強制的に始まるらしい。
「じゃあ、隠れたら本戦には出場できるな!」
「そうだけど、決められたエリアを出ないでよ。強制失格になるから」
「分かった。気を付ける」
ヒロトはその言葉を最後に一度自宅に戻る。いなければならない時間帯に滞在し、生き残り続ける。彼らの物語が進展したのはこの日から3日後だった。
「残り300人。最初に比べるとだいぶ減ったな」
「もう三日だもの…血気盛んなバカが暴れればそれだけ減るわよ」
「そういうものか」
「そういうものよ」
3日という時間が経過することによって人数が減っていく。初日は数千人が参加していることを考えると凄まじいペースだ。
「お、おい!お前らフェスの参加者か!?」
「なによ……私たちと戦うつもり?」
「戦うのは俺なんだけどな……」
勇ましく声を上げるアキにツッコミを入れるヒロト。アキは横のぼやきを無視し、目の前の男に威嚇をし続ける。
「戦うつもりはない!!護衛をしてほしいんだ!!」
「護衛?どういうことよ!」
マッチング&ファイトは現実世界へと戻ることができる。追いかけられても離脱した後、時間を置いて戻れば危険な状態から抜け出すことができる。
「分からねえ!ログアウトができないんだ!!」
「ログアウトができないってアニメじゃないんだからありえないでしょ!!私の画面ではできるわよ!」
「俺の画面じゃできねえんだよ!」
そう言って画面を見せてくる男。アキの代わりにヒロトが確認する。
「確かにログアウトできないな……」
「うそでしょ!?」
本当にログアウトができなくなっている男。彼の言葉には嘘偽りがなかった。
「安全な場所まででいい!守ってくれ」
「なにがあったのよ……」
「分からない…俺はサイコの首を取ってやろうとしたんだけど失敗して……その後、変な奴に襲われたんだ……」
海外の俳優として集団戦を導入した海外の俳優サイコ。彼を襲った後に漁夫の利をされたらしい。
「なによ。情けないわねー」
「しょうがないだろ!本当にタイミングが悪かったんだ。それにアイツの異様な空気……ぶっちゃけサイコ軍団全員よりもあの野郎1人の方が恐ろしいぜ」
その男曰く、襲ってきた男は見たことのない動きをしていたらしい。常人では決してあり得ない速度。自分が繰り出した攻撃は未来が見えていたかのような防御。
「その上でログアウトもできなくなっているんだぜ!?チートだろ!!」
「さあ?だったら運営に報告すればいいでしょ。私たちはそういう相手と戦ったりしないわよ」
アキとしては優勝でなくても良く、ヒロトとしても優勝は目指しているが、父の手掛かりが見つかる保証があるわけでもないので、執着しているわけではない。
「要するに私たちは戦闘狂みたいにガツガツ戦うわけじゃないの!」
「そうだとしてもヤべェんだよ!」
「はいはい。なおさら気を付けるわよ」
錯乱した様子で相手がどれほど危険なのかを伝える男。アキはもはや聞き流す姿勢を見せている。
「本当にしつこいわね。めんどくさいわ」
「一応詳しそうなやつに聞いとくか?ミョウゴとか」
「いやよ…アイツに貸しを作りたくないわ」
ヒロトの提案をにべもなく却下するアキ。彼女の様子には辟易とした様子が見て取れる。
「……だったら、知り合いに相談してみるよ」
「はいはい。個人的にやるんだったら好きにしなさいよ」
アキの返事を聞き、ヒロトは自身の端末を開く。連絡先は初めて戦った友達だ。
「おう!ロマノフだ」
「ヒロトだ。ロマノフ…フェスには参加しているか?」
「挨拶もなしに唐突だな。フェスなら参加しているぞ」
久しぶりに話したロマノフ。彼もマッチングフェスに参加しているようだ。
「話題になっている不審な奴を知らないか?なんでもチートを使っているらしい」
「なんだと…!?初耳だな。そいつのユーザー名とかは分からないのか?」
ヒロトは近くにいる男を見る。男は首を横に振る。
「分からないようだ」
「そうかい……だが、情報は貰っておくぞ。他の奴にも流すぞ」
不審者の情報を共有し、少しでも被害を最小限にするようだ。
「ああ、何か分かったら教えてくれ」
「分かっている」
手短に言葉を交わし、通話を切る。ロマノフは長話を好かないタイプなのだ。
「これで少しは情報が手に入るかもな」
「そーね。見つかるといいわね」
興味なそうなアキは歩く。男は彼女の後ろへとトボトボと付いている。
「男なのにヒヨコみたいな奴ね…シャキッとしなさいよ」
「そう言われても怖いもんは怖いだよ!」
震える体を支えながら進む男。彼の様子は徐々に深まっている。
「大丈夫なのか?さっきから震えが酷くなっているだろ」
「分からねえよ。ただ、さっきから繰り返しているんだよ。奴が襲ってきた時のことを」
「フラッシュバックしているってことか?」
脳裏に繰り返す恐怖の映像。彼の恐怖は2人が出会った時よりも強くなっているのだろう。
「どうなってるんだ?ログアウトができないだけじゃなくて、酷くなるフラッシュバック。どんな戦いをしてもこんなことにはならないだろ」
実際の戦闘を経験したヒロトはつぶやく。彼が経験した戦いには恐怖を感じる場面はあった。しかし、高揚感や闘志がわき上がる場面もあったのだ。
だからこそ、男の状態が信じることができなかった。
「あんた誰よ…」
突如として警告の声を発するアキ。彼女の視線を辿った先には何の変哲もない中肉中世の男がいた。
「……その男…渡せ」
ヒロトは僅かに驚愕の感情が生まれる。それは普通の男のような風貌とは真逆とも言える不審な言葉遣いからだった。
「なんでよ?知り合い?」
「ち、違う!アイツなんか知らない!」
男は知り合いでもない不審な人間の存在を拒絶する。その顔は恐怖に染まっている。なぜ今にも逃げそうになっているのか、彼の頭では確定しているのだろう。想像を変えることは難しい。目の前に曲者がいる状況ではなおさらだった。
「くるな……」
「こい…こっちに来い」
「くるなっていってるだろ!!」
ボロボロと震えながら後退る。合わせて奴は一歩踏み出す。歩幅は短く、距離はさほど変わっていない。まるで向こうから来るのを待っているかのようだ。
「なんでだよ!!なんで俺のことばっかり狙うんだよ!」
「……■■■■■だ」
ノイズ交じりの返事。凡人の顔から発せられる電子音。男の恐怖心は冷たくなり、指先に痛みが発しているのではないかと思うほど自らの手を握りしめ、小さく縮めている。
「はあ…は…は、は…は」
冷たくなる体とは裏腹に血流が早くなり、心臓が早くなる。彼はまともな考えをすることができなくなっていた。
「少し待て」
その視線の先に1人の少年が立った。
「……お…前は?」
「ヒロト。少しは落ち着けよ…怖がってるだろ」
「そうよそうよ!気持ち悪い」
彼女も恐ろしいと感じたからなのか遠くの物陰に隠れて喚いている。
「ヒ…ロト。よろ…しく……」
「ああ、よろしく」
凡人の仮面が剥がれ、泥の体が現れる。異臭を発しても不思議でもない濁った液体。地面に垂れると気体となって蒸気を発している。
「ひえええ……」
アキが小さな悲鳴を上げる。彼女の常識とはありえないことが男に起きているということが分かる。
「まあ…こんな場所だからな。戦ってから始まるってわけか」
戦意を示している何かに狼狽えることなく、彼は構える。
(こんな異常、運営が無視するわけがない。深く接触した俺にも調査が来るはずだ。その時に親父の場所も聞けるかもしれない)
不確定な大会の優勝よりも異常事態への対処協力。これは小さな質問の対価として十分なはずだ。
「さあ!やるぞ!!」
戦いが始まった。
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