第12話 Drink after drink
「オーナー、頼みたい事があるんだけど……」
亮二さんはオーナーに電話を掛け、相談を始めた。
「ああ、うん。そう……うん、分かった。じゃあ、そこは問題ないんだね。ああ、うん、分かった。ありがとう、オーナー。じゃあ、また後で」
オーナーの声は聞こえなかったが、亮二さんの話す様子で察する。
僕たちじゃ入れない……会員制のオーセンティック・バー。
調べてもその情報は分からなかった。
もしかしてオーナー……。
「亮二さん」
僕は、オーナーとの話を訊ねるように彼を見る。
「ああ、ユウ、じゃあ行こうか」
「行くって……」
そうは言っても察しはついている。
亮二さんは、ニヤリと笑みを見せて言った。
「今、オーナーがいるところ。オーセンティック・バー」
やっぱり。
オーナー……初めからそのつもりで僕にあの話を……。
「とは言っても、中に入れるのは難しいからラウンジ・バーに降りるってさ」
亮二さんは僕にそう言うとインカムを入れる。
「今、そっちはどんな状況?」
[妙だね。おそらく親父は、伯羽に尾けられている事に気づいてる。そう言うよりも……]
「父親が伯羽を追わせているって?」
[亮二くん、やっぱりそう気づくよね]
「まあな。俺とユウはラウンジ・バーに戻る。緋色、他に情報は?」
[親父がオーセンティック・バーの会員って事かな。今日、俺も初めて知ったけどね。知らなかった事はそれだけじゃないけど。あの依頼が入って来なければ姉だとは気づかなかっただろうし、あんな依頼が入った事で姉は事務所を辞めた。本当は親父が一番、姉に会いたかったんだろうけど、負い目もあったんだろ。離婚して数年後、母親が亡くなっていた事を後に知ったんだ。その時に姉に何もしてあげられなかったってね……そこにはまた複雑な理由もあった事だし。だからかな……俺が探偵になったのは。親父にしてみれば、再会が自然になるように伊織さんに相談したんだろうけど。伊織さんも誰がってのは伏せておきたかったんだろうしさ]
「成程ね……」
杜嵜の過去話に亮二さんは切なげに漏らした。
しんみりとする雰囲気に、杜嵜は切り替えるように声を発する。
[亮二くん、そっちに何かあるんだろ? こっちは俺たちに任せて貰っていいよ。そっち、よろしく。情報は回してよ]
「ああ、分かった」
[亮二さん、人手必要なら俺、そっち行くっスよ? ラウンジ・バーに戻るって、酒の後に酒っスか? バーに入って飲まないってあり得ないっスもんね?]
「心配するな、十分、間に合ってる。お前は緋色のパートナーだろ。終わったら圭介さんの店で、な?」
[はは。分っかりました]
「じゃあ、行くか、ユウ。オーナーが待ってる。インカムは取り敢えずストップだな。どっちみち届かないだろうし。雑音になる」
「うん、そうだね」
僕たちはインカムを外すと再びラウンジ・バーへと足を運んだ。
同日に二度来店するのは正直、気が引けたが……流石はオーナー。ラウンジ・バーの近くで僕たちを待っていてくれた事で、気後れする事なく入店出来る。
「いらっしゃいませ。北川様」
「空いていたらでいいんだが、奥のテーブル席に着かせて貰えないだろうか」
「はい。ご案内出来ます」
バースタッフとの会話で、オーナーの大きさを改めて知る。
……奥のテーブル席。
バースタッフの案内で席へと進む。
時間も遅い事もあり、一度、僕たちが来た時よりも客は少なくなっていた。
「こちらでよろしいでしょうか」
「ああ。ありがとう」
伯羽が着いた席だ。
「ご注文は如何いたしますか」
「ヴィユー・マール・ド・ブルゴーニュをストレートで貰おうかな」
オーナーはブランデーか……。
「ドリンク・アフター・ドリンクですか?」
そう言ってバースタッフは、にっこりと笑みを向けた。
「はは。そんなところだ。亮二とユウはどうする?」
「俺はウォッカ・ギブソンを」
やっぱりウォッカは外せないようだけど、今まで飲まなかったカクテルを飲むって事は少しは変化したって事なのかな……。
「じゃあ僕は……」
オーナーを交えて三人で飲むなんて、一瞬、調査中である事を忘れそうになるが、やっぱりここは。
「ワンモア・フォー・ザ・ロードを」
「かしこまりました」
バースタッフが席を離れると、僕はオーナーに訊く。
「オーナー、オーセンティック・バーで飲んでたの? 僕たちが今日、ここに来るって知ってたから? オーセンティック・バーに僕たちは入れないしさ、もしオーセンティック・バーに何かあるなら、僕たちじゃ知る事は出来ないし」
「たまたまと言えば、たまたまなんだが、誘われたからね」
「誘われたってもしかして……」
「ユウの察した通り、杜嵜 新だよ。彼とは事務所を同じくした事はないが、独立開業した探偵の先輩でもあるからね、無下に断れないだろう? もうお前たちも彼が来ていた事は分かっているんだろうが」
オーナーは、ふっと穏やかに笑みを漏らした。
「うん……まあ。今、淳史さんたちが追ってる。伯羽が彼の後を尾けているからね」
「九埜 隼斗……か」
急にオーナーがその名を口にした事に、僕は不思議に思った。
「オーナー?」
理由を聞こうとした時に、グラスが運ばれて来た。
それぞれの前にグラスが置かれ、オーナーはグラスをゆっくりと手に取った。そして、穏やかな表情で話を始める。
「ドリンク・アフター・ドリンク。酒の後の酒という訳だが、このラウンジ・バーにブランデーの種類が多いのは、そういった意味もあるからだよ。このバーは一階で出入り口に近い。同じ一階にあるレストランは、このラウンジ・バーの先だろう?」
オーナーの言葉に、僕は自分がオーダーしたカクテルへと目線を向け、呟いた。
「だから……ワンモア・フォー・ザ・ロード……」
帰る前にもう一杯……か。
「酒の後に飲む酒に芳醇な香りのブランデーは最も適しているからね。大切な時間の余韻に浸る……それだけのクオリティーを持っている酒だという事だよ」
オーナーは手にしたグラスをゆっくりと口に運び、一口飲んだ。そして、グラスを見つめながらこう言った。
僕は、オーナーのその言葉に自分が口にした言葉を重ねながら聞いた。
『ブランデーはフランス語でオー・ド・ヴィー……生命の水って意味でしょ』
「ワインを醸造する際に出る葡萄の搾りかすをもう一度発酵させて造られるブランデー。それがオー・ド・ヴィー・ド・マール……亮二、ユウ。調査の後に見るものが探偵にとって不必要であるかどうかは探偵次第なんじゃないかな」
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