007 勧誘

「ほんまにゆうべ何やってたんや?」


慌てすぎて生徒玄関をすっ飛ばして、グラウンドから2階のベランダまでジャンプして教室に入ってきたしずくに肩を捕まれぶんぶん揺らされながら、たまきはすっとぼけた質問をかましてくる。

喋り方はきついが、言葉に棘はない。からかってくることもあるが、いつも無邪気な笑顔を見せてくる、明るい茶色の短いボブの少女だった。身長はしずくより微妙に低い。


「ゆうべは2人を見送ったあとは普通にお風呂して寝たよ!」

「ああ、そうやな、しずくはエゴサとかせえへん人やったわ‥」


しないもなにも、しずくはやろうと思えばエゴサする人である。

ただ、登録者10人ちょっとのチャンネルではエゴサしてもむなしいだけである。


「‥‥何慌てとんねん、もともと人気になりたかったんやろ?」

「う、うん」

「じゃあ、この勢いに乗ればええねん。せっかくこんな大勢に興味持ってもろてんやから。うちの言う通りにすればええねん」

「う、うん‥‥」


たまきからコツを教えてもらう。

いわく、世間は熱しやすく冷めやすいもの。

いわく、今はまだ話題になっただけの一過性なもの。

ここから固定ファンを一気に増やす必要がある。

そのために、当面はまめな配信を欠かさないこと。

これまでは週に1回だったが、次の配信は一両日中にすべきこと。


「じゃあ‥‥リスナーの見たいものに合わせて内容を変えないと‥‥」

「いつも通りでええよ、無理して嫌なことして人気もろたらずっとそれせなあかんし」

「‥分かった!」


言いたいことをはっきり言ってくれる親友は、しずくにとって貴重だった。


「しずくは素材もええんやから、愛嬌見せればイチコロやで」

「そんなうまくいくかなあ」

「いくで。もともとうち、しずくは絶対バズるとおもてたんやから」

「‥ありがとう」


その根拠が何なのかはよく分からないが、親友の信頼にまずは感謝を伝える。


それにしても、登録者10人程度では雑談すらままならなかったし、100人くらいは欲しかった。

しかしそれが、まさか、10万人だなんて。

‥‥ちゃんと運営できるかな。


そう不安に思っていたところで‥‥見知らぬ男の先輩が後ろから話しかけてくる。


「やあ、七海って君か?」

「は、はい、七海ですけど‥」

「おっ、昨日の動画の切り抜き見たぞ、ドラゴンをワンパンしたってな」


その一言でクラス全体がざわめく。

それもそのはず、ここはダンジョン・アカデミーで、クラスメイトはみな探掘者かダンジョン関係の仕事を目指しているのだから。


中には事前に知っていた人もいるだろうが、そうでない人もちらほらいるらしかった。


「えっと‥」

「よかったら俺の兄さんがやってるギルドに入らないか? スリール・アッシュs o u r i r e - h a c h eっていうんだけど」

「ごめんなさい、ソロでまったりしたいんです!」


言い終わらないうちに、どん、とドアが勢いよく開かれる。

廊下には無数の生徒たちが密集している。


「七海はここか?」

「ぜひうちのギルドに!」

「おい竹内抜けかけすんな!」

「ぜひ俺んとこに!」

「いいえ、私のところに!」


教師が入ってくるまでしばらく混乱が続いた。

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