第3話

「休み…か」


エミリアは、すっかり忘れていた久方ぶりの休みの予定を決めかねていた。

とりあえず、モスコーヴィエンの街を散歩しに来たものの、特に寄るべきところは無い。

すると、ちょうどいい時に、見覚えのある顔を見つけた。


「リナ!こんなところで会うなんて偶然だな」

「エミリア大将?!どうしてここに」


リナは驚いた表情を浮かべる。


「少し暇を持て余していたものでね。君は?」

「私も、少し休暇で時間があったので、散歩に」


2人は普段着ている黒服の親衛隊の制服とは打って変わった印象の服を着ていた。

エミリアはシンプルなドレスに、タイトなシルエットのロングスカートと、黒いハイヒールを身につけている。

リナは、黒と白のドレスに、エミリアと同じくロングスカートと、黒いロングブーツを履いている。何処かへ行くにはうってつけの格好だ。


「せっかく会ったのですし、何処か行きましょう!エミリア大将」

「今はプライベートなんだから大将はやめてくれ」

「あ、すみません」


エミリアは苦笑しながらリナに言い、彼女はペコッと頭を下げて謝る。


「では、なんとお呼びすればいいですか?」


リナはエミリアにそう問いかける。


「そうだな…エミリアって呼んでくれると嬉しい」

「さ、さすがに呼び捨てはちょっと」


リナがそう言って、エミリアはなにか良い呼び方が無いかと考える。少し考えた後、エミリアは口を開く。


「好きなように呼んでくれていい」


結局良い呼び方が思いつかず、リナに丸投げしてしまう。


「じゃあ、エミリアさんって呼んでもいいですか?」

「あぁ、構わない。それよりどこに行くかだったね。どうする?」


リナはしばらく考え、そして顔を上げて言った。


「近くに庭園があるらしいので、そこに行きませんか?」

「それはいいな。そうしよう」


2人はタクシーを掴まえ、その庭園を目指す。

しばらくして、タクシーがその庭園に到着すると、2人は降りて、庭園の門をくぐる。


「わぁ…!すごく綺麗」


庭園は色とりどりの花で埋め尽くされ、そのどれもが輝いて見える。とりわけ、中央の花は、美しい青で包まれ、美しく見える。


「ヤグルマギクか。花言葉は繊細、優美、優雅。戦時中は忠誠のシンボルとしても使われていた花だな」

「かなりお詳しいんですね…!趣味とかで育てていたんですか?」


リナが意外そうな顔をする。


「あぁ。母親が花が好きで、よく教わったんだ」


エミリアはそう言って得意気な顔をした。

ふと、蝶がそのエミリアの近くに舞い降りてくる。


「あっ、蝶が」


そう言ってリナはその蝶の方に体を向け、蝶に手を伸ばし、エミリアの体に触れる。

その瞬間、エミリアは無意識に顔を赤らめる。心臓の鼓動が早くなる。


「わぁ〜かわいい!」


そんなエミリアの様子に気づかずにいるリナ は、無邪気な笑顔で蝶をじっくりと見ている。

エミリアは、その上手く説明のできない感覚に、どこか疑問と混乱を抱いていた。

業務上、他の親衛隊員や将校と関わっている時もあるが、このような感覚に陥ったことは無い。それどころか、約30年程生きてきて初めて味わった感覚だった。


「エミリアさん?」


エミリアはリナの声でハッと我に返る。気づけば蝶は遠くへ飛んで行っており、リナが不思議そうにエミリアを見ている。


「エミリアさん?顔が赤いですけど、どこか具合とか悪いんですか?」

「い、いや。そういう訳では無い。大丈夫だ」

「それならいいんですけど…」


それから1時間程度、2人はその庭園を回り、近くのレストランで簡単な食事を済ませてから解散した。

だが、エミリアの心の中では、まだあの時の感覚が何なのか、疑問符が浮かんでいた。

それを考えながら、自室のベッドで、エミリアは眠りについた。

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