第2話
「エミリア大将!お久しぶりです!」
その声の主の方へ振り返る。やはりあの視察の時に会った彼女だ。
「久しぶり。ええと」
エミリアは彼女の名前がわからずに困惑した表示を見せる。その様子を察してか、彼女は自己紹介をする。
「あっ自己紹介がまだでしたね。私はリナ、リナ・ヴァイスといいます!階級は二等兵です!」
「そうか。リナ、よろしく。今日はここの警備か?」
「はい!歴史に残る瞬間に立ち会えて光栄です!」
リナは元気よく答え、それにエミリアも笑みがこぼれる。
「それにしても、また君と会えるとはね。これが運命というやつだろうか」
柄にもないことを言ってエミリアは少し頬を赤らめる。
「運命って、なんだか素敵ですね」
つられてリナも頬が赤くなる。そこへ、一人の女性が駆け寄ってくる。
「あら、ここに居ましたか。エミリア大将」
抑揚の無い機械のような声に、細く本当に開いているのか分からない目と、非常に長い金髪の髪。エミリアもリナもすぐにその女性が誰か理解した。
「全国指導者殿!」
親衛隊全国指導者、ミア・シュナイダーだ。
慌てて2人は敬礼をする。
「お二人共、仲がよろしいようですね。それで、エミリア大将。そろそろ実験場に行きませんか?」
「そ、そうですね。もうそろそろですし」
不敵な笑みを浮かべるミアに、エミリアは怖気付きながら賛同する。
「では、行きましょうか」
ミアはそう言ってエミリアの手を引く。
「エミリア大将!またいつか!」
リナがエミリアに言い、お辞儀をする。それにエミリアは小さく手を振って返す。
「あの方はご友人ですか?」
しばらくしてから、ミアはエミリアに問いかける。
「は、はい。友人と言ってもまだ知り合ったばかりですが」
「そうですか」
エミリアの答えにまたも不敵な笑みを浮かべて一言だけ言う。その眼差しは、まるで面白いものを見ているかのようだ。
「ところであなたは、突撃隊のことをご存知ですか?」
突然ミアが問いかける。
「突撃隊、ですか?はい、人並みには存じているつもりですが」
エミリアは突然の問いかけに驚きつつも返答する。
「そうですか。では突撃隊が長いナイフの夜事件で事実上我々親衛隊に吸収され、突撃隊隊長は処刑されたのもご存知ですね?」
「は、はい」
質問の真意が分からず、エミリアは困惑する。
「では、突撃隊の隊長が消された理由はご存知ですか?」
ミアは悪戯っぽくそう言った。未だにエミリアにはその質問の真意が分からず、困惑する。
「い、いえ」
「同性愛者だったかららしいですよ。貴方もご存知の通り、ドイツでは同性愛が禁止されていますから」
「は、はあ。そうなんですね」
ミアの意図の分からない言葉に、エミリアはさらに訳が分からないという表情をした。
「と、着きましたね」
到着したのは、コンクリート製の頑丈そうなトーチカだった。通常のトーチカよりも分厚いようで扉も頑丈そうな金属製の扉だ。
「シュナイダー全国指導者殿。ズュース大将殿。お待ちしておりました」
ずっと待っていたであろう黒服の親衛隊兵士が、敬礼をしてからそう言った。
それから2人はそのトーチカの中に入る。中は狭く、窓は丈夫そうな強化ガラスに、黒い遮光剤が塗布されているようだ。トーチカ内には2人の他に、別の部隊の親衛隊大将。政府幹部。国防軍の幹部までも来ている。
「では、実験を開始します」
扉が完全に閉められ、窓も閉め切られる。その上遮光用シャッターも下げられ、全員に遮光眼鏡が配られる。
「カウントダウン開始」
その場にいる全員が息を飲み、遮光眼鏡を着ける。
「10、9、8、7、6」
兵士が腕時計を見ながらカウントを数える。
「5、4、3、2、1」
その途端、窓から遮光眼鏡越しにもわかるとてつもない閃光が飛び込んでくる。それと同時に地震にも似た地響きと揺れがトーチカを襲う。
しばらくして窓に勢いよく砂埃がぶつかり、それでもその赤い閃光は全員の目に映り続ける。
全員が一言も喋らず、その光景に圧倒されていた。
地響きが止み、閃光も収まったところで、エミリアは窓の外に見える大きなキノコ形の雲を見つめる。これが、ナチスドイツの手に入れた新たな力。その場に居た全員がそれを実感した。
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