第37話 パワーワード(タケル・ユキ交互)

 エロ本は見つけられなかったが、ユキは本棚でこんなものを発見したようだ。


「卒業アルバムがあったよ」


 俺の小中学校時代の卒アルだ。どこにしまったか忘れていたが、そんなところにあったとは。


 ページをめくってみると、懐かしい思い出の数々がよみがえる。ユキは別の学校だったので、写っているのが俺だけというのが残念だったが。


「小中学校は別々だったけど、これからは共通の思い出を作っていきたいな」


 高校生らしい青春の思い出を築いていきたいものだ。俺が告げると、ユキも「うん」と頷いてくれた。




    ☆




 エッチな本を発掘することはついに叶わなかったが、代わりにたいへん興味深いものを掘り当ててしまった。


「むっ!」


 隊長、卒アル発見であります! でかしたユキ隊員、きっとタケルのかわいい写真が載っているに違いないぞ。


「卒業アルバムがあったよ」


 許可を得てさっそくページをめくってみる。小1時代のタケルから中3時代のタケルまで、舐め回すようにじっくり観察した。


 あどけないタケルから大人っぽくなってきたタケルまで、どれも非常に魅力的だ……。なんて思いながら見比べていると、途中からある変化が起こっていることに気づいた。


 空手を始めた小4あたりから、少しずつたくましくなってきている……。


 背が伸びるにつれて、徐々に身体つきが男っぽくなっているのだ。だんだんとセクシーに成長していくタケルを眺めて、私は内心の興奮を抑えつけるのに必死だった。


 現在のタケルに視線を移すと、なるほど食べごろな感じに仕上がっている。服の上からでもほどよく筋肉が盛り上がっているのが分かった。


「小中学校は別々だったけど、これからは共通の思い出を作っていきたいな」


 タケルの漏らした呟きに、私も「うん」と首肯する。高校生らしい春の思い出を作っていきたいものだ。


(そのために――)


 まずは勉強会で、ある作戦に打って出る。卒アルを封印して、私たちは座卓につき教科書などを広げた。


「じゃあユキ先生、よろしくお願いします」


 律儀に頭を下げてくるタケル。成績は私の方がいいので、私がタケルに教えるという構図になるのだ。


「任せてよ。精一杯教えるね」


 でもタケルは特別おバカさんというわけではない。こうしてコーチすれば、高得点だって期待できるだろう。


 私にとって非常に都合のいいバランスだった。




「……ねえタケル」


 頃合いを見計らって、私はあることをタケルに提案する。顔を上げて話を持ちかけた。


「どうせなら『テスト勝負』しない?」


 定期テストでどちらがいい点を取れるかどうか競うのだ。タケルも問題集からいったん離れて、私の出した案に反応を示していた。


「ユキとテストで勝負って……」


 そんなの勝てるわけ……とはなから諦めている風だったが、これを聞いても乗らずにいられるかな?


「勝った方にはご褒美があるよ。タケルが勝ったら、私にできること何でもしてあげる」


 "何でも"というパワーワードを放り込んだ瞬間、タケルの耳がピクと動くのが分かった。


「……な、何でも?」


 表情を変えて聞き返している。諦めムードから一転、興味津々な様子で身を乗り出してきた。


(ふふ。いい具合にヒットしたね)


 私が垂らした"何でも"というエサに、タケルがパクついたのを確かに感じる。手ごたえ十分。まあこのワードで食いつかない男子高校生はいないよね。


 今タケルは、頭の中でエッチな妄想を捗らせていることだろう。付き合っている彼女が何でもしてくれるというのだから、リクエストすることは一つしかない。


 さあタケル、テストに勝ってエッチなお願いをしてくるんだ! なんなら私は、今ここで始めてしまってもいいくらいだぞ!




    ☆




 勉強会がある程度進行したタイミングで、ユキはこんなことを提案してきた。


「どうせなら『テスト勝負』しない?」


 俺はテキストから顔を上げてリアクションする。げんなりした表情で返した。


「ユキとテストで勝負って……」


 そんなの勝てるわけないわい。ちょっとコーチを施してもらっただけでも、ユキが成績優良児なのは明々白々だったのだから。


 俺の方には乗る気などさらさらなかったのだが、しかし次なる言葉を聞いて考えが変わった。


「勝った方にはご褒美があるよ。タケルが勝ったら、私にできること何でもしてあげる」


 そのワードを受けた瞬間、自分の耳がピクリと反応する。俺のオスの部分にクリティカルヒットした。


 な、何でもですと――?


 それってつまり、あれだろうか。もし俺がユキに勝てたら……そういうお願いとかしちゃってもいいのだろうか……。


「……な、何でも?」


 一応聞き返してみると、ユキはふふと微笑んで肯定していた。俺の聞き間違いとかではなく、本当に言葉通り何でもしてくれるつもりだ。


(めっちゃやる気出てきた……)


 さっきまで死んだ魚のような目をしていた俺だったが、今はバッキバキに冴えてしまっている。ごくりと生唾を飲んだ後、はあはあと軽く息を切らした。


 さっき見えてしまったユキのお尻を思い出す。非常に形のいい、桃を連想させるような……。端的に申し上げてしまえば、めちゃくちゃ食欲をそそった。


(けど……)


 そこで俺は、ユキが使っているシャーペンに目を留める。猫しっぽの飾りがついたそれは、先週末ファンシーショップで買った品だった。


 そのあとに起こったあの事件で、ユキは危うく無理矢理犯されそうになっていたのだ。間一髪で助け出すことができたが、ユキの心の傷はまだ癒えていないだろう。


 きっと今は、エッチなこととかに抵抗があるはず。ユキの精神が十分に回復するまで、俺は寄り添ってあげなければならない立場なのだ――。


 鋼の意志でリビドーを引っ込めた俺は、努めて何でもない風を装い返事した。


「い、いや……。なんも思い浮かばねえな、何でもとか言われても……」

「え?」




    ☆




 ば、バカな……。まさかの乗ってこないだと……⁉


 まるで何も思いつかないと発言したタケルは、握っていたシャーペンをポイッとノートの上に放り出す。「なんかやる気なくなっちゃったな」とか呟いて、露骨に興味を失っていた。


「気分転換に映画でも見ようぜ」


 と勉強会を一時中断。死んだ魚のような目に戻って、テレビのリモコンをピッと操作した。


 こんな男子高校生がいていいのか……? 彼女が"何でもする用意がある"って言ってるんだぞ……!


 一度は食いついたように見えたのだが、私の錯覚だったのだろうか……。リールを巻いてみれば、何もかかっていないボウズだったというわけだ。


 なかなか手ごわいようだ……と理解する。どうやらタケルは著しく性欲が少ないらしく、ちょっとやそっとの罠では太刀打ちできないらしい。


(だが……映画か)


 それはそれで都合がいい。こんな展開もあろうかとあやねと温めておいた策があるので、今度はそれをぶつけることにした。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


第2のゲームでもタケルは手ごわいようです。健気なユキちゃんが牙城を崩せる時はやってくるのか――。どうぞ☆☆☆を入れつつ見守ってあげてください。

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