第35話 おうちデート(タケル→ユキ視点)

 定期考査が近いので、今日はユキを家に招いてテスト勉強をする。いわゆる勉強会というやつである。


「お、お邪魔しまーす……」


 やや緊張した風なユキが、約束した時間ピッタリに佐久間家に到着。俺は玄関まで飛んでいき、ドアを押さえて招き入れた。


「いらっしゃ――」


 言いかけて、途中ではっと息をのんでしまう。週末デートではテーパードパンツを穿いていたユキだったが、今日は可愛らしいプリーツスカートを着用していたのだ。


 おお……と思わず見惚れてしまう俺。ユキは上目遣いになって感想を求めてきた。


「ど、どうかな……。タケルが選んでくれたこのスカート」


 そう、これは俺がユキにプレゼントしたものなのだ。週末デートの後で、彼氏からの初プレゼントとして贈っていたものだった。


 俺は照れながらで正直な感想をぶつけた。


「めっちゃ似合ってる……。すごくいいよ、ユキ」


 ドッキリが終了し、すべての誤解や勘違いが解消された今、思いっきり"似合ってる"と告げることができる。やっぱりユキはかわいい女の子だなあと、俺は改めて思った。


「ほ、ほんと? えへへ……」


 率直な高評価にはにかむユキ。彼女自身はボーイッシュな見た目とのギャップを感じていたようで、俺から太鼓判を押されたことが嬉しくてたまらない様子だった。


「勇気出して穿いてきてよかった……」


 今まで女の子らしい服装をためらう部分もあったようだが、これからは可憐な衣装にも挑戦してくれるかもしれない。そんなことを想像すると、俺も頬が緩んでしまった。


「二人ともにやにやしちゃって、さっそく見せつけてくれるわね~」


 互いに微笑み合う俺たちをそんな風に茶化してきたのは、我が母親である。からかうようなニマニマ顔を向けていた。


「か、母さん! 出てこなくていいって言ったろ!」


 リビングでまったり茶でも飲んでいればいいものを、なんでわざわざ顔を見せたがるんだ。


「だってアタシもユキちゃんの顔みたいし。どんなお嬢さんになったのか気になるじゃない?」


 俺が小4だった頃に、母とユキの二人も田舎で会っている。俺は当時ユキを女の子だと見抜くことができなかったが、母はそうだと気づいていたようだ。


 5年以上ぶりに再会したユキを見て、母はお人形さんでも見るかのように目を輝かせた。


「んまあユキちゃん! すっかりまあ綺麗な娘さんになっちゃって」


 美少女JKへと進化したユキにかぶりつきだった。鼻息を荒くして興奮している。


「お、お久しぶりですタケルのお母さん……。あ、タケル君のお母さま……」


 ユキはさらに緊張の色を濃くしたようで、当時の呼び方を慌てて修正していた。表情もどこかかしこまっており、姿勢も威儀を正した風だった。


「タケルのお母さんでいいわよ~。おばさんでも何でもいいから好きに呼んで?」


 母は当時と変わらず、ユキのことをいたく気に入っているようである。フレンドリーな空気で歓迎するわと言っていた。


「こ、こちら、つまらないものですが……」


 とユキが恭しく差し出したのは、お高そうな羊羹である。箱からして高級そうなそれを、母はズイと寄越されるがままに受け取っていた。


「そんな気を遣わなくていいのに~。あとでお部屋へ持っていくわね」


 一本タイプの本練り羊羹だったらしく、切り分けるために奥へと退場した。母がいなくなったことで、ユキはふうと肩の力を抜きリラックスしていた。


 ユキはそんなにうちの母が苦手だったかな? と疑問に思ったので、そのように尋ねてみると。


「そういうわけじゃないよ。昔と変わらず話しやすい人で安心したけど……」


 やけに丁寧な態度で挨拶した理由を、若干もじもじしながら明かした。


「その……。しょ、将来的に……義理のお母さんになるかもしれない人だから……」

「は……。はええっ⁉」


 ぎ、義理のお母さんですと⁉ ユキの口から飛び出した言葉に、俺は一瞬で顔が熱くなってしまう。


(それってつまり――)


 ……俺との結婚とかを意識してるってわけで。そんな風に考えてくれているのだと思うと、胸の動悸が収まらなくなった。


「な……な~んて! 変なこと言っちゃってごめんねタケル」


 いくらなんでも気が早いよね~と、ユキは慌てて冗談めかす路線に舵を切っていたが。俺はすっかり彼女との結婚生活をイメージしてしまっていた。


(ユキと結婚かあ……)


 実にいい……。高校生の身でそれこそ気が早いと思われるかもしれないが、大人になったら結ばれたいと俺も強く願った。


 俺とのことを真剣に考えてくれているんだな……と、彼女の愛情深さにじんときてしまう。こんないい子を悲しませてはいけないと、再度胸に誓いを立てた。


 高校生カップルが部屋で勉強会だなんて、そんなんもうやることは一つだろと。今日のことを話した時、クラスメイトの一之倉などはそう言っていたが、そんな風になってはいけない。


 ユキという彼女を大切にするぞ! という決意を、俺は改めて固め自分を律した。




    ☆




 将来的に義理のお母さんになるかもしれないと、この先の結婚生活を匂わせるような発言をしておく。私の口から出た大胆な言葉に、タケルはきっと色々妄想とかしちゃったはずだ。


 新婚生活はどんなだろうか……。子供は何人にしようか……など、確実に意識してしまったはずである。口にするのもはばかられるような男子高校生的妄想を、頭の中で展開させているに違いない。


 もしエッチなイメージを膨らませていたとすれば、それは私の狙い通りだ。そもそもこの勉強会を提案したのだって、タケルではなく私の方なのである。


 高校生カップルが部屋で勉強会なんて、そんなことになったらもうやることは一つしかない。あやねと一緒に詰めた作戦もあるし、タケルはもう蜘蛛の巣にかかったも同然――。


 タケルとエッチするぞ! という意気込みを、私は改めて胸に深く刻んだ。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


何やらまた認識のズレが……。ユキのさりげないアピールは功を奏すのでしょうか。

ちょっとおバカになりかけているユキちゃんもまたいいと思っていただけましたら、☆☆☆をぜひお願いします。

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