第33話 一之倉との雑談(タケル視点)
俺とユキは付き合っている、という情報が、どうやらユキの所属する3組発信で出回っているようだ。
今もユキと二人、屋上で昼食をとってきたところなのだが、他学年の生徒からもおめでとうと声をかけられたので驚いた。王子様系女子として人気なユキの知名度が高いので、彼女に関連する噂は学園のホットトピックらしい。
美少女なユキと交際している俺を、もしかしたらやっかんでくるやつとかいるかな~と内心恐れていたのだが、皆あたたかく祝福してくれているというムード。面白半分にドッキリを観戦しているうちに、俺たちの関係性を見守りたくなっていたようだ。
俺の所属する1組教室のクラスメイト――一之倉もその一人だ。適当な席によっこらせと座ると、ドッキリにまつわる感想を漏らしていた。
「いいよなあ~幼馴染同士が結ばれるって。なんか短めの恋愛映画でも見た気分だぜ」
交際の事実だけでなく、ドッキリの大まかなあらましについても、ある程度情報が広まっているようだ。やはり3組が主体となって喧伝していた。
「そりゃどうも。全一之倉が泣いてくれたのか?」
「そこまではいかねえけどな。でも、主演女優が美人だからそこそこ盛り上がってたぜ」
主人公や脚本が平凡でも、ヒロインが魅力的だったのでヒットしたらしい。やっぱりユキって類まれなルックスの持ち主なんだなあと、俺は改めて客観的に認識させられる。
この一連のドッキリゲームについて、一之倉には一つ気になっていたことがあるようだった。
「3組が緘口令敷く前にさ、オレお前に言っちゃってたじゃん? 渚ユキを指して、美少女だとかそんな意味のことを」
ああ……と、俺も思い出す。ユキとの再会を果たした高校初日、"ユキが女だとタケルに漏らさない"というルールができる前に、一之倉はユキをかわいい女の子だと言っていた。
「言ってたなそういや」
俺は俺でその当時、ユキのことを男子扱いした方がいいと思っていたので、一之倉の感想に共鳴しないよう必死だった。『美少女』という意味の言葉を否定して、『イケメン』だとか返しておいたはずだ。
「あれよかったんかな? オレそのあとで3組の連中からルールのこと聞いてさ、『え? もう喋っちゃったんだけど……』って、内心いらんことしたかなって後悔してたんだよね」
一之倉はゲームをぶち壊しにしてしまったのではないかと罪悪感を抱いているようだったが、そんな風に気兼ねする必要などないのだ。ルールが徹底される前の話でもあるし、それに実のところ支障なんてきたさない。
「全然構わないよ。だって俺ユキが女だって、実は最初から知ってたし。あいつのこと王子様系女子だって噂するの、お前だけじゃなかったしな」
再会した瞬間にユキが女の子だったと気づいていたし、そこかしこでユキを美少女と評する声を聞いていた。学校のみんなはゲームを円滑にするためと思っていたようだったが、俺にとっては今更なルールだったのだ。
「ほーんそうか。それ聞いて安心したぜ」
大きな問題はなかったと理解して、一之倉はほっと安堵したようだ。俺とユキとの交際について、話を戻していた。
「これからは"男扱い"とかの面倒な演技もなくなって、晴れて男女カップルとしてやっていくわけだ」
そういうことになる。今までは"ユキは男である"と認識しているフリを、本人にも周りにもしなくてはならなかったが、そんなややこしい制約はきれいさっぱりなくなった。
「まあな……。しっかし女の子と付き合うのなんて初めてだし、どうしたらよいやら……」
恋愛のことなど何が何やら分からん。具体的にはどうしたらいいかなとアドバイスを求めると、一之倉は何食わぬ顔で言ってきた。
「そりゃお前、高校生男女が付き合うってなったら、やることは一つしかないだろ」
やっぱり? そう面と向かってはっきり言われると、なんか恥ずかしくなってくるな……。
俺だって思春期の男子高校生なので、そういうことをまったく考えないわけじゃない。ユキとそうなりたいという願望くらいは、密やかに持っている。
実際あのおっぱいは非常に魅力的だと思う。シャツの下でゆさゆさしているのを見るたびに、煩悩で頭がどうにかなってしまいそうだった。
ユキという彼女に十分性的な魅力を感じている俺だったが、その一方で、関係を進めることをためらう部分もあった。
「なんだ? なんか引っかかってることでもあるのか?」
浮かない顔の俺を見て、一之倉が心配そうにしてくるが。こればかりは彼に打ち明けるというわけにもいかない。
「うん、ちょっと……」
と適当にはぐらかしておく。心の中で思い出されるのは、ユキが強姦魔に襲われた時のことだ。
最悪の事態になる前に俺が解決したとはいえ、ユキはただらなぬショックを受けたことだろう。男性に対して恐怖を抱いたり、性的なことに嫌悪感を示したりしても何らおかしくはない。
少なくともユキが事件から立ち直れるまでは、心の傷を癒してあげることに専念しよう――。俺はそう考えた。
そうなると、こちらから性の交渉を持ちかけるなど言語道断である。ユキの精神状態が確実に回復したと分かるまで、俺は待ってやらなければならない。
自分がユキに魅力を感じているからって、それで一方的に手を出してしまってはダメだ。そんなのはユキの気持ちやナイーブさを無視する行為であり、彼氏というパートナーに求められる行動ではあり得ない。
(それに……)
俺たちはまだ高校一年生。焦らなくても青春の時間はたっぷりとある。
今にこだわる必要はない。ユキに心の余裕が出てきてから、自然とアプローチをかけようと俺は結論づけた。
「……やっぱり今はまだ早いかな。高一だしさ、ゆっくり距離を縮めていくよ」
レイプ未遂の件については伏せたままで、やんわりと一之倉にも自分の意志を伝える。ユキのことを大切にしていきたいと話した。
「そりゃあ、佐久間がそういう考えなら口出す権利もねえけどさ。でもいいのか?」
と、一之倉は続ける。
「小4の時だって、渚の引っ越しは寝耳に水だったんだろ? またいつ離れ離れになっちまうかなんて、意外と人生分かんないもんだぜ」
お盆に帰省すれば毎年ユキに会えると、確かに当時の俺は信じて疑わなかった。結果的にユキは近所に引っ越していたと明らかになったが、そんなラッキーがいつでも保証されているとは限らないのだ。
「それにさ……」
一之倉にはまだ何かあるようである。
「案外女子も積極的なもんだって。大切にしたいなんてのは男の理屈で、早く手を出してほしいくらいに考えてるかもよ?」
「ユキが? まさか」
仮に悪漢に襲われたうんぬんの話がなかったとしても、清楚可憐な彼女が興味津々だなんて……。そんなことは考えにくいことだろう。
「ユキに限ってあり得ねえよ。俺たち男子の思考と一緒にしちゃダメだろ」
と軽く一之倉をたしなめると、向こうも「だよな~」とあっさり返していた。
「ちょっと言ってみただけだ。確かに学園のアイドル渚ユキが、そんなこと考えてるなんてあり得ねえわな」
「そうそう」
はははと笑い飛ばして、クラスメイトとの他愛もない談笑を終えた。
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タケル君は殊勝な子ですねえ~。こんなに想われるユキは幸せでしょう。
次回ユキ視点です。更新頑張りますので☆☆☆をぜひお願いします。
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