第8話 放課後デート(タケル視点)

 待ち合わせ場所は校門前。1組は帰りのHRが長引いてしまったので、おそらく3組のユキはもう来ているだろう。


(なんかドキドキするなあ……)


 ユキが本当は女だと、当然俺は知っている。知ったうえで男同士の接し方をするのが正解だと信じているのだ。


(――って、別にドキドキする必要なんてないだろ)


 確かに美人になったなあとは思うが、しょせんあいつは幼馴染。放課後一緒に遊ぶくらいのことで胸を高鳴らせたりなんか……。



『キャー! なにあの人、素敵~!』

『ほんと、綺麗~』

『麗しい……』



 ユキの周りにはファンと思しき生徒たちの姿が散見された。入学初日にして早くも学園のアイドルだ。


「あ……タケル」


 向こうも俺に気づいた。心なしか、ユキのやつも俺同様緊張しているように見えた。


(やべえ……。やっぱかわいすぎだろあいつ!)


 透明感のある白い肌に、すっきりとしたフェイスライン。目や鼻などのパーツはことごとく整っていて、神様こいつにだけ贔屓しすぎじゃね? というレベルだった。


 ズボンやネクタイだけ本来の性別とは違和感があったが……それこそがユキのこだわりなのだから仕方がない。


「よ、よう……待たせたな」

「う、ううん……。全然だよ……」


 お互いぎこちないながらも移動を始める。ぎくしゃくとした歩き方で、放課後遊びの定番ラウンドワンへと向かった。


(ユキは自分を男として見られたいと思っている……。そんなやつにはこれだろ!)


 ゲーセンエリアで俺が指定したのは、ガチムチマッチョマンたちが肉弾で殴り合う格闘ゲーム。熱気むんむんの男くさいコンテンツだ。


 ユキはちょっと顔を引きつらせていたが、対面の台についてバトルを開始した。

 普段あまりゲームはしないのか、戸惑いつつも徐々に慣れ始め、それなりに楽しんでいる模様。


(よし。やはりこの路線は間違っていない)


 ユキは男子として扱われるのが好みなのだと、俺は確信する。この調子でエンドレスファイトをと思ったが、ユキから次の遊びを提案された。


 彼女が指差した先は、なんとプリクラコーナー。きゃるきゃるした雰囲気のオシャレなブースがいくつか並んでいた。


(意外だな……。男っぽいものが好きなわけじゃないのか……?)


 いかにも女子~なコーナーをユキが選んだことに、俺は若干混乱する。男の性別に憧れているのなら、中身も男性寄りの嗜好になるのかと思ったが……。


(最近は男同士で撮るのも流行ってるのかなあ……?)


 俺が知らないだけで、それほど女子っぽいコーナーというわけでもないのだろうか。よく分からんがサクッと撮っちまうかと歩を進めたところで、張り紙を見てお互い止まった。


「あ……」


 男性のみでの立ち入りを禁止する文言が書かれている。ナンパだの盗撮だののリスクを回避するために、店によってはこういった措置を施すものらしい。


 本当は男女二人組な俺とユキなので、撮るのに何の問題もないわけだが。俺の口からユキが女であることを言うわけにはいかない。


 あくまで彼女に気を遣って男扱いした。


「残念だな……。プリクラは諦めるしかないか」


 わりと本気で残念がっている自分に、俺は驚く。そんなにユキと一緒にプリクラしたいと思っていたのか俺は――?


 ちらと隣を見ると、ユキもしょんぼり肩を落としている様子で。

 それってつまり、俺とプリクラを撮るのがすごく楽しみだったということになるわけで……。


 なんだか……すごく女の子らしいリアクションだなと感じた。


(い、いやいや!)


 俺の見間違いか何かだろう。本当は男子とプリクラ撮るのが憧れの普通の女の子だとか、そんなことあるわけがない。相手俺だし。


 いっそユキの口から「私は女です!」とか言ってくれれば助かるんだけどなあ……。

 男と女、どっちの性別で生きたいのか、本人の口から直接確認しておきたい。


 ちょっと言わせてみるか。さすがにやや罪悪感を覚えるやり方ではあるが……。


「ゲーセンコーナー出る前に、ちょっとトイレ寄っとこうぜ」


 男子トイレの方を指差しながら連れションに誘う。ユキが自分のことを"女"として認識しているなら、「いや私女だから!」とか言って断るはずだが……。


「あー……」


 恥ずかしそうにもじもじしてから。


「い、今は大丈夫かな……。またそのうちね」


 みたいな感じで、"女だから"という理由では断ってこなかった。ということは、やっぱりなのかな……。


 今はたまたま尿意を催していないようだったが、一人の"男性"として男子トイレを使う意向なのだなと理解する。世の中色んな人がいるなあと、俺はしんみりしながら単独で用を済ませた。


 というわけで女子だという言質をとれないまま、ゲーセンコーナーを後にする。


 締めはカラオケ。まずは俺から、再会記念に明るい曲を選んで歌った。


 次はユキの番と相成るわけだが、めちゃくちゃ上手くて心底びびった。曲自体は定番のカラオケソングといった感じなのに、こいつが歌うとプロがステージで歌っているみたいだ。


 見た目の華やかさも相まって、ぽーっと聞き惚れてしまう。はっとなった時には曲が終わっており、ふうとひと息ついたユキから声をかけられた。


「あの……。今のボクの歌声、どうだったかな」

「え?」


 何かを期待するような眼差しで、ユキは俺に問いかけてくる。


「今のボクの歌声を聴いて、何か違和感を覚えなかったかい? 例えばそう、声の高さとか」


 女子らしい高い音域の歌声だなと思ったが、しかしその通りに伝えてしまっては、ユキを女の子だと認めることになってしまう……。


 なんとかしてごまかさなければと、俺は頭をひねった。


「いやぁ~! お前って男のわりに声高いんだな~! ボーイソプラノってやつか?」


 苦しいがこんなところだろう。ユキは『な、何ぃ⁉』の顔になって驚いていた。


「そ……そうなんだよ! いやー、まだ声変りが来なくってねえ……」


 だからなんで乗ってくるんだよ。絶対に自分のことを女だって言わないのは、やっぱ医学的な性別とのギャップを気にしてのことなのか?


 期待通りの答えと違ったのか、ユキはしょぼんと小さくなって座っていた。そんなに低い声に憧れていたのか。声の高さに言及したのは失敗だったかな……。


「そんな気にすんなよ。俺は好きだぜ、ユキの声」


 これは素直な心からの言葉だ。すごくユキらしいと自然と感じられるような……美しくて好きな声だった。


 ユキは少し顔を赤くして。


「あ、ありがとう……」


 と照れた様子。とても乙女チックな表情に見えていて、俺は心臓がぴくんと跳ねるのを感じていた。


 その後は適当に交互に歌ったり、流行りの曲を二人で合わせたりした。こうして一緒に歌っていると幸せを感じるのは、俺がユキをどうしても女の子だと意識してしまう証拠なのだろうか……。


(――い、いやいや! ユキのためにそれはいかん!)


 あくまで男同士として接しなければ。


 たとえこの先ユキがどんなに女の子らしいところを見せてきたとしても、鋼の意志で男子扱いしなければならない……。


(乙女な部分を見ても、絶対に動揺なんかしないぞ!)


 と意気込んで初日を終えたが、二日後にユキはまさかのアイテムを実装してきた。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回最初だけタケル視点、そのあとユキ視点に切り替わります。なるべく読みやすくなるよう心がけますので、フォローと☆☆☆をぜひ。

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