第3話 再会。そして……(ユキ視点)

 待ちに待った高校生活初日。

 学校へやってくるタケルを待ち伏せるべく、私は兄のブレザーを着て早めに校門へ来ていた。


 校舎のある方へと入っていくほかの生徒たちが、「王子様系女子だー」と感想を漏らしている。男女問わず肯定的な評価を送ってくれているようで、とりあえず私はほっとした。


 王子様系ということは、男子の制服は着ていても、あくまで女の子として見られている証拠か。


 この調子だとタケルにもすぐに気づかれて、ドッキリとしての面白みには欠けるかなと思ったところで、そのタケルが歩いてきたのを認めた。


 近くまで来て目と目が合った時、私は自分の心臓がドキリと跳ねるのを感じた。

 もしかしたら私だって気づかれないんじゃ……とも思ったが、彼は「あれ?」と声を発してその場に立ち止まった。


 向こうでも私だと気づいてくれたのを認識して、ゆっくりとタケルの方へ近づく。んんと軽く喉を調整してから、男の子の口調で話しかけた。


「あの、久し振り……。ボクのこと覚えてるかな」


 声の高さも低くするよう意識する。実に五年以上ぶりの再会だったが、やはりタケルは私のことをきちんと覚えてくれていた。

 笑った顔はあの頃のままで、私はあの夏にタイムスリップしたような気持ちがしていた。


「久し振りじゃんユキ! 同じ高校だったのか、ひょっとして家近所だったのか?」


 二人して再会の喜びを分かち合う。今でも親友扱いしてくれるタケルに、私は胸が熱くなった。


「うん。そうだったみたい」

「全然気づかなかったなあ~。じゃあこれからは、毎日一緒に登下校しようぜ!」


 あの時はお互いの住所を聞き出さずに別れてしまったが、ここで改めて家の位置を確認しておく。タケルと一緒に登下校できると知って、これからの高校生活がぐっと楽しみになった。


 さて。


 それで性別の方は? もう女だと気づいたのだろうか。それともまだ男子だと勘違いしたままか……。


(……)


 見違えたなあ、とか言ってくれるだろうか……。


 ドッキリとしては男子だと騙し通すことができれば成功なわけだが、私だっていっぱしの女子高生。

 さなぎから蝶へと変身した自分を自覚したい時期。気づいてほしいなという思いは一応ある。


 ネクタイ、ズボンというスタイルの制服を、タケルはじっくりと観察しているようだった。

 しばらく無言の時が続いていたが、やがて私の顔を見上げこう言ってきた。


「似合ってるなその制服。アイドルみたいにさまになってて、なんか雑誌の表紙みたいだぜ」

「えっ? あ、どうも……ありがとう」


 男子の制服が似合うって……。まあ早くも女子として注目されているわけだし、言い方に悪い印象も感じないけど。

 でも思ってた反応と違くない?


 やっぱり自分にはスカートとかより、男の子の格好が似合うのだろうか……。女の子らしいのは似合わないって自分でも分かってたけど、余計自信なくしちゃうなあ。


「クラス分け見に行こうぜ。おんなじクラスだといいなあ」


 男友達に話すような無邪気さで、タケルは私を掲示板の方へと誘っていく。

 新入生の名簿が列挙された紙を、二人並んで確認した。


「ありゃ、クラスは別だ。俺が1組で、ユキは3組か」


 残念だなあと思う。なんとなく日中も一緒にいられるような気分でいたので、ともに過ごせる時間が削られてしまったようでショックだった。


「まあそう落ち込むなよ。放課後とかにいっぱい遊べばいいだろ?」


 性別を見抜くことはできないが、相変わらず優しいタケル。あの頃と同じように、元気出せよと励ましてくれた。


「うん、そうだね」


 このあとは校舎内へと入って、それぞれの教室へと別れるわけだが。その前に……。


「あ……あのねタケル!」

「ん?」


 このまま女だと気づかれないのはなんか腑に落ちない。少々恥ずかしかったが、私は自分の胸にシャツの上から手をあてた。


「ぼ、ボクの胸を見て……何か気づくことはないかい?」


 さすがにこれは一発で気づく要素。男性用のシャツはパッツンパッツンになっていて、ボタンが弾けそうなくらい膨らんでいたのだ。


「気づくこと? そうだなあ……」


 私の胸部に視線を向けるタケル。再会した幼馴染にそんな部分を見つめられて、私は顔から火が出そうだった。


(早く気づいてよ……。なんか凝視する時間が長くない?)


 気のせいだろうか、食い入るようにじ~っと見つめてきている気がする。瞬きも忘れて見入っているようだった。


 まあ、ずっと男子だと思ってたやつがこんなおっぱいつけてたら、気になるのが当たり前か……。

 決して一匹のオスとして欲情して見てるとか、そういうことではないんだよね⁉


 ところがタケルはむふむふと鼻息を切らしており、興奮した様子でかぶりついていた。

 あ、あれ? やっぱり女だって気づいてるの?


 ガン見されるのは勘弁してほしかったが、本当の性別に気づいてもらえたのなら嬉しさも感じる。ドッキリはしょせん遊びのことだし、女だと認めてもらえた方が結果としてはいい。


 さあ早く言ってくれタケル――。『お前女だったのかよ⁉』って!


 定番の展開になることを期待して、私は『バレちゃった? 実は男装ドッキリでした~』という返しの言葉まで用意しておく。


 いつでもいいよと受け入れ態勢を整えたところで、しかしタケルはいい笑顔を向けてとんでもないことを言ってきた。


「すげえ大胸筋だな! なんかスポーツでもやってんのかお前?」


 な、何ぃ⁉


 こんなわがままなおっぱい見ても、それでも女だと気づかないだと~⁉


 あまりの衝撃回答に頭が痛くなってくる……。大胸筋? 硬さが全然違うだろうがよ。シャツの上からでもそれくらいは誰でも分かるぞ……。


「じ、実は筋トレにハマっててね~。ちょっと鍛えすぎちゃったかな~、はは……」


 いやどう見ても女の乳だろ! と自分から種明かししてしまうのはプライドが傷つく。あくまでタケルの方から自然に気づいてほしかったため、適当に話を合わせてやるしかなかった。


「そうなのか。今度俺にもトレーニング方法教えてくれよ」


 興奮して見てたのはトレーニングマニアだったからなのか? そういえばタケルは、高校生になって男性らしい体つきになっているな……。


「う、うん……。そのうち……覚えてたらね」

「じゃ、また放課後にな~!」


 気持ちのいい笑顔で走り去っていくタケル。結局女だと気づかれることなく朝を終えてしまった。


(う、うそでしょ……? すぐにバレると思ってたのに、タケルのやつ全然気づいてくれないじゃん!)


 期せずしてドッキリ成功となったわけだが、『私ってそんなに女としての魅力ないの~⁉』と思わず心で叫んでしまう私。タケルの鈍感さに呆れて棒立ちになっていた。


(どうしよう……)


 全然女だって気づかれないんですけど~⁉






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございます。更新の励みになるのでフォローや☆☆☆をお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る