第2章: スポーツテストと新たな関係性の兆し

第6話 スポーツテスト前夜の準備と期待

 その日の朝のホームルームで、担任の教師からスポーツテストの実施が告げられた。来週の火曜日。全学年一斉に行われるため、体育の授業が合同になることも珍しくない。和樹は、去年のスポーツテストで、咲良がシャトルランで苦しそうに顔を歪めていたのを思い出した。今年もきっと、肩や足に負担がかかるだろう。


 昼休み、咲良は友人たちと楽しそうに話しながら、和樹の席の近くにやってきた。

 「ねえ、和樹。来週の火曜日、スポーツテストだって。また肩凝るだろうなー」

 咲良はそう言って、大げさにため息をついた。その言葉に、和樹の心は少しだけ浮き立った。彼女が自分に、身体の悩みを打ち明けてくれる。それは、彼女にとって自分が「便利」な存在であると同時に、信頼されている証拠でもあると感じていた。

 「そうだな。特にシャトルランとか、結構肩にくるからな」

 和樹が答えると、咲良は大きく頷いた。

 「でしょ?だからさ、和樹。スポーツテストの後、またマッサージお願いしてもいい?」

 その言葉に、和樹は内心でガッツポーズをした。彼女の方から求めてくれる。それは、和樹にとって何よりも嬉しいことだった。

 「もちろんいいよ。でも、スポーツテストで凝る前に、少しでも負担を減らしておいた方がいいんじゃないか?」

 和樹は、以前バレー部で故障した際に調べた知識を思い出しながら言った。

 「え、そうなの?どうすればいいの?」

 咲良は興味深そうに和樹の顔を見た。

 「簡単なストレッチとか、ウォーミングアップの方法とか。事前にやっておけば、筋肉の負担も減らせるし、パフォーマンスも上がるはずだ」

 和樹は、体育の授業で習った内容や、自分で調べた知識を交えながら、いくつか具体的なストレッチの方法を説明した。咲良は真剣な表情で頷きながら、和樹の言葉に耳を傾けている。

 「へえ、和樹って本当に詳しいんだね。なんか、スポーツトレーナーみたい」

 咲良は感心したように言った。その言葉に、和樹は少し照れた。

 「まあ、昔の経験からな。それに、咲良が少しでも楽になるなら」

 和樹は、そこまで言いかけて、言葉を飲み込んだ。咲良のためなら、という気持ちが強すぎることを悟られたくなかった。


 放課後、和樹は部活を終えてから、スマートフォンで「肩こり マッサージオイル」「スポーツ後 筋肉痛 ケア」といったキーワードで検索を始めた。咲良の肩こりを少しでも和らげてあげたい。そのためなら、どんなことでもしてあげたい。そんな思いが、和樹の心を占めていた。

 画面には、様々なマッサージオイルや、筋肉痛を和らげるためのクリームなどが表示される。香りつきのもの、温感効果のあるもの、肌に優しい成分のもの。どれがいいのか、和樹は真剣に悩んだ。まだ、咲良の身体に直接触れることはない。しかし、いつか、もし彼女が望むなら。そんな淡い期待が、和樹の胸の奥で膨らんでいくのを感じた。

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