第5話 新学期の日常と深まる身体意識

 咲良のマッサージが和樹の日常の一部となってから、一週間ほどが過ぎた。咲良は以前よりも笑顔を見せることが増え、友人たちとの会話も弾んでいるように見えた。和樹は、彼女のそんな変化を間近で見られることに、言いようのない喜びを感じていた。彼は授業中、時折咲良の背中を、その細い首筋を、そして集中してペンを走らせる腕の動きを無意識に追っていた。彼女が身体を僅かに揺らすたびに、制服のブラウスの下のラインが意識を惹きつけた。


 今日の体育は、3年1組と2組の合同授業だった。体育館に移動し、和樹は更衣室で学校指定の運動着に着替える。ジャージ姿の生徒たちが行き交う中、和樹は体育館の入り口で咲良の姿を探した。

 すぐに彼女は見つかった。体操服姿の咲良は、書道部で鍛えられたしなやかな身体とは裏腹に、スポーツテスト後から始まった部活の練習で、少し筋肉がつき始めた印象だった。髪はいつものようにポニーテールに結ばれ、額にかかる後れ毛が彼女の活発さを際立たせている。その運動着の胸元が、胸の形に合わせて僅かに膨らんでいるのが見て取れた。

 「和樹、ぼーっとしてないで、早く来なよ」

 咲良の声に、和樹ははっと我に返った。

 「あ、ああ、今行く」

 慌てて咲良の元へ駆け寄ると、彼女はふわりとシャンプーの香りを漂わせた。


 授業が始まり、準備運動が始まった。二人組でのストレッチでは、和樹は咲良と組むことになった。咲良が身体を前に倒すと、背中の運動着がぴたりと肌に張り付き、彼女の背骨のラインや肩甲骨の動きが鮮明に浮かび上がる。和樹の指が、彼女の肩に軽く触れる。運動着の薄い生地越しに伝わる身体の温もりが、和樹の指先から腕へと、微かに熱を帯びて広がっていくのを感じた。

 「もう少し、いける?」

 和樹が声をかけると、咲良は「んー」と小さく唸りながら、さらに身体を前に倒した。そのたびに、身体の曲線がより強調され、和樹の視線は思わず、そのインナーウェアの存在を意識した。


 普段の授業とは違い、体育の授業では咲良の活発な動きを目の当たりにすることが多かった。ボールを追いかける時の真剣な眼差し、高く跳び上がるしなやかな身のこなし、そして、額に汗を浮かべながらも必死に走る姿。そのどれもが、和樹の知っている「月島咲良」とは違う、新たな魅力を放っていた。彼女がボールをキャッチするたびに、腕の筋肉が隆起し、その下の肌が透けて見えるような錯覚に陥った。


 授業後、汗を拭きながら、咲良が和樹に近づいてきた。

 「ねえ、和樹。今日の体育で、また肩が凝っちゃったみたい。今日の放課後、お願いしてもいい?」

 和樹の顔を見ると、彼女は遠慮なくそう言って、こりを感じているであろう肩をトントンと叩いた。その言葉に、和樹の胸は高鳴る。マッサージは、もう「便利」なだけではない。和樹にとって、咲良の身体に触れられる、彼女の近くにいられる、かけがえのない時間になりつつあった。

 「わかった。どこでする?」

 和樹が問いかけると、咲良は少し考えて、にこりと笑った。

 「うーん、そうだね。じゃあ、今日は部活の前に、美術室でどう?あそこ、放課後はほとんど誰も使わないから、ゆっくりできるでしょ」

 美術室。普段はあまり足を踏み入れない場所で、二人きり。和樹の胸は、期待と、そして微かな緊張でいっぱいになった。


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