静かな町は、青春の舞台となる。②

 玄関のドアはどちらに開くのか。そう思ったことはないだろうか?

 押すのか引くのか。すなわち、内開きか外開きか。それぞれにメリットとデメリットがあると思う。

 日本は靴を脱ぐ習慣があるため、一般的には外開きが多いらしいのだが―—。

 この家のドアは押しても引いても開かない。つまり、どちらでもないわけだ。

 鍵が壊れている?いや、鍵を差し込んだ時、しっかり『ガチャ』となっていたはずだ。多分。

 ドアを開くのになにか特殊な工程がいるのかもしれない。そんなこんなで十分が経過——。


「あ、開かねぇ......。」


 気持ちのいいスタートをきるはずが、スタート地点に立つことじたい、許されないらしい。


「不動産屋に問い合わせるか?いや......。」


 不動産屋に連絡しようと取り出したスマートフォンを、再びポケットへしまい込む。この家を購入する際の契約を思い出したからだ。

 家の購入にあたって、不動産屋の方から条件が提示された。

 その条件とは......。

①この物件を購入された場合、土地の所有権を三年間手放さないこと。譲渡するの も、販売するのも禁止。

②この物件に関して、弊社に一切の連絡をよこさないこと。

 この二つだ。

 土地の売買についてはよく分からないが、調べてみたところ、土地の個人での販売は普通に行われているらしい。

 そう考えると、ずいぶんおかしいが、こちらからの条件として一万円から八千円への値下げで、お互い納得することができた。

 ②に関しては、高い家を買ってもらえず、一方的に拗ねているだけだろう。

 ともかく、この契約を早々に破るのは個人的にも得策だとは思えない。

 もう少し、粘ってみるか......、と思ったら。

 地面になにか動いているのが見えた。虫だろうか、よく見てみると......。


「ありぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」


 叫んだ瞬間、視界が反転する。


「そっちにはドアが―——!!」

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