第1章

静かな町は、青春の舞台となる。①

 不動産の人はたしか、この家を『ワケあり』と言っていた。

 昔、殺人事件でも起きたのかもしれない。でも俺はそんなこと、どうでもいいと思っている。大事なのはラノベを集中して執筆できる環境かどうか、だ。

 だが、一般的な男子高校生が持っているお金なんて、たかが知れている。親からの仕送りを足しにしても、アパート一つ借りることさえ厳しいだろう。

 しかし、この家はどうだろうか。

 木造二階建て一軒家。しかも庭付き。長年放置されていたからか、ところどころ傷ついているが、そんなものはもともと視野に入れていない。これでたったの一万円。買う以外の選択肢はないだろう。

 この建物があるのは、牧峰(まきみね)二丁目の中心部。二丁目と違い、本町には、駅があり商店街があり―—。きっと祭りでも行われるのだろう。

 それに比べ二丁目は正反対だった。嬉しいことに、人口はおよそ二十人ほどらしい。また、ほとんどの人は本町よりに住んでいるため、実質ここに住んでいるのはゼロ人と言ってもいいだろう。

 こうして引っ越してきたわけだが......。

 引っ越し業者はなぜか荷物を置いて、慌てて帰ってしまった。


 「こうなったら自分で運ぶしかない、か。」


 もともと自分の部屋にあった荷物なので、数えるほどしかない。重いものと言えば、ラノベを入れた段ボールくらいだろうか。

 ガソリンの匂いを残していった引っ越し業者に悪態をつきながら、大事な大事なラノベを慎重に運んで行った。

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