第7話 二人で買い物、そして……

Side山極蒼

 翌日……。

 あらかじめ星奈さんと約束していた場所に、時間の三十分前に向かう。

 すると、すでに星奈さんが約束の場所で待っていた。

 星奈さんがちらりとこちらを見てから駆け寄ってくる。


「やあ蒼君、随分と早いね。私も今来たところだよ」


 それはこっちのセリフですよ星奈さん……。

 なんでこんなに早くからいるんですか……。

 それはそうと星奈さんの私服姿がとてもカッコいい。

 思わず見とれてしまいそうだ。


「じゃあ早いけど行こうか。私に付いてきてくれ」


 星奈さんに連れられて普段は中々来ないショッピングモールをゆっくりと歩く。

 横に並ぶと星奈さんの背の高さがよくわかる。

 百七十センチある僕よりも一回り大きい。


「そう言えば星奈さん、今日は何を買うんですか?」


「あぁ、そういえば言っていなかったね。今日はハンカチとネクタイを買う予定だよ。贈り物としては定番だが外れることもないと思ってね。色や形は蒼君だよりだからよろしく頼むよ!」


 そこまで頼られたら張り切るしかないな!

 胸が高鳴りを感じながら、気合いを入れて紳士服専門店に向かう。


「蒼君、この四つの中から選ぼうと思うんだけど……どうかな?」


 そう言って星奈さんが持ってきたのは緑いろの水玉柄と青色のチェック柄のハンカチとネクタイだった。

 それに対して僕は青色のチェック柄のハンカチとネクタイを指さす。


「うーん、この中だったらこっちの方を選びますね。こっちの方が僕的には貰ってうれしいですし」


「そうか! じゃあこっちにしよう」


 そうして星奈さんは軽い足取りでレジに向かっていく。

 どうやら結構なお値段のようだ。

 やはり誕生日プレゼントというだけあって奮発しているんだろう。


「さて蒼君、付き合ってくれてありがとう! お昼ご飯は何が食べたい? 何でも好きなものを言ってくれ」


 うーん、何がいいかなぁ?

 周りに何か美味しそうな店は……あった!

 前々から行ってみたかったハンバーガー店!


「星奈さん、僕、あそこのハンバーガーが食べたいです!」


「よしわかった、じゃあ行こうか!」


 二人でハンバーガー店に向かい、それぞれ食べたいものを注文する。

 ちなみに僕たちはお日様バーガーというものを頼んでみた。

 太陽を模した辛いパティがとてもおいしかった。


「蒼君、これを食べ終わったら一緒に私たちが友達になった公園に行かないかい? そこできちんとお礼を言いたいんだ」


 そういう星奈さんに連れられて僕たちになじみ深い公園に向かった。


「思えば君との仲が一気に深まったのもここだったね。君の反省ノートに書かれたことの改善点について語り合ったっけ」


「そうですね、あの時は助かりました、たくさんの生の声を聞けたのでコミュニケーション能力がかなり向上しましたよ!」


 そうしてしばらくの間前にも座っていたベンチで和気あいあいと雑談していると、やがて星奈さんが何やら覚悟を決めたような顔でこう言った。


「…………蒼君、君に一つ言いたいことがあるんだ」


 そうして星奈さんがベンチから立ち、こちらに向き直る。

 え⁉ 僕、星奈さんに何かしちゃったかな……?

 だとしたら謝らないと……。

 そう考える僕とは裏腹に、星奈さんは僕が全く予想しなかった言葉を口にする。


「蒼君……私と付き合ってくれないか!」


 …………え? え、え? ええええぇぇぇぇ!?

 せ、星奈さんが……僕に告白!?

 ……受け入れたい、是非とも告白を受け入れたい。

 だけど問題がある……。


「……星奈さん、私でいいんですか……?」


「あぁ、君がいい!」


 ……星奈さんの覚悟は決まっているみたいだ。

 僕もそれに応えないと。


「……わかりました。ですが付き合うには一つだけ条件があります……僕のトラウマを打ち破ってください!」


 星奈さんは不思議そうに聞き返してくる。


「君の言うトラウマが何かはわからないがその挑戦、受けよう!」


「では星奈さん、僕の唯一にして無二の攻略法を先に教えておきます。……絶対に拒絶しないでください」


「あぁ、わかった!」


 ふー、緊張するけど必要なことなんだ。

 やるぞ……。


「では…………質問します、貴女は何故僕のことが好きなのですか?」


 星奈さんはしっかりと質問に答えてくれる。


「私が君を好きになった理由はたくさんあるがその中でも大きいものを理由として上げよう。まずは何といってもこの前指の怪我を治療してくれた時だ。あの瞬間、私は君に恋をしていると自覚したんだよ」


 ……なるほど、あの時か。

 僕としては意識していなかったけど、今考えたら他人である星奈さんの手を触るとかいうヤバいことをしていたな……。


「じゃあ次……僕は残念ながら他人のことが怖いです。貴女はそれをどう打ち破りますか?」


「それは……こうさ!」


 そう言って星奈さんは僕を抱きしめる。

 いきなりのことに心臓が跳ね上がり、頭が真っ白になる。


「え、あ、ちょ、せせせ星奈さん!? い、いきなり何を……?」


「これが君の心の壁を打ち破る策だよ。どうだい? 君の心の壁は破れたかな?」


 う、うぅ~、まだ、もう少し……。

 僕の何重にも張り巡らされた茨のようなトラウマを星奈さんは一つずつ丁寧に引きはがしてくれている。

 それでも、まだ足りない。


「ごめんなさい、ごめんなさい……まだ足りないです……」


「なぜ謝るんだい? 私は最後まで付き合うさ、君のトラウマを打ち破るまではね」


 星奈さんは女神のような器の広さを見せた後に、最初に反省ノートを見られた時とは段違いの気持ちがこもった目で僕を見ながら頭を撫でてくれる。


「私は君のことが好きだ、受け入れてくれるかい?」


「……はい!」


 嗚呼、やっと……やっと鎖のようにがんじがらめになっていたトラウマが解けた。

 これでやっと、星奈さんのことが受け入れられる……!

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