第19話 『合宿の夜、楓の決意』

 受験強化合宿は、早くも三日目の夜を迎えていた。日中の講義と自習で、生徒たちの疲労は極限に達している。西山和樹も、頭の芯が痺れるような倦怠感に襲われながら、同室の友人の寝息を聞いていた。こんな夜に、まさか依頼があるとは。しかし、和樹は届いたメッセージに、静かに身を起こした。送信者は伊藤楓。内容は「少しだけ、付き合ってほしいことがあるの。自習室に来てくれる?」というものだった。自習室は消灯時間後も、一部が開放されており、夜間自習の生徒がちらほらいる。しかし、楓がわざわざ呼び出すからには、何か特別な理由があるのだろう。


 和樹が自習室の扉を開けると、奥の席で参考書を広げている楓の姿があった。彼女は陸上部のエースらしく、背筋をピンと伸ばし、ストイックな雰囲気を漂わせている。しかし、その顔には、日中の疲労と、どこか決意のようなものが混じっていた。周囲には数人の生徒がいるが、皆、自分の勉強に集中しており、こちらを気にする様子はない。

 「楓、どうしたんだ?こんな時間に」

 和樹が小声で尋ねると、楓は静かに参考書を閉じた。彼女の着ているTシャツと短パンの運動着からは、汗が乾いた後の、独特の運動後の匂いが微かに漂う。

 「和樹くん、来てくれてありがとう。私、どうしても和樹くんにマッサージしてほしいの」

 楓の声は、普段のきっぱりとした口調とは異なり、どこか切羽詰まった響きがあった。

 「受験勉強も、陸上も、もう全部が限界で……。身体がガチガチで、頭の中もパンクしそう。和樹くんのマッサージが、一番効くって、わかったから」

 楓は、和樹の顔色を窺うように、しかし真っ直ぐな瞳で訴えた。彼女の額には、日中の疲労から来るのか、微かな汗が光っている。和樹は、彼女が限界に近い状態にあることを感じ取った。

 「わかった。でも、ここだと他の生徒もいるし、難しいだろ?」

 和樹が周囲に視線を向けると、楓は静かに立ち上がった。

 「ここじゃない。もっと、集中できる場所で」

 楓はそう言って、自習室の奥にある、滅多に使われない個人学習ブースへと和樹を促した。そこは、完全に仕切られており、外部からは一切見えないプライベートな空間だった。和樹は、彼女の普段のストイックな態度からは想像できないような、大胆な行動に驚きを隠せない。


 学習ブースに入ると、楓はためらうことなくTシャツの裾に手をかけた。

 「和樹くんなら、大丈夫。もっと、楽になりたいから……これ、脱いでもいい?」

 楓の言葉には、迷いは一切なかった。彼女の瞳には、和樹への絶対的な信頼と、身体の奥底から湧き上がるような、切実な欲求が宿っている。和樹は、その視線に射抜かれたように、ただ頷くしかなかった。

 楓はゆっくりとTシャツを脱ぎ始めた。するりと頭を抜けると、白い機能性インナーのスポーツブラに包まれた、彼女の健康的な身体が露わになった。ブラジャーは彼女のバストにぴったりとフィットし、引き締まった腹部、そしてその下に続くしなやかな腰のラインが、和樹の視線を引きつけた。彼女の肌からは、普段よりも甘く、そしてどこか火照ったような体臭が漂ってきた。それは、アスリート特有の、研ぎ澄まされた生命力の匂いだった。


 和樹は深呼吸をし、緊張した手つきで、直接楓の肌に触れるマッサージを始めた。肩から背中、そして腰へと、指の腹でゆっくりと圧をかけ、リンパの流れを意識するように撫で下ろしていく。楓の肌はきめ細かく、ほんのりと温かい。

 「んんっ……」

 楓の口から、微かな甘い吐息が漏れた。和樹の指先が、彼女の身体の敏感な部分を探り当てると、楓の身体がビクリと小さく震える。和樹は、ブラジャーのサイドベルトから続く肋骨のラインを辿り、乳房の基部に触れた。

 「楓、胸のあたりも張ってるって言ってたな。ここも楽にしていくぞ」

 和樹は、乳房の基部からリンパの流れに沿って、優しく丁寧にメンテナンスマッサージを施した。スポーツブラのカップの上から、ゆっくりと円を描くように指を滑らせる。楓の身体は、和樹の指の動きに合わせて、微かに身悶え、深い息を漏らした。

 「はぁ……和樹くん……そこ……すごく、気持ちいい……」

 楓の頬は紅潮し、瞳は潤んでいた。彼女の身体が、快感によって震えるのが和樹の掌に伝わる。アスリートとしての彼女からは想像できない、官能的な一面が露わになっていく。


 次に、和樹は楓の脚の付け根へと手を滑らせた。ショートパンツの裾から、鍛え抜かれた太ももの付け根が露わになっている。

 「足もむくんでるって言ってたから、鼠径部のリンパも流していくぞ」

 和樹が鼠径部のリンパ節を優しく刺激するマッサージを始めると、楓の身体は大きく跳ね、甘い喘ぎ声を上げた。

 「あっ……ひぅっ……和樹くん……そこは……!」

 楓の言葉は、途切れ途切れで、理性を失いそうなくらい甘く響く。和樹の指先が、彼女の最も敏感な部分を探り当て、快感の波を次々と引き起こす。楓の身体は、熱を帯びて、和樹の指に吸い付くように反応する。

 「和樹くん……もっと……深く……お願い……」

 楓の声は、懇願するように和樹に迫った。彼女の肌から漂う、興奮した体臭が、この密閉された学習ブースに満ちているのを感じた。


 マッサージが進むにつれて、楓は和樹の腕を掴み、その身体を和樹に預けるように身をよじった。

 「和樹くん……私、正直言って、今、すごく不安なの……。受験も、陸上も、全部ちゃんとできるのかって……。でも、和樹くんがこうして触れてくれると、なんだか全部、どうでもよくなっちゃうくらい、楽になるの……」

 楓の言葉には、合宿による精神的なプレッシャーと、和樹への深い依存が混じり合っていた。彼女の身体が熱を帯び、和樹の指先に吸い付くように反応する。

 「和樹くんしか、こんなに私を気持ちよくしてくれない……。ねえ、私、このまま……もっと、和樹くんを近くに感じていたい……」

 楓の瞳は、潤んで、和樹の奥底を見つめていた。その視線は、初体験への具体的な期待と、和樹への強い欲求を明確に示唆していた。和樹は、楓の真剣な眼差しに、抗うことはできなかった。合宿の夜、誰にも知られることのない学習ブースの片隅で、二人の間には、これまで以上に濃密な空気が流れていた。

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