第26話 手料理
私たちがリビングで会話を楽しんでいると、
「ただいま。今から料理を作るから、
私は慌ててソファから立ち上がり、
「そんなわけにはいかないわよ! 私も手伝う!」
「いいから、友達の相手をしててよ。
ゲストの相手をするのも、社長夫人の仕事なんだから」
そう言ってエプロンを付けた
この場合、私はどうすれば?!
立ち尽くす私に、
「いいから甘えておきなさいよ。
そうなのかなぁ。最近はサラダくらいなら作れるようになったんだけど。
ソファに座り込んだ私に
「いい旦那さんじゃない。何が不満なの?」
「不満と言うか、自分の意思で結婚したわけじゃないから」
「でも続けるかどうかは、
それでいいじゃない?
始まりが変則的だっただけで、後は他の夫婦とかわらないでしょう?」
私はため息交じりで答える。
「そう、なのかなぁ……。
この一か月は仕事で手一杯で、夫婦の仲をどうするかとか、あんまり考えられなかったし」
「これから考えてあげればいいじゃない。
あんなに真剣に
手放すのは惜しいわよ?」
「それも分かってる……でもきっかけがなくて」
「後一か月もしないでクリスマスよ?
その時に思い切って伝えてみたら?
最高の思い出になるんじゃない?」
そっか、もうそんな時期か。
誕生日プレゼントでもいいのかなぁ。
インターホンの音が鳴り響き、
「
「はーい!」
パタパタとモニターに近寄り、映し出された人影を確認する。手荷物? 私服の配送業者?
「はい、どなたですか」
『若旦那に頼まれて、お酒を持ってきました』
私は
「ねぇ、なんでお酒を注文してるの?」
「僕は二十歳前で、お酒を直接買えないからね。
どうしても誰かに持ってきてもらうしかないんだ」
法の抜け穴?!
私はすぐに玄関に出てドアを開けた。
私服の男性が紙袋に入ったワインを私に手渡してくる――重たっ?!
「じゃ、若旦那によろしく」
それだけ言うと、私服の男性はすぐに帰ってしまった。
ワインの紙袋を抱えた私はダイニングに戻り、床に紙袋を置いた。
「ねぇ、あの人は誰なの?」
「お爺ちゃんの秘書の一人。
元は
僕に秘書はいらないから、再就職先を斡旋しておいたんだ」
相変わらず、気が利くことで……。
「
「AIがあれば、スケジュール管理は事足りるし。
電話連絡も僕が直接したほうが、話が早いでしょ。
最近は電話以外のコミュニケーションが主流だし」
私は小さく息をついて答える。
「つくづく、合理性の塊ね。
――ねぇ
「僕の? 十二月二十四日だよ。クリスマスイブ」
おっと、イブと重なるのか。
そうなるともう、残るタイミングはクリスマスイブしかないなぁ。
こちらに振り向いた
「どうしたの? 何かプレゼントでも貰えるのかな?」
「それはまだ決めてないんだけど……何か欲しいものはある?」
「
「はいはい、分かったから料理に専念してなさい!」
私は火照った顔のまま、
****
夜になり、ダイニングテーブルに料理が並べられていく。
「アレンジ料理だけど、口に合えば」
「エビチリに牛のカルパッチョ、カプレーゼ? 凄いわね、手作りなの?」
「ナムルにポテトサラダ、春雨サラダもあるわね。
この上でバゲットサンドもあるの?
こんなに食べきれないわよ?」
「僕が食べるから心配しないで。
じゃあ食べようか」
「待って! 写真撮らせて!」
スマホを構えた
「
「美味しそうな料理を前に、写真を撮らないとかないでしょ!」
私と
撮影が終わると、私たちは一斉に「いただきます」と告げ、料理に手を伸ばしていく。
料理を口にした
「やだ、美味しい! 十八歳でこの腕前なの?!」
「レシピ通りに作ってるだけだよ。誰にだってこれくらいはできるって」
「言われてるわよ、
「うるさい! 分かってるわよ!」
くっそー、なんとしても料理を覚えてやる!
でも悔しいけど、
これに勝てる日は来るのかな。
「焦らなくていいってば。できることをやっていけばいいじゃない。
料理を覚えたければ、僕がいつでも教えるし」
「……料理教室に通うのは?
休みの日はゆっくりしたいだろうし」
「だーめ。僕以外の人が
「案外、独占欲が強いタイプなのね」
「人畜無害そうに見えて、意外よね。
――
私も戸惑いながら
「ここまで
「何よその『送迎』って。社長に送り迎えさせてるの?」
「だって、『単独行動禁止、他の人と行動するのも禁止』って言うから……」
「一人で帰宅とか、危ないでしょ。
一緒に行動させてる人が安全な保証もないし。
僕が傍に居れば、僕が守れるから」
「べた惚れじゃない……ここまで思われて、まだ不満なの?」
私は唇を尖らせて答える。
「不満なわけじゃないってば。心の整理がつかないだけ」
「それなら早めに答えを出してあげなさいよ?
このまま生殺しじゃ、
やっぱりそうなのかなぁ。
せめて
悩む私の背中を、
「焦る必要はないから。
私は小さく頷くと、ワインを
****
翌朝、
「私たちは午前中で失礼するわ。
ついでだから実家に立ち寄りたいし、帰りは自力で東京まで戻るから」
私は
「気を使わせちゃった? ごめんね」
「なに言ってるのよ。こちらこそバスに乗せてもらえて、片道の交通費が浮いたわ。
それに社長夫人になってまだ一か月なんでしょ?
覚えることはまだ多いはずだし、早く一人前になってあげなさい」
「はーい」
リビングの隅で
『頑張れ』か。何を頑張ったらいいのかなぁ。
静まり返った家で、
「
「んー、じゃあ一緒に映画でも見ようか!」
二人でリビングのソファに座り、ネット配信の映画を流していく。
今はまだ二人きり。ここに子供たちが混ざったら、忙しい日々になるだろう。
その頃には
そんな未来を思いながら、私は
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