第7話 記念撮影
シャワーから上がった私がリビングに戻ると、
「どうしたの? 仕事?」
「違うよ、スマートロック。スマホ出して」
おっと、家の鍵か。
パタパタと寝室に向かいスマホを手に取ると、リビングに戻っていく。
ロックを解除してから
「はい、すぐ終わる?」
「ちょっと待っててね」
手慣れた手つきでアプリをスマホにインストールしていき、ノートPCにカメラを向けていた。
画面に映るQRコードを撮影すると、しばらく画面を見つめていた
「……はい、インストール完了。電池が切れないように注意して。
この家は警備会社と契約してるから、窓から入ろうとすると警備員が飛んでくるよ」
「え、物理キーはないの?」
「僕が使わないからなぁ。なくても困らないけど、不安なら持ってくるよ」
スマホを受け取った私は、
「ねぇ
「いいけど……私たち、バスローブなのよ?」
「他人には見せないよ。僕だけの宝物にしたい」
こいつ、どんだけ可愛いの?!
「仕方ないなぁ……一枚だけだよ?」
でも明らかに距離がある。遠慮してるのかな?
私は小さく息をつくと、
「ほら、『思い出』にするんでしょ? ちゃんとそれっぽい姿で写真を撮ろう」
驚いた様子の
「……いいの?」
私は頬見ながら小さく頷いた。
「いいわよ、写真くらい」
私はカップルっぽく見えるように、
……大丈夫だよね?! 年上の経験豊富な女子らしく振る舞えてる?!
内心でバクバクの心臓を抑えながら、
「それじゃあいくよ?」
カシャリと撮影音が響き、スマホに私たちがくっついてる姿が映し出された。
「……私も写真を撮っていいかな」
「いいけど……いいの?」
私は微笑みながら頷いた。
「記念なんでしょ?
今度は私がスマホを構え、インカメラでアングルを確認していく。
自分が一番かわいく映る角度はっと……。これかな?
私は彼の肩を抱きよせて、しっかり体をくっつけてあげて告げる。
「じゃあいくよ?」
カシャリと撮影音が鳴り、私のスマホにもツーショット写真が映し出された。
「……ありがとう、
「ううん、どういたしまして」
写真を撮ったはいいけど、どうしようかな。SNSに上げられる姿じゃないし。
「あー、しまった。すき焼きの写真も撮れば良かった」
リビングの隅で
私は唇を尖らせて
「仕方ないじゃない、思いつかなかったんだから」
「何か見たい番組、ある?」
「んー、じゃあ映画でも見ようか」
頷いた
私はホラー映画を指さして
「あ、これ見よう! 結構面白いよ」
「ほんとに? 見たことないなぁ」
「ホントホント! 最後がねぇ~?」
「あー待って! ネタばれなし!」
私たちは笑いながら、体を少しだけ寄せ合って映画を見始めた。
ほんの少しの隙間、五センチもない距離に
……バスローブの下は、お互い下着なんだよなぁ。
襲ってくる気配は、今夜もなし。
主導権は私が握ってるはずだし、今夜はこのまま映画で時間を潰していこう。
密かに緊張で手に汗を握りながら、私は映画を楽しむふりを続けた。
****
夜十時を過ぎ、映画を二本見終わると
「今夜は早く寝ようか。夜更かしは美容の大敵だし」
私はクスリと笑みをこぼして答える。
「まるで女子みたいなことを言うのね」
「
立ち上がった
おずおずとその手を取り、私もソファから立ち上がった。
一緒にスマホを手にしながら、寝室に向かっていく。
……男の子と手をつなぐなんて、不思議な気分。学生時代ですらなかったのに。
私たちは黙って寝室のベッドに向かうと、昨晩と同じように布団に入った。
ベッドの中央よりで眠る私と、やっぱり端っこで眠る
ふと気になって、
「十八歳の男の子って、女の子を意識したりしないの?」
「するに決まってるじゃないか。意識してなかったら、こんなに緊張しないよ」
年頃の男の子ってガツガツしてるって聞いたけど、
こちらに近づいてくる気配も、様子を窺う気配もない。
これなら今夜も安心、かな?
お腹いっぱいの満足感と、
****
翌朝、朝食の用意をしながら
「今日から少しずつ、うちの会社のシステムを覚えてもらうね。
ちょっと独特だから最初は戸惑うかもしれないけど」
私はコーヒーの香りを楽しみながら、
「独特って、どの辺が?」
「AIって分かる? うちはそのシステムを売ってるんだ」
あー、最近は良く聞くなー。
『賢い』っていう人と『馬鹿だ』っていう人と、意見がばらばらでよくわからない。
スマホで使ったことはあるけど、けっこう嘘を教えてくるんだよなぁ。
「賢いシステムなの?」
「うちのは特別製だからね。そこらのシステムよりずっと賢いよ」
「ふーん……なんていうシステム? 有名?」
「『クロノア・ニール』っていうんだ。
んーと、なんて説明しようかな。RAGって言っても分からないでしょ?」
当然ながらさっぱりだ。
私は小さく頷きながら
「どんなシステムなの? 聞いたことないけど」
「単体で動くシステムじゃないし、企業内システム用の補助システムだからね。
一般人が知らない名前だと思う。知ってたらすっごいマニアだよ」
私はコーヒーを一口飲んでから
「それで、なにをするシステムなの?」
「既存のAIシステムに接続して、外部ナレッジとして機能するんだ。
簡単にいうと、補助データをAIに提供するシステム、かな?」
ナレッジ……知識? うーん、業界用語は未だによくわからない。
「まぁいいわ。実際に見てみたらわかるかもしれないし――いただきます」
「おっと、いただきます」
私たちは食前の挨拶を済ませると、微笑みを交わし合いながらトーストを口に運んだ。
AIかー。私がAI用のシステム開発とか、できるのかな?
リビングの隅で、
「ほんとかしら……」
「慣れれば簡単だから。それにAI開発なら、キャリアとしてハッタリも効くしね」
ハッタリかー。きちんと実力を身に付けたいなぁ。
ITエンジニアとして一人前になれるのは、いつになるのかな。
そうしていつかは管理職に……なんて、まだ気が早いか。
私は
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