第3話 小さな抵抗
この世界の評価システムは、俺のような人間には残酷すぎる。でも、だからこそ面白い。
★1.2から★5まで――この長い道のりを、俺は必ず駆け上がってやる。
依頼掲示板の前に立つ。他の冒険者たちが取っていく高報酬の依頼を横目に、俺は最下段の茶色い紙に手を伸ばす。
『ゴブリン一匹討伐:報酬10G』
今日も、この屈辱的な依頼から一日が始まる。だが、俺には秘密がある。
実は最近、ゴブリンの行動パターンを研究し始めていた。彼らの移動ルート、餌場、繁殖期の習性。前世で培った分析力を使って、データを集めている。
「またゴブリン討伐ですか」
背後から声がした。ミナが申し訳なさそうな表情で立っている。
「アキラさん、今日もお疲れ様です」
受付嬢のミナが、いつものように優しい笑顔を向けてくれる。彼女は★3.7で、本来なら俺のような底辺とは話さないはずだ。でも、なぜか俺にだけは親切に接してくれる。
「ミナ、今日は少し違う」
俺は彼女に、手描きの地図を見せた。ゴブリンの出没地点を細かく記録したものだ。
「これは……すごい」
彼女の目が輝いた。
「アキラさん、こんなに詳細なデータを集めていたんですね」
「★1.2でも、できることはある」
俺の言葉に、ミナは複雑な表情を見せた。
ミナ・ロジャースは、この世界に転生して初めて俺に親切にしてくれた人だった。二十二歳の美しい女性で、金色の髪を三つ編みにして、清楚な白いブラウスを着ている。彼女の★3.7という評価は、受付職員としては標準的だが、俺にとっては雲の上の存在だ。
「ミナ、お前はなぜ俺に優しいんだ?」
突然の質問に、彼女は困ったような表情を見せる。朝の光が窓から差し込み、彼女の金髪を美しく照らしていた。
「それは……アキラさんの目を見ていると、他の人とは違う何かを感じるからです」
「何か?」
「諦めていない目、とでも言うんでしょうか。★1.2でも、まだ夢を捨てていない目をしています」
彼女の言葉に、俺は少し驚く。そんなことを言われたのは、前世を含めても初めてだった。
「夢か。確かに、俺には夢がある」
「どんな夢ですか?」
ミナが身を乗り出して聞いてくる。彼女の瞳には、純粋な興味が宿っていた。
「この腐った評価システムを、根本から変えてやることだ」
俺の言葉に、ミナは息を呑んだ。周囲を見回し、誰も聞いていないことを確認してから、小声で言う。
「それは……危険な考えです」
「分かっている。でも、このままじゃ何も変わらない」
俺は依頼書を握りしめた。
「★1.2の俺が★5になる。その過程で、このシステムの欺瞞を暴いてやる」
ミナは黙って俺を見つめていた。その瞳には、恐れと、そして僅かな期待が混じっているように見えた。
「アキラさん……」
「心配するな。俺は必ず生きて帰ってくる」
ギルドを出る時、俺は振り返らなかった。だが、ミナの視線を背中に感じていた。
アストラム王国の城下町を抜け、南の森へと向かう。石畳の大通りから外れ、次第に人通りが少なくなっていく。俺のような低評価者が通ることを許されているのは、裏路地と城壁外の危険地帯だけだ。
道行く人々は、俺を見ると露骨に道を譲る。まるで伝染病患者を避けるかのように。
「★1.2が通るぞ」
「子供を連れて離れろ」
「目を合わせるな、評価が下がる」
慣れたものだ。前世でも、俺は似たような扱いを受けていた。電車で隣に座られることを避けられ、エレベーターでは他の階のボタンを押されて一人にされた。
人間の残酷さは、世界が変わっても変わらない。
森の入り口に到着すると、そこには粗末な看板が立っていた。
『危険度:低 推奨評価:★2.0以上』
★1.2の俺には、本来立ち入ることさえ推奨されていない場所だ。だが、ゴブリン討伐の依頼を受けた以上、行くしかない。
薄暗い森の中を進む。前世の俺なら、こんな場所に一人で入ることなど考えられなかった。だが、この一年で俺は変わった。いや、変わらざるを得なかった。
カサカサと草を踏む音がする。俺は錆びた剣を抜いた。柄の革は擦り切れ、刃こぼれも目立つ。まともな武器屋は★1.2には売ってくれないので、これが精一杯だ。
「ギギッ」
予想通り、ゴブリンが姿を現した。緑色の小柄な体に、ボロ布を巻いただけの姿。手には粗末な棍棒を持っている。
通常、ゴブリンは群れで行動する。だが、俺が狙うのは群れからはぐれた個体だけだ。これも、この一年の研究の成果だった。
★1.2の底辺勇者が『弱者の叡智』で評価システムを破壊する @pentan55
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