第36話 シノンの告白
「かぞく……?」
シノンの真剣な言葉に、俺は思わず間の抜けた声を漏らした。だが、すぐにその言葉の意味を、この世界ならではの文脈で理解する。
そうか……彼女は魔族の血を引くことで、ずっと孤独だったんだ。俺が彼女の出自を受け入れたことで、本当の意味で心を開いてくれた。そして、専属メイドとして、これからもずっと俺のそばに仕えたいという、最大級の忠誠心を示してくれているんだな。
「ああ、もちろんだ! シノンは俺にとって、もうとっくに大事な家族だよ! これからも、ずっと専属メイドとして、俺のそばにいてくれよな!」
俺が彼女の気持ちに応えようと、満面の笑みでそう言うと、シノンは一瞬、きょとんとした顔で固まった。そして、静かに、しかしはっきりと首を横に振ると俺の手を握りしめる。
まるで逃がさないとでもいうかのように……
「……いいえ、ご主人様。わたくしの言う『家族』は、そういう意味ではございません」
「え?」
「私が本当になりたいのは、あなた様のお姉様でも、妹でもありませんし、専属メイドでもありません。私がなりたいのは……あなたの『妻』です」
「……つま?」
今度こそ、俺の思考は完全にフリーズした。シノンは、重ねた俺の手に、もう片方の手も添え、その美しい青い瞳で俺を射抜くように見つめながら、堰を切ったように想いを紡ぎ始めた。その声は、静かだが、底知れない情念と狂気を孕んでいた。
「ええ、妻です。あなた様の全てを、この手で管理し、あなた様のためだけに奉仕する。それこそが、わたくしの望みなのです。あなた様の食事も、健康も、交友関係も、その心も……全て、このわたくしが管理いたします。あなた様は、ただわたくしの用意した完璧な日常の中で、わたくしだけを見て、微笑んでいてくださればいいのです」
シノンの瞳から、ふっと光が消える。無表情なその顔が、ぞっとするほど美しく、そして恐ろしく見えた。
「朝は私の声で目覚め、昼は私の作った食事をとり、夜は私の腕の中で眠る。あなた様の身の回りの世話は全て私がいたします。あなた様が私なしでは何もできなくなってしまうこと、それこそが私の幸せなのですから」
彼女はうっとりとした表情で、俺の手を自分の頬へと導く。
「もちろん、ご主人様がハーレムを望んでいることは知っています。セレスティア様も、シルヴィア様も、素晴らしい方々です。しかし、あなた様の全てを真に理解し、受け入れ、管理できるのは、この私だけです。そんな私こそがあなたの正妻にふさわしいとは思いませんか?」
にっこりと蠱惑的に笑いながら彼女は言葉を続ける。
「だから、お願いです、ご主人様。わたくしを、あなたの一番の妻にしてください。そうすれば、私の全ては、永遠にあなた様のものですよ……」
それは、もはや告白というよりも、呪詛に近い愛の言葉だった。
俺の頭の中で、昨日までの常識がガラガラと崩れ落ちていく。
シノンも……俺のことが好きだったのか……? あの過剰な世話も、監視も、全部、メイドとしての忠誠心だけじゃなくて、俺への恋愛感情から……? どうなってるんだ、この世界は……!?
セレスティアに続き、シノンまでもが俺を異性として愛している。
『貞操逆転世界』という都合のいいフィルターが、また一つ、剥がれ落ちていく。
目の前で、答えを待つ彼女の瞳は、期待と、そして逃がさないという強い意志に満ちていた。俺は、その重すぎる愛を前に、ただ言葉を失うことしかできなかった。
「驚いてらっしゃるようですね、そろそろ時間ですし、一度屋敷に戻りましょうか。今、ご返事をいただけなかったのは残念ですが……」
そして、俺は頭をぐるぐるさせながらも、屋敷へと戻るのだった。
★★★
どんどん逃げ道がなくなっていく……
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