第28話 カズキとイザベラ

「さあ、散々振り回してくれたお礼をさせてもらうぜ。盗聴魔族さんよ!!」



 俺の言葉を合図に、部屋の空気が張り詰める。目の前には、自慢の結界を破られ、信じられないという顔で立ち尽くす魔族アスタロト。

 その両脇には、先ほどまでのしおらしさが嘘のように、絶対零度の殺気を放つ聖女と魔導士が控えている。



「ふははは、面白い……面白いじゃないか!  真実を勘違いひとつで無効化するとは!! メンタルが強いというよりも狂っているな!!」



 アスタロトは己の魔法が破られたというのに楽しそうに笑う。だが、その魔力はかなり消耗しているのがわかる。




「カズキ様を傷つけようとし、私たちの心を弄んだ罪……その身をもって償わせてさしあげますわ! セイクリッド・ジャッジメント!」

「乙女の秘密を暴露したこと、地獄で後悔させてあげる!  古の雷よ、彼の者を貫け! エンシェント・サンダー!」


 セレスティアの放つ神罰の光と、シルヴィアの放つ古代の裁きの雷が、寸分の狂いもなくアスタロトに殺到する。その威力は、先ほどゴブリンの洞窟で見たものとは比較にならない。



「ぐううううう!! 魔力が足りん」



 アスタロトは辛うじて魔力障壁で防ぐが、その衝撃に大きく後退した。 強力な魔法を使ったのに、俺たちが動揺しなかったから力を吸えなかったのだ。そして、その隙を、俺が見逃すはずがない。



「今度こそくたばれ!!」




 床を蹴って一気に距離を詰め、近くにあった装飾用の剣を手に取り、アスタロトに斬りかかる。俺の剣技と二人の魔法。かつて魔王軍を蹂躙した連携が、今、ここに再現される。



「くくく……! どうやら私の負けの様だ。だが、最後に面白いものを見せてもらった。人間界に来た甲斐があったというもの。悔やむはその勘違い……どこまで貫けるか、見届けたかった」

「だから、勘違いじゃないっての!! これで終わりだ!! 我が剣よ、聖剣となれ!!」

「いや、私も女の子になればワンチャン見れるか?」



 なんか気色悪いことを言い出したアスタロトを聖なる力をまとわせた剣で、その胸を貫くと黒い霧となって消え去った。



「……ん……ここは……?」



 嵐が去った大広間には、椅子に縛られたまま気絶していたイザベラが呻きながら意識を取り戻した。



目の前の光景――破壊された広間と、哀れみの顔で自分を見下ろす俺たちを見て、全てを悟ったのだろう。彼女の顔から、すっと傲慢さが消え、代わりに深い悔恨と絶望の色が浮かんだ。



「……わたくしはあの魔族にいいようにつかわれていただけですのね」



 ぽつりと呟かれた言葉には、力がなかった。俺が黙って彼女の縄を解くと、イザベラは立ち上がる気力もないのか、力なくその場に膝をついた。高価なドレスが床の埃に汚れるのも構わずに。



「どうして……どうして、こうなってしまったのかしら……」



 堰を切ったように、彼女は本心を吐露し始めた。その瞳には、大粒の涙が浮かんで

いる。



「わたくしは、生まれた時からバルドー家の令嬢として、完璧であることを求められてきました。常に気高く、美しく、誰よりも優れていなければならないと……。そして、人の醜さを間近で見てきました。欲しいものは力で手に入れるのが当たり前だと思っておりました」

「……だから、権力を使って俺の罪を捏造したのか?」

「ええ、そうです。だって、許せないでしょう。勇者と言う優れた存在であるあなたの隣に大貴族である私ではなく、家柄も何もない平民の女や教会の人間や、エルフがいることが! あなたに相応しいのは、この私だと、そう信じて疑わなかった! だから、どんな手を使ってでも、あなたを手に入れたかった……!」



 それは、歪んだ恋心と、貴族としての矜持がごちゃ混ぜになった、悲しい叫びだった。

 だけど、ひっかかったことがある。



「なんで、俺にそんなに固執するんだ?」



 この世界は男は少ないかもしれない。だけど、流石に大貴族である彼女ならば選び放題だろう。それに、イザベラの瞳はただ勇者だから俺を欲したわけではない気がしたのだ。



「あなたは覚えていないようですわね。私は昔、領地の視察中に魔族に襲われたことがあるのです。護衛も倒れ、魔物にこの身を汚されそうになり、もうダメだと思った時、どこからか現れた旅の勇者様に助けていただいた……。その方が、カズキ様だったのです……」

「……あのリザードキングに襲われていた少女か!! だけど……その時の君は……もっとこうなんというかふくよかだったような……」



 そこまで聞いてようやく思い出す。貴族令嬢がさらわれたと話題になっていて、周りが懸賞金をつりあげようとしたのにむかついて、シルヴィアと一緒に助けに向かったことがあった。



「はい、そうです。随分と痩せて美しくなったでしょう? 頑張ったんです……あなたは私を救った後に勇者だからと、たいした報酬も受け取らずに去って行った。その後姿を見た時かららずっと、あなたのことが……好きになったです。それで、あなたにふさわしい女になるために頑張ってきたんです……」



 プライドが邪魔をして、素直になれなかった。嫉妬と焦りが、彼女を卑劣な手段に走らせた。イザベラは子供のように泣きじゃくりながら、震える手で俺の服の裾を掴んだ。



「……もう一度……もう一度だけ、チャンスをいただけないでしょうか? 今度こそ、素直になりますわ!  私を、あなたのハーレムに……!」



 必死の懇願。その瞳は、今度こそ嘘偽りのない、純粋な好意に満ちていた。俺は、その震える手を優しく外し、彼女の目線に合わせてしゃがみこんだ。



「君が俺を好きでいてくれたことは、素直に嬉しい。ありがとう」



 予期せぬ感謝の言葉に、イザベラがはっと顔を上げる。



「でも、君のやり方は間違っていた。君は自分の気持ちを伝えるために、俺が大切に思っている仲間を、平気で傷つけようとした。シノンの出自を侮辱し、セレスティアの秘密を大勢の前で暴露しようとし、シルヴィアを罪に陥れようとした。そのやり方は、俺は絶対に認められない」

「っ……!」

「恋っていうのは、誰かを蹴落として手に入れるものじゃないと思うんだ。少なくとも、俺はそういうのが大嫌いだ。たとえこの世界がどうであれ、俺は、仲間を大切にしたい」



 俺の言葉に、イザベラの瞳から光が消えていく。彼女は、俺の優しい言葉の中に、絶対的な拒絶があることを悟ったのだ。



「……そうですわね。わたくしは……道を、間違えましたわ……ですが、私はこうする方法しかしらなかったんです。ライバルを出し抜く方法を……」

「もし君が、最初から、あんな卑怯な手を使わずに、俺の前に現れて、素直に『好きだ』と言ってくれていたら……もしかしたら、結果は違ったかもしれないな。ごめん」



 俺は少し寂しそうに、だがきっぱりと告げた。

 その言葉が、とどめだった。イザベラは「ああ……」と嗚咽を漏らし、自分の過ちの大きさを噛み締めるように、さらに大粒の涙をこぼした。

 そして、俺たちは立ち去る。涙を流す彼女に声をかける権利は俺にはないのだから。





★★★

 王都からの帰り道。揺れる馬車の中で、俺は窓の外を眺めていた。初めて異性に告白された……だけど、俺は断ることしかできなかった。罪悪感のようなものを感じてしまう。

 静かな車内で、不意にセレスティアが口を開いた。



「あの、カズキ様……。差し出がましいことをお聞きしますが、カズキ様がハーレムにお迎えする方の条件とは、具体的にどういうものなのでしょうか?」



 その質問に、シルヴィアもピクリと耳を動かす。俺は少し考えて、照れ臭そうに頭を掻きながら答えた。



「うーん、そうだな……。たとえエッチなことをいっぱい考えたり、口では色々キツイこと言ったり、素直じゃなくても、心の底では俺のことを一番に考えてくれて、俺のために一生懸命になってくれる子かな」



 俺の言葉に、セレスティアとシルヴィアの顔が、同時にカッと赤くなる。これじゃあ二人の事をいっているみたいじゃん。今回の件があったからつい身近な女性で考えてしまった……ひかれていないだろうか?



「なるほど……それは、仮にカズキ様の事しか考えられないような女性でもいいのでしょうか?」

「ああ、ちょっとくらい愛が重くても、束縛が激しくても、俺は全然嬉しいぜ。だって、それだけ俺を好きだってことの証明だろ? この世界じゃ、それが当たり前なんだしな! ただし、他の人に迷惑をかけるのはダメだけどな」

「なるほど……なるほど……」

「ふぅん、カズキって結構要求が多いのね」



 俺の言葉になぜか二人は窓の外を向いてしまう。


 あれ、顔もあわしてくれないほどてひかれたってこと? 


 何やら耳を赤くしながら外を見てぶつぶつ言っている二人を見て不安に襲われるのだった。




★★★


イザベラさんは本気でカズキ君が好きだったようです。

こういうざまぁもありだと思うんですよね……



面白いなって思ったらフォローや応援をくださるとうれしいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る