第15話 誘惑する二人と新たな乱入者
イザベラ侯爵令嬢の一件から数日。
俺は領主としての務めを終え、城に備え付けられた大理石の豪華な大浴場で、一日の疲れを癒していた。湯船に体を沈め、ふぅっと息を吐く。
「はぁ〜、極楽極楽。勇者の時とは大違いだぜ……」
魔王と戦っていた頃は、川での行水が関の山だった。それに比べて今はどうだ。温かい食事に、大きなお風呂、そして、美少女たちに囲まれる生活……まさに天国である。
俺がそんな幸福を噛み締めていた、その時だった。
「し、失礼いたします、カズキ様」
カチャリ、と扉が開く音と共に、湯気に霞む向こうから現れたのは、湯浴み着一枚をまとった聖女セレスティアだった。その薄い布地は、彼女の豊満な曲線を隠すどころか、むしろ際立たせており、俺の目は釘付けになる。
「せ、セレスティア!? なんでここに!?」
「その……カズキ様は領主のお仕事などで最近お疲れの様子でしたので、聖女としてお背中を流させていただきマッサージをして癒せればと思いまして……ご迷惑だったでしょうか?」
彼女は顔を真っ赤にしながらも少し緊張したように微笑む。ちらちらとこちらの下半身を見ているのは気のせいだと思いたい。
「迷惑どころかうれしいけど、そんなこともまでやってもらっていいのか?」
「もちろんです。大切なカズキ様の疲れを癒すのも聖女の役目ですから」
うおおおおおお、いくらなんでも美少女がわざわざこんなことまでしてくれるなんて貞操逆転異世界すごすぎる。
だけど、一つだけもやっとしてしまったことがある。
「どうしました、カズキ様?」
「いや、聖女の役目ってことはさ……ほかの男性にもこういうことをしているのかなって気になっちゃって」
「もう、そんなはずないじゃないですか!! こんなことをするのは親しく尊敬しているあなた(大好きな人)にだけですよ」
「そうか……俺(親しい友人)にだけなのか……」
セレスティアがほほを膨らまして抗議してくる。機嫌を損ねてしまったようだけど、なぜか安堵している自分がいた。
そうか……前の世界でも女の子が男友達と旅行にいくことはあっても知らん男と旅行に行くことはなかったように、こういう接触の多い行動は親しい男にのみ行う行為なのだろう。
彼女が少なからず俺に友愛を感じてくれているのがうれしかった。
「ごめんごめん。じゃあ、やってもらおうかな?」
「はい……はじめてやるので、何かあったら遠慮なくいってくださいね」
そういうとセレスティアは俺の背後に回り込み、柔らかなスポンジで優しく、しかしどこかねっとりと背中を洗い始めた。
「ん……たくましくて大きい背中……こんな体に覆いかぶされたら私は……♡」
時折なまめかしい声がきこえるのはきのせいだろうか?
しかも、彼女の手つきは、ただ洗っているだけではない。治癒魔法の応用なのか、的確に俺の筋肉の疲れをほぐしていく。だが、その指が背骨をなぞるたび、耳元で甘い吐息が聞こえるたびに、俺の体は別の意味で熱くなっていく。
「疲れが嘘のようにとれるよ。セレスティアのやさしさを感じるな……」
「んん……♡ そういってもらえると嬉しいです。もみ足りないところがあったら遠慮なくいってくださいね」
ときおり艶めかしい吐息を漏らす彼女にドキドキしながらあくまで俺を守るためにやってくれているのだと言い聞かせながら思わず本音が漏れてしまった。
「ああ、ありがとう。セレスティアと結婚する相手は幸せだろうな」
「なっ……」
背後でセレスティアが息をのむとともにその動きが止まる。いったいどうしたのだろうと振り向くと、セレスてぁいが先ほどとは比べ物にならないくらいに顔を真っ赤にしていた。
「結婚……今のってプロポーズってことでしょうか……」
「え、ごめん。なんだって?」
「……年頃の好きあう男女がこんな格好で二人っきり……まさか、カズキ様はここで私と……きゅーー」
彼女は何かぶつぶつと呟きながら沸騰したかのように顔を上気させていた。そして……のぼせたのかそのままこちらに倒れて混んできた。
「セレスティア、大丈夫か?」
「えへへ、カズキ様……初めてですので優しくしてくださいね」
「セレスティア? セレスティアァァァァァ!!」
なぜか恍惚の笑みを浮かべ意識を失った彼女を抱きかかえて俺は慌ててお風呂を出たのだった。
意識を失ったセレスティアの看病をほかのメイドに頼んだ俺は、自室へと戻った。冷静に考えたら、あんな美少女と一緒にお風呂にはいるとかすげえよな。
「さっきのセレスティアはかわいかったな。でも、何か言いたそうだったけどなんだったのだろう?」
心臓をバクバクさせながら、用意されていた寝間着に着替え、ベッドに倒れ込む。
――と、その瞬間、シーツの中にふわりとした柔らかい感触があった。
「……!?」
恐る恐るシーツをめくると、そこにいたのは、いつもより布面積の少ない、艶やかなシルクのネグリジェをまとったシノンだった。薄い生地越しに見える下着に、月明かりに照らされた彼女の白い肌と、無防備な姿が、俺の視界に飛び込んでくる。
「ご主人様ー。ようやくおやすみになるのですね」
「シ、シノン!? なんで俺のベッドに!?」
「あなた様が安眠できるよう、お布団をあたためておきました。これも専属メイドの重要な業務ですので」
豊臣秀吉かよ!! いや、あれは草履だったけど!! 無表情で、俺の布団にいる彼女のその瞳はどこか潤み、熱を帯びている。
彼女は俺をそのまま抱き寄せるようにしてベッドへといざなってくる。
風呂場でのセレスティアによる過剰な奉仕。そして、目の前のシノンによる夜這い同然の添い寝。
二重の刺激に、俺の理性が、ブチブチと音を立てて切れ始めた。
(だ、ダメだ……! このままでは、俺は……獣になってしまう!)
貴重な男だからと、無防備に心を許してくれている彼女たちの信頼を裏切るわけにはいかない。だって、貞操逆転異世界なのだ。女性が好きになったら告白してくるはずなのだから。彼女たちはあくまで俺を友人として信用してくれているのだ。
「シノン……大変申し訳ないが君にその気がないのはわかっている。だけど、俺も色々と限界なんだ。今日は部屋を出ていってくれないか?」
何とか声を振り絞って危機を注げたが、その反応は予想外のものだった。シノンはまずは俺の顔を見て、すっかり大きくなった下半身を見て、目を大きく見開くと、恥ずかしそうにこういった。
「その……カズキ様なら私は構いませんよ。だって、あなたは……」
その言葉の先を聞くことはできなかった。なぜならば……
ガッシャァァァン!!
突如、部屋の窓ガラスが粉々に砕け散る。
「なんだ?」
「ちっ、もうちょっとだったのに残念です」
シノンのやつ舌打ちした?
俺とシノンに驚きつつも音のした方を見ると、割れた窓枠に、一人の少女が軽やかに着地していた。尖った耳に、美しい銀髪。その手には、怪しく輝く魔法の杖が握られている。
「やっと見つけたわよ、この朴念仁!」
息一つ切らさず、仁王立ちで俺を指さす少女。そのツンと澄ました顔と、懐かしい声に、俺は思わず叫んだ。
「シルヴィア!? なんでお前がここに!?」
彼女こそ、共に魔王討伐の旅をしたパーティーメンバーの一人。天才だが口の悪いエルフの魔導士、シルヴィアだったのだ。
しかし、彼女の視線はすぐに俺の隣――ネグリジェ姿のシノンと、明らかに動揺している俺の姿を捉え、その顔が怒りでみるみる赤く染まっていく。
「アンタ……私がいない間に、な、な、何してんのよーーーーーっ!!」
シルヴィアの言葉に冷静に今の状況を分析してみる。露出の高いエッチな服を着たメイドと、勃起した俺……
どう見てもこっからはじめるところじゃん。でも、思うんだ。シルヴィアの瞳はエッチな場面を見て恥ずかしがっているというよりも怒っている様な気がするのは気のせいだろうか?
★★★
エルフっていいですよね。というわけで新キャラ登場です。
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