第5話 空回る聖女と元勇者の実力

 西の森は、かつて魔王軍の拠点があった名残か、昼なお暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。俺はかつての勘を取り戻すように、周囲を警戒しながら先へと進む。



「セレスティア、あまり気を張るなよ。いつでも前衛は変わるからな」

「は、はい! ですが、ここは私にお任せください。 私が必ずやあなたを先導し、お守りいたします!」



 一歩前を歩くセレスティアは、聖女の法衣の裾をたくし上げ、やけに意気込んでいる。

 その手には、どこから取り出したのか、古びた羊皮紙の地図が握られていた。



 俺を守るか……その言葉だけで、この世界が『貞操逆転異世界』だと実感する。だって、魔王を討伐していた時は俺と剣聖が常に前衛だったし、ましてや後衛である彼女が前に出るなんて考えられないことだからな。

 俺が前衛を務めると言ったが彼女は「私にあなたを守らせてください」と譲ってくれなかったのである。



「地図によれば、ゴブリンの巣はこの先、北東の岩場にあるはずです! さあ、こちらです!」



 セレスティアはどこか緊張しつつもそう言って、鬱蒼とした茂みの中を指さした。そして、そのまま進もうとして……



「待った、セレスティア。そこには罠がある。ゴブリンはこういう小細工を使うから覚えておいた方がいい」

「え?」



 俺は間の抜けた声をあげて進もうとする彼女の腕をあわててとって、抱き寄せ、地面を指さす。

 そこには明らかに何かを埋めてある跡がある。踏んだら、トラばさみとかが発動するのだろう。



「カズキさま……その……近いです」

「え?」



 とっさだったからか、彼女を引っ張った時にちょうど抱きしめる形になったのだ。柔らかい感触と甘いに匂いに思わずクラりとしてしまう。

 思わずセレスティアと視線があうと彼女は頬を赤らめつつも見つめ返してくる。



「ああ、悪い……今すぐに離れるから……」

「そ……その……初めてなので優しくしていただけると嬉しいです!!」



 なぜか、顔を赤らめて唇を突き出してくるセレスティア。



「どうしたんだ?」

「いえ、今のは違うんです。カズキ様のお役に立ちたい一心で、つい焦ってしまって……! 早くゴブリンの巣を目指しましょう!!」



 びっくりした、まるでキス待ちみたいだったな……童貞だからわからないが……

 セレスティアは慌てて俺から離れると顔を赤らめながら歩き続ける。やはり貞操逆転異世界だからだろうか、あの清楚な聖女様でも、男性と拙著くすると変な妄想をしてしまうのだろう。俺だって勇者時代にダンジョンで女の子の胸が当たったときは、冒険中になのにエッチな気分になったもんな。

 


「気にするな。それよりも無理をしないで俺の後ろにいてくれ。セレスティアが慣れない森歩きをして頑張ってくれるだけで俺は十分嬉しかったんだ」

「ですが、カズキ様……私はまたあなたの役に立てませんでした…こんな私に生きている価値なんて……」



 足をひっぱってしまったとばかりにへこむセレスティアに微笑む。ちょっと重くなっている気もするが相変わらず真面目な子である。



「いいからさ。適材適所って言葉があるだろ。それはどんな世界でも変わらないはずだ。昔みたいに俺が先頭を歩いて、怪我をしたら癒したらセレスティアが癒してくれる。これでいいじゃないか」

「……それはこれからも、私をつれていってくださるということでしょうか?」



 恐る恐る聞いてくるセレスティア、今回の事で自信を喪失してしまったのだろうか、彼女は明らかになれていないというのに、貴重な男子である俺の護衛を頑張ってくれたのである。

 それがシンプルに嬉しいし、美少女との冒険はやはりテンションがあがるものだ。

 


「ああ、もちろんだ、頼りにしているよ。あんまり言わなかったけどさ、セレスティアが後ろにいて、治癒してくれるからいつも安心して戦えてたんだぜ」

「カズキ様……私の事をそんな風に想って……」



 この言葉は嘘ではない。正直外見は好みだし、治癒能力も高い。そして心優しい少女だと知ってたからな。

 俺が彼女の頭を軽くポンと撫でると、セレスティアは「あぅ……」と小さな声を漏らし、俯いてしまった。

 やっべぇ、ついイケメンにのみ許される頭ポンポンをしてしまったが、どうしよう……前にパーティーメンバーのエルフにやってむっちゃ睨まれたんだよな……



「ごめん……今のは……」

「ありがとうございます。カズキさまのおかげで元気になりました。頑張りますね」



 恐る恐る見つめると、セレスティアは満面の笑みを浮かべてほほ笑んでくれた。思わず不安になったが奇遇だったようだ。



 やばい、可愛すぎる……!  もちろん、高嶺の彼女が俺に好意を抱いている何て勘違いはしていない。だが、この世界では男が頭を撫でて励ますと、女性は喜んでくれるんだな。脳内にメモしておこう



 だが、俺の能天気な思考とは裏腹に、セレスティアの心は別の感情で満たされていたことに気づかなかったのだった。


★★★

 

 セレスティアはカズキが抱きしめてくださった感触を思い出し、ゴブリン退治の最中だというのに赤面してしまう。

 勇気を出して同行した甲斐があったというものだ。



 ああ……カズキ様……なんてお優しい……。わたくしの失態を責めもせず、優しく励ましてくれるなんて。


 他の男性に触れられるのは嫌だというのに、彼に触れられるのは幸せな気持ちになるから不思議である。

 そして、何よりも恐る恐る聞いた質問の返答が嬉しかった。



「……それはこれからも、私をこうやってつれていってくださるということでしょうか?」

「ああ、もちろんだ、頼りにしているよ。あんまり言わなかったけどさ、セレスティアが後ろにいて、治癒してくれるからいつも安心して戦えてたんだぜ」


 ……と。

 もしも断られたら絶望のあまりその場で自害していたかもしれない。だけど、彼は私が近くにいることを許可してくれた。つまりは、わたしの好意をすこしでも快く思ってくれたということだろう。

 しかも、頭ポンポンである。恋愛小説で読み憧れたソレをやられセレスティアの情緒は色々とやばくなっていた。



「このお方を危険な目に遭わせる可能性のあるゴブリンなど、一匹残らず浄化しなくては……!」



 彼女の瞳の奥で、恋心とともに昏い炎がより一層強く燃え上がったことなど、カズキは知る由もなかった。




★★★



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