自創作詰め

きりみ

間柏校サブストーリー「悪夢」

【登場人物紹介】

間 柏校(はざま はかせ)

間研究所の所長。遺伝学の権威。一度動植物が絶滅した世界で、動植物を復活させた天才中の天才。ただし性格に難があり、多くの人々からは嫌われている。高圧的で暴力的な性格は、幼少期の虐待と若かりし頃にテロリストたちの元で強制労働させられていたのが原因。アセクシャル+アセクシャルコンプレックスという珍しい性癖を持っている。葵のヒトらしいところが嫌い。


葵(あおい)

間研究所の家政夫。かつて科学者としてナノマシン研究施設に務めていたが、とある事件で危うく命を落としかけた結果、現在は科学分野から離れ、趣味と実益を兼ね間研究所で家政夫として働いている。人の面倒を見るのが好き過ぎるせいで、何人ものヒモを生み出してしまっている。誰に対しても常に敬語で丁寧に接する。柏校のヒトとして終わってるところが好き。


フルー

純粋無垢なる夢の神。



「悪夢」


少年「……」

少年「ここは…」


少年柏校は目を開く。

そこには懐かしい光景が広がっていた。


少年「私は一体…」

母親「どうしたの?手のひらなんて眺めてボーっとして…」

少年「!!?」

少年「お…お母さん…?」

母親「?」

父親「どうした。具合でも悪いのか?」

少年「!!」

少年「お父…さん…」

母親「全くこの子ったら、もしかしてまたお母さんたちにもわからない凄い難しいこと考えてるの?」


ビクリと体を強ばらせる。

また怒られる。そう思った。


少年「ち、違…」

母親「え?」

少年「!!」

少年「ご、ごめんなさい!!」

母親「?」

母親「どうしたの?何も怒ってないわよ。」

少年「!!?」

父親「本当にどうした。悩みがあるなら父さんが聞いてやるぞ?母さんに言い難いことでも、父さんならいいだろ?」

母親「ちょっと!母親の方が信頼出来るに決まってるじゃない!」

少年「……」

少年「大丈夫。ちょっとボーっとしてただけだ。」

父親「そうか?」

母親「ならいいのだけど…」

父親「なら早く飯にしよう。」

少年「!!」

少年「ご、はん…?」


母親が料理を作ったところなど、

見た事がなかった。


母親「ふふっ、今日はご馳走よ。」

母親「ほら、早く座って。」


促されるままに席に座る。


少年「……」

母親「どうしたの?もしかして食欲無い?」

父親「やっぱり具合が悪いんじゃないか?」

少年「ぅ…ううん。大丈夫。」


食欲。

本能的な欲求であるはずのそれは、

柏校には備わっていない。


むしろ何を食べても不味い。

気分が悪くなるのだ。


少年「……」

少年「い、いただきます。」


覚悟を決めて口に運ぶ。


母親「はい、どうぞ召し上がれ。」


一口、咀嚼する。


少年「!!」

少年「……おい…しい…」


思わず涙が零れる。

食事とは、こんなにも暖かいのか。


母親「!!?」

母親「やっぱりおかしいわよ!」

母親「何かあったならお母さんに言って?ね?」

父親「そうだぞ。我慢は良くない。」

少年「ち、違うんだ…本当に…美味しくて…」

母親「え?」

母親「まさか美味しくて感動!って感じで泣いているの?」

少年「…うん。」

父親「あっはっはっはっ!母さんの料理は世界一だもんな!無理もない!」

母親「ちょっとー!褒めても何も出ないわよー!」


夢中で口に運ぶ。

こんな幸せは、生まれて初めてだった。


母親「余程お腹が空いていたのね。」


母親は愛する息子の頭を優しく撫でる。


少年「!!」

母親「いつもたくさんお勉強して頑張っているからね。たくさん食べなさい。」


その目は慈愛と喜びで溢れていた。


少年「……うん。」

母親「もう…この子ったら泣き虫なんだから。」

父親「優しい証拠だ。」

母親「ふふっ、そうね。」

母親「本当に優しい子に育ってくれて、お母さん嬉しいわ。」


そう言って優しく抱き締める。


母親「お母さんもお父さんもそんな柏校が大好きよ。」

少年「!!」

少年「ずっと…その言葉が欲しかった…」

少年「ずっと…ずっと…」


──────


間柏校「ずっと…」

間柏校「……」


ゆっくりと目を開く。

目の前に広がったのは、

いつもの無機質な部屋だった。


自分の頬に手を添えると、

指先に雫が伝う。


間柏校「悪夢だ…」


その場に踞り、

歯を強く食いしばる。


間柏校「……やってくれたな。」


立ち上がり、

憤りのままに歩みを進める。


──────


食堂では、葵が夕食を作っていた。


突然バンという大きな音ともに、

扉が開かれる。


青年柏校は、

まるでなにかに取り憑かれたように、

冷や汗に濡れ、目は虚ろだった。


葵「!」

葵「間さん、まだ寝ていらした方が…」


葵の言葉を聞かず近寄ると、

無言で皿の上の物を掴み、

口に運ぶ。


葵「!」

葵「良かった、お腹が空いたんですね。どうぞお好きなだけ…」

間柏校「不味い。」

葵「……え。」

間柏校「なぜこれが美味いなどと…」

葵「……」

葵「ごめんなさい。間さんでも美味しく食べれるものを、頑張って探しますから…」


今にも泣きそうな声で言う。


間柏校「っ!!」

間柏校「そんなものは無い!!」


料理は皿ごと床に叩きつけられ、

無惨な残骸となる。


柏校は鳴り響いた叫音にハッとし我に返ると、

自らの手で破片を拾い始める。


葵「……」

間柏校「……すまない。」

葵「…なにかあったんですか?」

間柏校「なにかは無い。」

葵「……」


葵は怯えさせぬよう、

ゆっくりと柏校に近付き、

目の前で膝を着く。


間柏校「……」

葵「怖い夢でも見ましたか?」

間柏校「……怖くは無かった。」

間柏校「それに悪夢はいつもの事だ。」

葵「いつもの事だから辛くないなんてことはありません。そうでしょう?」

葵「お可哀想に…」


これは葵の口癖であり悪癖だ。

すぐに人に同情し、

その同情を口にする。


間柏校「……」

葵「大丈夫ですよ。私がお傍にいます。」

間柏校「……ああ。」


「傍にいる」


ずっととは、ただの一度も言われたことがない。


それはそうだろう。

短命種と長命種では、

生きる時間があまりにも違う。


だから嫌なんだ。

心を許したくないんだ。


どうせ死ぬなら、

初めから、、!


フルー「ううん、違うよ。」

間柏校「!?」


声の方に振り返ると、

そこには砂糖のように甘く、

雲のように柔らかい、

とても美しい少女が立っていた。


しかしその姿を捉えた途端、

どうしようもなく背筋が凍りついた。


体が震える。

呼吸が上手くできない。


間柏校「夢の……神……」

フルー「……」

フルー「ねぇ…」

フルー「どこからが夢だったと思う?」


瞬間、目の前がぼやけて暗くなる。

まるで現実と夢の狭間に

落とされていくようだ。


いつまで続く。

この「世界の抵抗」は。


……To be continued

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