三日月
「三日月を知る人は薄情と言うじゃないですか」
衝立の向こうの声は穏やかな女性のものだ。返答はよく聞こえなかったが、男性のものだった。手元のコーヒーに口をつけながら、耳をすませてみる。
「聞いたことないですか? うちの地元だけなのかな」女性は笑みを含んだ声で言う。
「三日月はそうなる前の二日月や新月、そして新月になる前の痩せていく月がありますよね。昔の人が知っていたかはわからないけど、そういう『見えない月』は太陽が昇っている昼日中も空にいて、見えにくいだけだったりする。そういうことですよ」
かしゃん、と匙を皿に落とした音が響く。
「せめて新月の前、ですよね」
声はあくまで穏やかだった。返答は聞こえてこない。
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