第19話 期末テストとファミレス
学校が終わって俺は安住と伊都とファミレスに来ていた。
期末テストを1週間後に控えているからだ。
「doは?」
「やれ」
「winは?」
「勝て」
「run、fight、die」
「走れ戦え死ね」
「軍曹か。合ってるけどなぜ命令形……」
「いいじゃんあってるなら」
伊都の中学もテスト期間が俺の高校と被っていた。
安住が誘ったらというので声をかけたわけだ。
「佐伯さぁん、テストと言えば前回の現代文で筆者の気持ちを書けってのあったじゃないですかー」
「あったなぁ、適当に書いた気がする」
「「だいしゅきホールドされたい」って書いたらバツだったんですよ。筆者も担当の先生も男性なのに」
「いや当たり前だろ……それでよく呼び出されなかったな」
「でも1ミリもそういう気持ちがなかったとは言い切れませんよ?」
「そうかもしれないけど……!」
「佐伯さんは今1ミリもそういう思考がないと断言できますか!」
「えぇっ1ミリも? ……」
「……キモ」
横で聞いていた伊都が軽蔑した表情をしている。
素で引いてる声がグサッとくる。
「うっ……口より手を動かせよ。さっきから進んでないだろ」
「手だけの方がいいって珍しいですね」
「そっちじゃねえ」
「ていうか伊都は中間は点数良かったよな。期末は気楽に受けてもいいんじゃないか?」
「そ、そうだけど気分だよ気分」
「そっか」
「平均くらいは取れても、中間テストと比べたら下がった感じでいい気持ちはしないでしょ」
「こんなの全然気持ちよく……ないっ。って感じですか」
「なんとなくその言い方はやめてください……」
伊都があきれながらコップに注がれたジュースを飲む。
「伊都はまだ炭酸飲めないんだっけ?」
「そ、そうだけど何?」
むすっとした顔で見てくる。
「いや、そういう所は可愛いなって」
「はっ? なんだよ急に?!」
声を裏返らせる伊都。
ときどき変な所でこいつは過敏に反応する。
「佐伯さん、私も炭酸飲めません」
「じゃあなんでドリンクバーから炭酸取ってきてんだよ」
「飲まないなら取ってきちゃダメなんですか?」
「ダメです」
俺と安住のやりとりの最中、伊都はぼそっと一人でつぶやく。
「兄貴は変態なのにたまに……」
「どうした?」
「なんでもない……!」
ツインテールをいじりながら不機嫌そうにしている。
「気になったんですけど、伊都ちゃんとしてはどこからが変態なんですか?」
「えっ?」
「たしかに。基準はなんなんだ?」
「なっ、どこからって言われても……」
「じゃあ大きい胸が好きなのはどうですか?」
「え、キモい」
結構厳しいなおい。
「女性にいじめられるのが好きなのは?」
「キモい」
まあこれは意見分かれるか。
「妹に欲情するのはどうですか?」
「…………」
「なぜ黙る」
「なんでもない! パッと想像つかなかっただけ!」
「きっと「俺たち、実は血が繋がってなかった」と言われたら豹変しますね、これは」
「しませんよ……!」
早口で返す妹。
「そうなんですか? 血縁関係がなかったら色々広がりますよ?」
「いや知りませんよ……絶対今と変わらないです」
「つまり現時点で兄妹で事に及んでいる……」
「な、ないでひゅよっ!!」
動揺させられて汗を浮かべる伊都。
「いえ、さっきの沈黙を見れば分かります。私の目に狂いはありません」
「まあ狂ってるのは頭だからなぁ……」
俺のぼやきをさらっとスルーし、
安住は少しの間考えたかと思うと俺に話を振ってきた。
「伊都ちゃんが着たら似合うって言ってた服ありましたよね」
「は? 言ったかそんなの」
「え? ど、どれ?」
「ツンツンの割には興味あるんですね」
「う、それは……」
「ふふっ。それでこれなんですけど」
言いながら携帯で画像を見せる安住。
どれどれ、と覗き込むとマイクロビキニが映っていた。
「おいこんなん言った覚えないぞ」
「イヤです無理です殺します」
多分本当に殺されるから怖い。
期待していたのか怒り心頭な様子の妹。
「お前ほんと最低……死ねよ」
「だから言った覚えないって!」
キッとにらんでくる。
態度の豹変がすさまじい。
「じゃあ逆に伊都ちゃんのマイクロビキニをお兄さんが着るというのは?」
「ちょっと待って下さいなんで私が持ってる前提なんですか」
冷静に制止する妹。
「え、スリングショットしか水着と認めないあの佐伯さんの妹が?」
「俺はそんな過激派閥になった覚えはないぞ!」
「すり、ん……しょっと? なんかちょっとかっこよさそう……」
「調べなくていいっ!」
携帯で検索しはじめた伊都の手を止める。
「じゃあ質問を変えます。猫コスを頼まれたら着てあげます?」
「質問変わったかそれ?」
でも露出度は下がってるか。
「えぇ……? 猫かぁ、そのくらいならまだマシ……かも」
いいのかそれ……。
詐欺とかに簡単に騙されそうだなこいつ。
「おぉ。佐伯さん、妹の裸に耐える自信はどうですか?」
「は?」
ずっとだけど何を言ってるんだコイツは。
「え、そんなことを了承してませんよ私!」
「私の認識だと、猫は服を着ないんですけど」
「はぁ? えぇっ……!」
「張り倒していいと思うぞ妹」
真顔で言う安住に困惑する伊都。
「兄貴っ、いまの無しだからっ!」
「分かってるって! 安住もからかいすぎるなよ……」
「えへへ、すいません。反応が可愛くて」
それはたしかにそうだけど。
伊都がくたびれていると、俺の携帯の通知音がなった。
「あ、母さんからだ。……夕飯ごろには帰ってこいってさ」
「あぁもう……! 結構時間経ったのに進んでないし。これで成績下がったら兄貴が責任取ってよね」
うらめしそうな目でにらみつけてくる妹。
「異性から言われる「責任取ってよ」がこんなにエロくないことがあるだろかと佐伯は嘆いた」
「嘆いてねえ」
————結局テストは前日の詰め込みで乗り切った。
テストが終わってすぐ夏休み入ったが相変わらずバイトは続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます