第15話 看病と自白
丁度店長に連絡を入れたところで自室についた。
朝から熱っぽくはあったけど大したことないと思っていた。
昼すぎから急に悪化して今日は休むことにした。
ベッドに倒れこみ額に手を当てる。
「はぁー……」
休めるという安心から体の重みが抜ける。
ピロン!
RINEの通知音がなった。
薄目で携帯を見ると安住から。
『大丈夫ですか? お休みのところすみません』
普段と異なるしおらしい文面に少し驚く。
『誰だお前』
『佐伯さん早く病院に行ってください』
『もうろくしてるわけじゃなくて。改まってるのが違和感あってさ』
『だって体調悪そうだとは思ってましたから』
『気づいてたのか』
自分から言ってはないはず。
『朝から見てましたから』
『見てわかるくらい顔色悪かったか?』
他のやつにも特に指摘されなかった。
『他の人が分からなくても私はわかりますよ。いつも横で見てるので』
…………。
熱が上がるからそういうのはやめてくれ。
とは送れないな……。
『熱が上がるからやめた方がいいですか?』
『先読みするな』
「了解」というキャラクターのスタンプがきた。
『とりあえずいつも通りでいいよ。ただの風邪だし酷くもないから』
『わかりました』
普通にしてくれた方が助かる。
『じゃあ早速ですけどお見舞いに伺いますね』
変わり身が早いな。
『来るって俺の家知ってるのか?』
『住所は叔父さんに聞いたので大丈夫です』
職権乱用に当たるんじゃないのかこれ……。
『今コンビニに寄ってますけど、何ミリがいいですか?』
『ポカリで』
しばらく返信の間隔が開いた。
テンテンテロテロ……
今度は着信がかかってきた。
『もしもし? どうした』
『あぁ、佐伯さん』
『うん、どうした?』
声から困惑の色が見える。
『いま店員さんに聞いたんですけど、飲み物のポカリしか置いてないみたいで』
デロロン。
寝よう。
テンテンテロテロ……
「なんだよ!」
『冗談! 冗談ですからぁ! ちゃんと買うので家にあげてくださいよ!?』
「大丈夫だっての! 母さんも家にいるし」
その分変なことされると困るけど……。
『はい……ちゃんとポカリ買いました……』
はあ、はあ。
おつかい頼むだけでなんで息あがってんだ俺……。
『なのでゴムは0.00ミリにしました』
「買ってないって意味でいいんだよな……?」
***
「お邪魔しまーす……?」
そーっと部屋に入ってきた安住。
「あぁ、悪いな。買ってきてもらって」
自分の部屋に女子が来るとかほぼ初めてだ。
自室にいるのにどこか緊張してしまう。
「大丈夫ですか? まだ顔赤いですよ」
心配そうな目をしている。
下がり眉で聞いてくる安住に不覚にもドキッとする。
「じゃあこれ、どうぞ」
「おう、サンキュー……」
ポカリとフルーツゼリーか。
あとは、超精力 限界を超える バキバキDX
「オロナミンCくらいしかなくて」
「うんならオロナミンC買えよ」
「ファイトぉ! “一発” ですかね」
「うるせえよ」
「なんとかポカリでカモフラージュして買ったんですから飲んでくださいよ」
「逆だ逆……」
家にいるのになんだこの消耗は……。
「懐柔した女子にひとりでゴム買いに行かせるシーンみたいで興奮しました」
「あぁ、あれな……」
大量のゴムに店員が困惑するやつな。
個人的には結構……。
「ふふっ」
「なんだよ」
「なんでもないです」
***
結局、残すのも悪いから完食した。
精力剤は味がキツかった。
良薬口に苦しってことにしておこう。
「はい、じゃあ後は安静にしててくださいよ」
「そうさせてもらう。ありがとな」
俺の机のイスに座ってこちらを見下ろす安住。
「あの、ずっといるのか?」
「ほぉ、帰れと?」
「いや……そういうわけじゃ」
ベッドに横になってから気づいた。
寝るのを見られるのがクソ恥ずかしいことに。
「寝てる所をじっと眺められるってのは……」
「はぁ……ちょっと詰めてください」
「一緒に寝ようって意味じゃねえよ」
「どうすればいいんですか」
適当にくつろいでてほしいんだけど……。
「俺が寝てる所見るほかにないのかやることないのか」
「家宅捜索と携帯チェックは後ですから今はないです」
「今止める体力がないから勘弁してくれ。ていうか携帯は暗証番号ついてるし」
「佐伯さんのことですから1919か4545か0721あたりを試せば……」
「いくつだよ、お前の中の俺」
「違うんですか?」と素で言う安住。
その後、そういえばと語りだした。
「漫画とかで移して直るってやつありますよね」
「あぁ」
「やってみます?」
「どうやって?」
「佐伯さんが寝れるまで添い寝するとか」
「寝れなくなるからやめろ」
「そんなにずっとしてたいんですか」
「そうじゃなくて……」
言い終わる前に入ってきた。
「ちょっ安住……!?」
「民間療法です」
冗談だと思ってたんだけど……!?
するするとベッドに入ってくる。
「おー、こんな感じなんですね」
仰向けのまま能天気に話す安住。
真横に同年代の異性がいるのに冷静すぎだろ?!
「ははーん。ふぅん、なるほど」
感動していた安住だが、しばらくすると仰向けのまま無言になった。
「まさかと思うが、勢いで入ったから今さら恥ずかしくなったりしてないよな」
「…………」
これは当たりなんだろう。
「こっちも精神が絶賛消耗中だから早く出てくれ……!」
「暁人、体調どう? それと安住さんにお礼言いなさいよー」
最悪のタイミングで母さんがリビングから声をかけてきた。
「あ、母さんだ……早く出ろ」
「わ、わかってるんですけど体が硬直してしまって……!」
「はぁ!?」
突然の事態に体がこわばってしまったらしい。
「応答がない……これは不純異性交遊の香りがするわ」
「寝てるって可能性もあるだろ!」
思わずつっこんでしまった。
「寝てないじゃない。変なことしてないでしょうね」
寝てるけど、ある意味では。
「してないって! お礼も言ったし体調は大丈夫だよ!」
やべっ、声が裏返った。
「怪しい……」
すたすたとこちらに向かってくる音がする
「まずいぞ! この状態を見られたら……」
「これはちょっとしたカタストロフィですよ」
「言ってる場合か!」
「入るわよー」
すかさず布団をかぶるように指示する。
「あれ? 安住さんもう帰っちゃった?」
「いや? トイレ行った気がする」
「何よ気がするって」
うげ……返答ミスったか。
部屋をぐるっと見回す母。
「ふぅん、まあいいわ。うん。帰ってきた時より顔色よくなった」
少し安心した様子の母。
心配して見に来たのは本当っぽいな。
「それより、あんな可愛い子が暁人の彼女だったなんてお母さんびっくり」
「え、彼女って!?」
「違うの? お見舞にきてくれたんだからもう彼女じゃない」
「その基準はどうなんだよ……安住はバイト先が同じで、クラスメイトで……」
「それで? それだけなの? お見舞に来てくれる子を」
純粋な子どものような目で聞いてくる母。
こういう所はこの人の長所でもあり短所だ。
「え、えーっと……」
恐らく聞こえてるであろう安住の間近で本音を語らされる。
……拷問だ。
板挟みになりながら、なんとか言葉を捻出する。
「安住といると疲れるけど楽しいのは最初からずっと変わらない。でもこれからもっと深くあいつと関わろうとして、それを壊すかもしれない……」
言いたいことがこんがらがって言葉に詰まる。
俺の意思だけが先行してるのかもって怖さがある。
「うん。大体分かった」
母は満足そうに微笑んだ。
「ほんとかよ。脚色されてる気がするんだけど」
「大丈夫よ。まあ今日のうちはちゃんと休みなさいよ」
それだけ言うとリビングに戻っていった。
「安住、その……もういいぞ」
「は、はい」
そっと布団をめくる。
体を丸めて赤面する安住の姿があった。
「大丈夫か。暑かったよな……?」
「いえ、そういうことでは……」
安住はよろよろとベッドから出ると俺の机のイスに力無く座った。
そしてくるりと背中側を俺の方に向ける。
「さっきのは、うーんと、聞き流してくれ……」
「はい……」
そのまま沈黙が流れ始める。
そのせいか気づくと眠りに落ちていた。
「おはようございます1時間くらい寝てましたね」
「ふぁぁ、いつもの間にか寝てたよ」
「よく眠ってましたよ。「むにゃむにゃ、もうザー○ンでないよぉ~」って寝言まで言って」
「そんな最低な寝言は言ってない」
「でもその場にいたのは私しかいないわけですから」
「だから信用できないんだよ」
「ふふっ。そうですかね」
いつもの調子に戻っているようだ。
安住はあの言葉をどのくらい聞いていて、それをどう思ったんだろう。
お互いの気持ちを直接聞き合うときが来るんだろうか。
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