第13話 独り占め 前編

 今日は早めに店に着いた。


 スタッフルームに入ると先客が座っていた。



「あ、兄貴」


「……なんでここにいる」



 ツインテールとけだるげな目。


 妹の伊都だ。 

 

 最近は店にいりびたっている、特に俺がいる日に限って。



「はぁ、とりあえず出てけよ……」


「いーじゃん。買わないのに店うろつくのも邪魔でしょ」

 

「買わないなら帰れ」


「買ったらここで読んでいいの?」


「買ったら帰れ」


「どっちもじゃん」



 店長もこいつの事は認知しているし、問題ないだろうと注意はしていない。



「どうしたんですか」



 困り果てていると、後ろから安住が来た。



「すまん、また伊都が来ててさ……」


「お、妹さんですね。今日もお兄さんに着いてきたんですね」


「ちっ、違いますよ。本を探しに来たんです」


「お前、本なんて読まないだろ」


「私も教養として本くらい読むし」


「だとしたら探す店間違ってるぞ。多分」


「う、うっさい。いいでしょ別に」


 

 しょっちゅう来てはつまらなそうにしている。


 迷惑というほどでもないけど……。


 

「俺らは戻るから用がないなら帰れよー」


「かまってあげなくていいんですか?」


「うーんまあ店長も怒らないだろう」


「そうですね」




***




 店内に戻って数分。


 スタスタと伊都が歩いてきた。


 そして俺の横に立つと本を取って読み始めた。



「あっちはもういいのか?」


「あ゛ぁ?」


「いや、なんでもない……」



 ドスの効いた声でにらまれた。


 深くつっこまないのが良いか。



「ま、あんまり長居するなよ」



 それだけ言って棚の方を見ることにした。


 するとすぐに伊都がやってきた。


 そして隣に立って読みはじめる。



「「………………」」



 なんだこれは……。


 なんで気まずい空気を作りに来る!?


 とりあえずレジに退避しよう。





 



「はぁ……」


「妹さんずっとうろうろしてますね」



 レジに逃げて安住と話してると、また伊都が歩いてきた。



 そのまま俺の膝の上にドサッと座った。



「なっ!? なんだ……。急に」


「うっさい」



 膝の上で黙って本を読み始めた。


 ふにふにした感触と軽い体重が脚に伝わる。


 これは……。



「佐伯さん妹とどういう……」


「違います!」



 動揺で敬語になってしまった。


 伊都も普段はもっとおとなしいんだけど……。



「あの……降りてくれ」


「だって足疲れた」


「じゃあイス持ってくるから」


「いい」


「えぇ……」



 これは何言っても動かなそうだ。


 どうしたもんかなぁ。



「佐伯さん中々の教育してますね。リアルでこんなツンデレを見れるとは」


「つ、つんでれって……! 違いますよ!」


「俺もそう思う。デレがない」


「じゃあお兄さんの彼女の話も当然興味ないですよね? 伊都ちゃんは」



 少々おおげさに問いかける安住。



「えぇっ!? ……ど、どうでもいいです」



 驚いた様子を無理矢理隠す妹。


 その反応にフフッと笑って続ける。



「男性の多くは3回目のデートで告白する人が多いと言われています」


「ふ、ふぅん。そうなんですか」



 「で?」と興味なさそうな素振りの伊都。



「私はもう10回以上一緒にバイトしています」


「それが? ……えぇ、ホントに? そういうこと?!」


「いや、違うから」


「佐伯さんは3回以上思いをぶつけてきてる言っても過言じゃないわけです」


「過言だし俺振られてんじゃねぇか」


「でもカップルは自然消滅って現象がありますよ。逆の自然発生もあってしかるべきです」


「ストーカーの発想だぞ。それ……」


「なっ。心外です」



 いや普通に怖いから……。


 話す安住をみて何か気づいたように伊都が問いを投げる。



「……その、安住さん」


「は、はい?」


「さっきからチラチラこっち見てますけど」


「そ、そうですか?」


「まさか自分も座りたいとか思ってます?」


「うっ、それは……」



 図星をつかれたような反応の安住。


 それを見て勝ち誇ったように微笑む伊都。



「否定できません、けど……私も大人なので順番は守りますよ」


「いや安住の番はないから」


「なんでですか不公平な」



 むすっと顔をしかめる安住。


 あり得ないでしょみたいな顔されても……。



「フッ。残念でしたね、私は降りませんよ」


「降りろ」


「分かりました。私も公正に決めたいので、ちょっと来てください」



 そう言うと安住はイスを持って事務室に向かった。



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