第7話 企画会議

 客がこない時間に突入した。


 はぁ……暇だ。



「なんか顔が険しいですね?」


「忙しいより、極端に暇な方がキツい派なんだよな、俺は」


「そうですか? 忙しいよりはまだ暇な方がいいです」



 暇を暇として消化できるタイプか。


 羨ましいな。



「暇なのに帰れないってのはしんどくないか?」


「えーそうですかね、忙しいのは年に1回くらいでいいです」


「サンタかお前は。現実に生きてる限りそれは無理だぞ」


「でも年に1回ビンタされるだけのオジサンがいますよ?」


「あれは別にビンタが本業じゃないからな」



 安住と話してると時間の経過が早いから助かる。


 でも今日はまだまだこれからだ。



「あ、そうだ。期間限定でお店にコンセプトを付けないかって話になってるんです」


「店長か。いろいろ考えてるんだな」


「その案を考えましょう。どうせ暇ですから」



 言う通りなので考えることにした。


 しばらくして安住が口を開いた。



「ヤンデレっていうテーマはどうですか?」


「また急だな」


「私がヤンデレになったらどうします?」


「具体的にどうなる?」


「そうですね、いきなり首絞めたりするかもしれないです」


「デレあったか?」


「せっかちですねぇ、この後ですよ」


「『別にあんたのためにやったんじゃないんだから!』」


「だろうな……俺のためだったら怖えよ」


「ヤンツンってやつです」


「両方の欠点を合わせるな」


「まあヤンデレって言ったら逆レ〇プが醍醐味ですからね」


「それは一理あるかもな」


「それをどう再現しますかねー」


「ふつうに厳しくないか?」


「あくまでめたふぁーですよ、めたふぁー」



 なるほど、比喩ってことか。


 間接的にヤンデレを感じさせるのか。



「じゃあ佐伯さんお客として演じてください」


「人もいないし、やってみるか」



 客のつもりでレジの前に立ってみる。


 安住はさっそく役に入っているようだ。


 猫背で、顔が髪で隠れている。



「あのー、これお願いしまーす」



 レジに本を置く風のジェスチャーをする。


 でも反応がない。



「あのー?」



 ばっと身を乗り出す安住。


 そのまま腕を掴まれた。



「うわあっ!? なんだよ……」


「私、見てたよ? この前、他のお店で本買ったでしょ? お仕置きしないと分かってくれないんだね……」


「いや、ここ品揃えの偏りあるし……」


「浮気はだめなんだよ……もう他のお店で買わないって約束あうっ!」



 ひっぱたいて一時中断した。



「ヤンデレで市場を独占しようとするな」


「だめですか」


「だめだ」




***




 ヤンデレからは離れることにした。


 意外と別案が出てこない……。



「夏と言えば何が浮かびます?」


「季節で考えるんだな。やっぱ水着とかになっちゃうな」


「それです!」


「でも着るわけにはいかないだろ」


「スカートたくし上げて『ざんねーん、水着でしたぁ』ってやつありますよ」


「それココでやったら苦情が……来ないな」



 客層からして誰も文句を言わない……。


 恐ろしい店だ。



「知り合いがそれやってるのは見てられないだろ」


「私が他の人に体を見られるのが嫌だと」


「そりゃそうだろ」


「ふふ、じゃあ肝に命じておきます」


「じゃあ夏のシチュエーション、他になんでしょう」


「スイカ割りとか?」


「“大勢に見られながら目隠し状態で棒を握らさせられるアレ”ですか」


「今の説明にスイカどこだよ」


「あと海でヒロインの下着が流されるとかありますね」


「水着を着て来い。てかまた水着かよ」


「水着が流される、シチュですから」


「あぁでもそれはアリかもしれないな」



 意外にも適当な意見に聞こえるが現実的だ。



「ですよね? 水着を散りばめておくわけですよ店内に」


「新品の水着を漂着した感じに配置するだけでいいし……いけるかもな」



もともと店がアレだしギリセーフか?



「じゃあこれで一旦叔父さんに聞いてみましょう」


「そうするか」




 後日、この案は採用された。

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