第5話 妹の襲来 前編

 今思えばあまりにうかつだった。


 客足がひいたのを見て読書(『義理の妹のエロ垢を見つけたので性処理をお願いすることにしました』)にふけっていた。


 ……隣から視線を感じる。


 安住も用があるなら声をかければいいのに。


 「何か用か」と言おうと振り向く。



「お、お前……」


「なんだあす……っ!?」



 それが安住の声じゃないのにすぐに気づいた。

 

 ツインテールの小柄なそいつは、


 


「い、伊都……!」




 俺の妹、佐伯 伊都(さえき いと)だった。




「なっ、んでここに……」


「あ、兄貴がここでバイトしてるってお母さんから聞いた」


「なるほど」



 言いながらそっと本を背後に隠す。



「っていうか今、変なの読んでだろっ?!」


「うっ……」


 

 やっぱり見られてたか……。


 声を裏返らせて詰めよる伊都。



「早く見せろ今見せろ!」


「無理だ!」


「言えないようなヤツなのかよ!」


「そうだ……」


「キモっ!」



義理の妹モノだったのは偶然とはいえ見られたら……。


 

「佐伯さぁん、今日は何読むんですか?」


「あ、安住いまはちょっと、ぐほっ!!」



 妹の重たい蹴りが腹に直撃。



「佐伯さんが小さい女の子に蹴らせてる?!」


「うぐっ、なんで俺からお願いしたみたいな言い方……」



 腹を抑えながらひざをつく。



「違うんですか」


「違うしこいつは妹だ……」



 腹を抑えながら答える。


 すると伊都が本を奪ってペラペラめくり始めた。



「わっななんだこのタイトル、それに絵が……!」



 こうなると言い訳もできないし終わりだ。


 潔く罪を認める。



「違う! それはたまたま手に取って!」


「嘘つけ!」


「いつも読むのと違う設定のも読んでみたんだよ!」


「でもエ、エロいのは日ごろから読んでんのかよ!」


「そりゃまあ」


「開き直るな死ね!」


「佐伯さんって家ではクリーンなお兄さんで通ってたんですね」



実際そうっちゃそうだ。


異性、エロの話題は出したことがない。



「てか安住さん? って言いましたっけ」



 伊都の目線が今度は安住に移った。



「はい?」


「こういうの知り合いの男が読んでてどうなんですか」


「特には? 私も読みますから」


「なっ! ……この人、兄貴の彼女だったりするわけ?」



 小声で耳元に問いかけてくる伊都。



「なぜそうなる……」


「いかにも私が佐伯さんの彼女です」


「うーん……やっぱなんか違う気がしてきた……?」


「えぇ……そ、そう見えます?」


「実際違うからな」



 誤解のないように言っておこう。


 伊都は結構信じ込みやすいタチだし。



「私とは遊びだったわけですか……」


「遊びっていうか仕事だろ?(バイトだから)」


「私とはお金という対価の下で一緒にいただけだと?」


「まあ、そうだろ(バイトだからな)」


「ちょ、どういう関係だお前ら?!」


「は? バイト仲間の同級生だよ。それだけ」



 今日は妹のテンションの起伏が激しい。


 さぞ兄のギャップにショックを受けているんだろう。



「じゃ、じゃあこういうのを読むのは安住さんの影響とか?」


「いや、それは別に……」


「あぁそれはそうなんだ……」



 なんかゴメンナサイ!


 また目から光が消える。



「あー……伊都ちゃんがレ○プされたヒロインみたいな顔になってる理由が分かりました」


「実際そうだけど他に言い方ないのか」



「お兄さんが変態だった上に自分以外の女ができててショックだったんですよね」


「色々違うだろ!」



 妹は安住の発言に乗せられて勢いよく返す。 



「兄貴が誰となにしてもどうでもいいんで! ただ兄が変態だと私が恥かくかもしれないでしょ? それが嫌なだけです!」

 

「俺としてはそういわれてもな……」


「分かりました。じゃあちょっと座って待っててください」



 安住は俺らを座らせて本棚の方へ向かった。




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