第2話 共同作業
「緊縛」
「ク〇責め」
「メス堕ち」
「ち、ち……」
店長と2人のときは雑談をして過ごすことが多い。
この日はしりとりをして退屈を紛らわせていた。
お題や縛りは特にないのだが、ここに勤めている以上こういう状態になる。
「はいー、10秒以上詰まったから暁人君の負けね」
「そうですね。悔しくないです」
「じゃあ罰ゲームとして日曜は休日出勤ね」
「はい?」
***
という経緯で日曜に本の入荷チェックを任されてしまった。
「いやそこは『痴女られ』とか言えましたってー」
「まあ……言われてみればうん、そうかぁ。いやそうかぁじゃねえよ」
しかもこいつ、安住とふたりでだ。
ちなみに『チ〇ポ』なんてとっくに使用済だった。
「というか、入荷チェックってどうすれば?」
「あぁそれは簡単だ。段ボールに入ってる本をチェック表みながら数えてけばいい」
「なるほど。じゃあ私がチェック付けますね」
「分かった。じゃあ俺が段ボールから取り出してく」
分担も決まったので早速始める。
「じゃあ……教え子J〇とのあまとろ……ってこれ最後まで言わなくてよくないか!?」
日曜の午前中から同級生の女子に何を言ってるんだ俺は?
つい我に返ってしまった。
「ダメですよ。この手の作品は似たタイトルのが多いですから」
「うぅ……確かに言えてるなそれは」
「恥を捨てましょう佐伯さん。代わりに私が読みますか?」
「お前は捨てすぎだ」
女子に読ませるのはこいつと言えど居たたまれない気分になる。
仕方なく安住の指摘を受け入れる。
「教え子J〇とのあまとろ搾精実習 2……」
気まずさをなんとか振り払って読み切る。
なんだよこれ。続編出てんのかよ。
「はい、おっけーです。佐伯さん、こういうの性癖なんですか?」
「いやなんでそうなる」
「だってなんか言いよどんでたので」
「それはお前がタイトルをフルで言わせるからだろ!」
「で、実際どうなんです?」
「肯定も否定もしないぞ俺は」
えぇー、と言って拗ねるように安住が目を細める。
こいつに性癖を知られたら確実にネタにされる……。
「この商品の部数はえーっと……。一応合ってると思うけど安住も確認してから記入してってくれ」
数え間違えのないように二重チェックはやはり要るだろう。
「了解でーす」
「それじゃ俺は次のやつ数えてるから」
そう告げてからは静かに作業が進んでいった。
俺はこっそり本のエロい口絵や挿絵を盗み見しながら数えた。
このくらいは許されてしかるべきだ、うん。
しばらくして安住が静寂を破った。
「佐伯さん」
「んー? なっ!? ……何してんのお前」
安住の白い太ももに「正の字」が書かれていた。
書くスペースが段々減ったのかスカートの裾を引き上げている。
「佐伯さんが言った通りに数をチェックしてるんですよ」
「いや、手とか紙に書けよ! なんで脚に書いてんだよ」
太ももを晒している上に椅子に座っているからアングルが危ない。
さすがに直視できず伏し目気味になる。
「いやーこれってよくあるヤった回数を太ももに書かれちゃう「エロ落書き」っぽくないですか?!」
「っぽいというかそれにしか見えねーよ!」
「喜ぶかなと思ったんですが、割と成功した感じですか」
「だから肯定も否定もしないって……」
「えぇーっ素直になりましょうよー。あ、じゃあ」
そう言って安住は落書きを加えた。
『生〇メOK』やら『だれでもハメて』やらひどいものだった。
「どうですか!」
「……いや、どうですかってお前それ家帰ってなんて説明すんだよ」
「あ……それはまあバイト先で色々あってと」
「ふざけんな!? 一緒に作業してた俺に責任が行くだろっ!」
「じょ、冗談ですよ。それにこれ字が上下逆さなので私が書いたって説明つきますし」
それ説明ついてるのか……。
流石にこのまま帰らせるわけにはいかないか。
「やっぱダメだ。それで帰られるとお前の親が勘違いする。落としてからじゃないと帰らせられん」
「ここで私、佐伯さんに堕とされちゃうんですね」
「変な言い方をするな……」
作業を一時中断し、俺は店にあった消毒液を持ってきた。
「これで消せるから、はいよ」
ティッシュ一緒に渡すとキョトンとした顔が返ってきた。
「なんだ。早くしろよ」
「佐伯さんがやって下さい」
「なっ……。自分でできるだろ」
「これを機に佐伯さんの理性を試そうかと。バイトの先輩として欲情を律することができることが分かれば私も安心ですから」
「俺が欲情を抱いてることは前提かこら」
安住に欲情を催してるわけはないのだが、
至近距離の女子の生足に無反応で入れる自信がない。
「潔白を示してくれたら、佐伯さんに何か疑いがかかったとき庇ってあげますよ? 悪い話じゃないはずですよ」
「いい話かと言われれば疑問が残るがな……」
そうして潔白を示すべく俺がインクを落とすことになった。
消毒液を染みさせたティッシュを太ももに押し当てる。
透けるように白いそれは柔らかく、近くで見るとより滑らかさが伝わった。
「んっ……」
「わざとらしいエロい声を出すな」
こんなんでちょっと鼓動が早くなった自分が情けない。
くっ……。
「どうです? 結構自信あるんですけど」
「それ……なんて言ってほしんだよ」
素直に感想を述べるわけにもいかない。
「素直に射精です。かけたい。っていっておけばいいんですよ」
「それ嬉しいのかお前は……」
「言えるとしたら佐伯さんしかいませんからねこんな褒め台詞。割と嬉しいですよ私は」
「俺にもいえねーよ」
冷静につっこむと安住はけらけら笑った。
会話がしょうもなさすぎて目の前の生足への羞恥心も薄れていた。
***
「結局これといった反応はしてくれませんでしたね。佐伯さん」
「まあな、あくまでバイト仲間として見てるってことだ」
「にしてはハスハスはぁはぁしてましたけどね」
「して……ないだろ」
「どうですかねぇ」と顎を触りながら目を細めて凝視してくる。
顔をそらしていると、誰かがスタッフルームのドアを開けた。
「お前ら……何してんだ?」
勢いよく振り返ると呆れた表情の店長がいた。
「あれ? 今日お店まだだよね?」
「あぁ、そうなんだが……」
安住はなんのきなしに会話を始めた。
だが明らかに店長は勘違いをしている。
「て、店長……あの違いますよ?」
散乱する丸められたティッシュ。
露わになった太ももに滴る透明な液。
あらぬ推測をさせるに足る物証が揃いすぎだ。
「バイト中にこっそり、のロマンはわかるがさすがによそで頼む……」
「違う! よそでもしませんよ! 安住も弁解しろ!」
「「挟んでしてくれるだけでいい! 出したら仕事再開する」って言ってたじゃないですか」
「なに冷静な顔で大嘘ついてんだお前!」
「まあ俺は響香の親じゃないし限度を守ってくれれば……」
「店長もいい加減にしてください!」
そのあと、改めて説明しても店長は腑に落ちてない様子だった。
俺は始まって間もない安住とのバイトを前途多難だと悟った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます