第41話_浮島強襲

 投票締切は、午前零時ちょうど。

  その瞬間、ホログラムの操作盤に“統合案・賛成8:反対3”の結果が表示された。

  しかし、集計完了からわずか十数秒後――鐘殿に向け、突風が巻き上がる。

  「来たぞ、強硬派!」

  塔の外縁、雲梯廊(うんていろう)と呼ばれる浮島の縁に、〈零視点〉の武装部隊が押し寄せてきた。

  その中心にいたのは、名前も明かさず、ただ“指導者”とだけ呼ばれる仮面の男だった。

  「統合案は無効とする! 既成事実を以て世界分離を完遂する!」

  合図と同時に、十数人の兵装型〈感情獣〉がけたたましい咆哮とともに出現。

  制御不能に近いほど過剰強化された異形の感情波が、鐘殿を包囲し始める。

  「行くぞ、最前線は俺たちだ!」

  優也が吠えるように叫び、最初に前へ飛び出した。

  その背には、蒼白い光の剣――“一撃貫通型”の感情武装が煌めいている。

  「翔大、足場を頼む!」

  「了解、発射っ!」

  翔大が肩に担いだ新型ギアから、圧縮された鉱石パイルを射出。

  その着弾と同時に空中に足場が展開し、優也が連続跳躍で敵の頭上へ――

  「一閃ッ!」

  空を割るほどの閃光が、先頭の獣を真っ二つに切り裂いた。

  「次!」

  声を上げたのは祥平だった。

  手に握るのは、いつもの“面倒くささ”を刃に変えた〈器用迅刃〉。

  だが今は、その刃がまるで“仲間を守る責任”そのもののように感じられる。

  「……ここを突破させたら、未来はもう選べない!」

  その一言に呼応して、後方の塔内部からも防衛ラインが展開される。

  千紗の指示による防御配置。

  瑠美の“共鳴フィールド”が、味方同士の感情を繋ぎ、傷つく前に察知・回避へ導く。

  敵の猛攻は苛烈だった。

  一人ひとりが抑圧された怒りや悲しみを具現化した兵装を纏い、ただ“選択を拒絶する”意志のままに突撃してくる。

  「……この戦い、勝ったって誰も笑えないかもしれない。でも!」

  祥平の刃が、真横から突っ込んできた爪撃を紙一重で受け止める。

  「それでも、誰かが笑える明日を選べるように、今ここで止めるんだ!」

  優也と並び、浮島の縁を守る最前線――その小さな突破口すら与えまいと、彼らは立ち向かう。

  「もうすぐです、鐘殿への強制制御装置が起動します!」

  後方から翔大の声。

  だがそのとき、空間が一瞬だけ震えた。

  「! 待って、これ――」

  千紗が叫んだ。

  「敵側が、こちらの同期信号に干渉し始めてる!」

  次の瞬間、鐘殿の上空に巨大な〈鏡界の裂け目〉が開き始めた――。

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