第8話 彼で一杯
あのキスの日から数か月、栞が気になってならない。
毎日のように家にいる栞は、だいたい涼太の部屋にいるけども、一緒に夕食をとる日もあって・・・。
だけど、彼は今までと何も変わらない様子で、私だけがドキドキしながらそこにいた。
「最近さ、ねぇちゃん無口だよね?まえは一日であったどうでもいい事をダラダラ話してたくせに。」
涼太は最近、生意気な口調で私をイジル。小さい頃は、私についてまわっていたのに、成長を感じるというよりは、少しムカつく存在。
「どうでもいい事を話して悪かったわね!!」
私は不機嫌な顔になってしまうけど、涼太はニヤニヤした表情でからかう。
「あっそうだ!!彼氏とはどうなってるの?キスくらいできた?」
”キス”という言葉に思わず栞を見てしまう。何も動じず食事をしている栞を見て、直ぐに目をそらしたけど、私は一瞬で顔が赤くなる。
「彼氏って・・・彼氏なんていないし。いても弟に言わないし!!」
「照れてんじゃね~よキモイな!!別にいい年齢なんだから彼氏がいてもおかしくないだろ?って言うか、これまでずっと居ない方が問題だったよな」
涼太は栞に同意を求める。どんな顔しているんだろう?気になって見てみる。栞は丁寧に魚の小骨を取りながら、
「悠ちゃんの魅力に気が付かない男が多いんだよ」
そう言うと、栞はこちらを見てにっこり笑う。冷静な笑顔に私はまた目をそらす。
「魅力?あるかな?顔の割には子供っぽいしな~。
お勉強しすぎて頭堅そうだしな~。付き合っても面白くなさそう!!そそらない!!あっ!いい言葉があった!!根暗でムッツリな女!!」
私は弟の言葉に若干ショックを受ける。だって結構あたっているから・・・。昔からそうだった。友達に恋人ができたら、平然な顔をしながら、実は、心底うらやましかった。中・高と全くモテなかったから、男子から「おはよう」と声をかけられるだけでトキメク事も多々あった。それで、勝手に目で追ったりして、よくも知らないその人の人間性を探るような妄想をして、恋したような気分になっていた。だけど、その人にはちゃんと彼女がいることが分かると、勝手に失恋をした。一方的で盛り上がっただけだから、二日くらい落ち込んで、お気に入りの恋愛漫画を猛烈に読んで泣いたりした。そうすると、すぐに立ち直れた。弟はそんな私を冷静に分析している。そして解析している。驚いた。私が何も言い返せないでいると涼太はたたみかける様に、
「彼氏できたの隠したって無駄だから!最近はスマホを気持ち悪い顔でニヤニヤしながら見てるからバレバレだし。そんな事くらいその年齢で隠そうとしてるところがまたキモイから!!」
私は弟に何度キモイといわれるのだろうか?そんなに気持ちの悪い顔でスマホを見つめていたのだろうか?我ながら情けない。
「でもさ、悠ちゃんはそんなピュア~なところが可愛いんだよ。とってもお姉さんなのに、可愛いらしい女の子だな〜と、俺はおもってるよ。」
栞は涼太に言いながらも、何故か私を真っすぐに見つめてほほ笑んだ。えっ?何なのこの優しさ!!何なのこの包容力のある眼差し。また、頬が赤らんだ。私はどうかしている。中学生にこんなにドキドキさせられるなんて。やはり涼太の言う通り、私ってキモイのかもしれない。栞の言葉が気になってしまう。栞から目をそらしてしまう。栞の存在に動揺してしまう。胸の高鳴りが止まらなくて・・・息が苦しくなってしまう。
これは
あのキスのせいだ
絶対にそうだ!!
私がおかしいのではない。
あんなに不意に、優しく大人っぽくキスされたら、
誰だってこんな風にポンコツになってしまうはずだ!!こんなイケメンに。私は栞の柔らかく温かい唇とふんわり優しい香り、そして、中2のくせに
普段からは想像もできないくらい大人っぽく男らしい一面が、忘れられない。心に焼き付いている。
だからだろうか?
最近、純一郎からのメールの返事が億劫になっていた。
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