第39話 私を……



「くっ! や、やめろ! やめてくれ……」



アミンは剣を振り上げ叫ぶ。



その顔は苦悶に満ちており、精一杯の拒否をしているように見えるが、その剣は確実に俺を斬り殺すために真っ直ぐ振り下ろされた。



「おわっ!」



俺はそれを身体を逸らして避ける。



続けてアミンは、剣を横一文字で斬り返す。



それを俺はバックステップで交わす。



服の腹の部分が少し掠めた。



「ナ、ナード様! も、申し訳ありません……」



「い、いや……俺は大丈――おわっ! おわっ!」



それは距離を取ろうとするも、アミンはしなやかな脚をしならせ、カモシカのように一直線に踏み込み、俺に第一、第二の太刀を浴びさせようとする。



いずれも首や心臓などの急所を狙ったもので、明確な殺意がある。



いや……厳密には、その動きだけであって、アミン自体には感じられない。



だって、彼女は俺に剣を向ける度に……泣きそうな表情をしているから。



「やめろ……! やめてくれ……! 私の身体……言うこと聞いてくれーー!!」



アミンは大声で叫び、気合いでラブリーの魔法を解こうとする。



だが……むなしくもアミンの太刀筋はどんどん鋭利になり、ますます動きも俊敏になってきた。



「あれが……性感帯に口づけをすることによって対象者の身体を操るラブリーの魔法……!? なんと恐ろしい……!」



倒れて顔だけ起こしているマスケラードが、目を剝きながらその力に震撼していた。



「私の性感帯である、にもキスをされていたらああなっていたというのか! 女にキスされるとか考えるだけでも気持ち悪いですね、ナード様!!」



「誰も聞いていない性感帯を暴露するお前が言うな! いいから寝てろ!! ――おわっ!?」



俺がツッコミをしている最中でも、アミンは休む間もなく連撃を畳み掛けてくる。



「うーん、いい感じですね~♡」



そんなアミンに向かって遠くから右手をかざすラブリーの笑顔は、まるでラジコンを動かしている時のような子供の無邪気さがあった。



「そろそろ、女騎士さんの〝操作〟にもなれてきたし……。本気出しちゃいますね~♡」



すると、その時アミンから強い魔力の高まりを感じた。



「や、やめ――……」



彼女の表情からは僅かな抵抗が見えたが、それでもその技は確実に、また明確な殺意を持って放たれた。



「〝<ソード・ツナミフレイヤー>〟――!」



……マジか、詠唱までできるのか……!?



俺に向かってアミンの炎の津波が襲い掛かってくる。



このまま力を解放して吹き飛ばしてやろうか――?



そう思ったが、実は先ほどアロリアがこちらにくる気配を俺は察知していた。



なので、この調子でいけば俺が本気を出さなくても、乙女ゲームのヒロインさんがなんとかしてくれる可能性がある!



やっぱり魔物だとみんなから勘違いされるのはめんどくさいからな……なんとかギリギリまで誤魔化したい。



俺はそんなことを考えてていたので、アミンの炎の津波を――



「あちっーーーーーー!!」



モロに受けた。




「ナ……ナード様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



炎の向こうでアミンの叫び声が聞こえる。



だが、俺は大丈夫だ。



少しだけ『回避力』を使って、炎の津波の中でも魔力が弱いところに避難し、『防御力』を使ってそれに耐えた。



まあ、軽く火傷はしたし、服も一部は燃えてしまったが全然命に別状はない。



やがて、炎の魔力が消え去り、視界が晴れ渡った。



その時、アミンと目が合う。



「ああ、俺は大丈夫だ」



笑顔を作って俺はそう言う。



「ナード様!! ご無事…………で…………」



しかし……彼女の瞳が徐々に見開いていく。



その視線は、俺が火傷した身体、そして燃えた服の一部に注がれていった。



茫然自失とその一つ一つを見つめたあと……アミンの瞳から、一筋の涙がこぼれた。



「く……う……うう……」



自分を責めるような声にならない声で目を伏せるアミン。



そして、彼女は意を決するように歯ぎしりをしたあと、喉を裂かんばかりに叫んだ。



「ラブリー!!!」



「んー? なんですか~? 女騎士さ~ん?♡」



「私を……」



そして、次に離れた言葉は、命令というよりもお願いのような弱い響きだった。




「……殺してくれ」



「おい……アミン! なにを言って――」



「――私の身体を操れるのであれば、私の首を斬り落とせるはずだ。腹を裂いてもいい。魔力で私の身体を燃やしてくれてもいい……。好きにしてくれても構わない……。だから……殺してくれ……」



そんなことラブリーがするようであれば――もう俺は本気を出して止めるしかねえぞ。



「へ~?♡ 残酷な殺し方をしちゃってもいいんですか~♡」



クスクスと人の心を逆撫でするような笑みを浮かべるラブリー。



しかし、アミンはその挑発も受け入れた。



「ああ。……私はナード様の従者にも拘らず最も大切な主人を傷つけてしまった。私はもう生きる資格がない。罰だと思い甘んじて受け入れる。だから……殺してくれ……!」



アミンは、目を閉じる。



閉じたままの瞼からとめどなく涙がこぼれていた。



まるで――なにかを思い出しているかのように。



ひょっとしたら、俺との思い出を振り返っているのだろうか。




「私は……ナード様のために7年間己を鍛え上げてきたんだ。この方をお守りするために……。命を賭けて剣を振り続けた、喉が枯れるまで詠唱し、魔力が尽きるまで訓練を積んできた……」



はじめてあった時のアミンは、俺に対して明らかな不信感を抱いていた。



でも……徐々に誤解が解けていった。そして、俺たちの絆はこの7年間で確かなものになったんだ。



「私の剣のナード様のためにあるのだ。それなのに……その剣をナード様に向けるなんて……。もう耐えられない……」



その言葉は俺への忠誠心が心の奥底まで伝わってきた。



「頼む……! お願いだ……。これ以上……私の誇りを踏みにじらないでくれ……。私の……一番大切な方を傷つけないでくれ……。今すぐ……私を殺してくれ……。後生だ……」




悲痛な声で、アミンは懇願した。



それを聞いて、ラブリーはふーんと、感心したような嘆息を漏らす。




「女騎士さんは、やっぱり<のけ者無双>さんのことが大好きなんですね~♡」



そして、人差し指を下唇に当てて、首を横に傾げる。




「わかりました。じゃあ、女騎士さんの心意気にお応えして……」




そして、その艶やかな唇を半月状になるまで口角を歪めあげたあと……




















「絶対にあなたの剣で<のけ者無双>さんを殺してあげるようにしちゃいますね~♡」






















人の誠意を踏みにじることに悦びを得るように、ラブリーは狂乱したように大笑いをした。






「きゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

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