第38話 急転直下百合
※アロリア視点
「これで全員か!?」
爆ぜる魔法と耳を裂く衝撃音が轟く中、私は喉が裂けんばかりに叫んだ。
「こちらE隊! 現在操られたと思われる人間は確認できておりません!」
貴族の生徒が平民の私に対し、ためらうことなく敬礼した。
この短時間ではどうやら私は、指揮官としての統率力をなんとか発揮できたようだ。
もちろん、全員を助けることはできなかったが……それでも、死傷者は減らすことができたと思う。
そして、討伐すべき魔族の数も、いよいよ残りわずかとなった。
これなら――!
「ハンサン先生!」
私は双剣使いの講師に声をかける。
「なんだっ?」
「この場の指揮権をお願いいたします! 私は……これから『オーナーバス闘技場』へ向かいます!」
この場において最も指揮官として能力がありそうな、彼に託した。
「……心得た!」
ハンサン先生は、それから各隊へ指示を飛ばす。
癖がなく堅実な指示だった。
それを見送ったあと、私は走り出そうとした。
だけど……
「あ、あの……」
女生徒の声が聞こえた。
あの、純血派の女の子だった。
「ア……アロリア様……。あ……あの……女の魔物のところに、い……いくのですか……?」
「……ええ」
彼女の身体は未だに震えていた。
よほど恐ろしい魔物なのだろう……。
この子は生きているだけでも奇跡だったかもしれない。
「い……行っちゃダメです……! た、戦ってはいけません! あ、あの魔物は……あの魔物だけは……! う、うう、うううう……!」
彼女はそのまま泣き出してしまった。
王立学園の生徒が戦場の真ん中で涙を流すなんて……論外だ。
士気にも関わるし、女だからといって許されない。
でも……。
「……………………!」
私は、彼女の身体をそっと抱き寄せた。
「大丈夫。私の使命は人類の命を守ること……。そのために、絶対にその女の魔物に勝つわ」
「う……ううう……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
泣き崩れてしまった彼女の頭を軽く撫でたあと……私は今度こそ地面を蹴って駆け出した。
――急いでいかないと。
あの火剣のブラウンで有名な、ブラウン団長率いる王聖騎士団の精鋭が向かったという情報を伝令兵から聞いたが――先ほど彼らの魔力が跡形もなく消え去ったのを感じた。
状況的に全員殺害された可能性がある……。
幸いにも、ナード様たちはまだ存命であることはわかっているが……マスケラード様とアミンの魔力が著しく低下している。
危険な状態だ……早く行かないと。
でも、恐ろしい……。
闘技場にいる女の魔物とは……どれほど恐ろしい存在なのだろう。
一体……どれほどの……。
〇
「ほらほら~♡ こういうのも気持ちですか~? 女騎士さん~?♡」
どうやらあの闇の黒縄は、魔力を調整すれば形も変えられるようで、先端をねこじゃらしみたいに変えている。
そして、それを使ってひたすらアミンの首元をさわさわしている……。
「んふっ……! んんんっ……んむぅっ! んんんぅーーー!!」
押し寄せる快感に拘束されているアミンは抗えずに、眉間を寄らせこもった喘ぎ声を出すことしかできなかったが、それでもラブリーはやめない。
「んふっ……んんん……んん……」
やがてアミンの瞳は揺らぎ、焦点が合わなくなっていった。
頬に熱が差し、耳まで紅潮しており、目尻に涙のような光が滲む。
「ふふふ……♡ 力がだんだん入らなくなっちゃいました?♡」
そんなアミン虐待、訳してアミ虐を――俺は拳を握りしめて、まばたきを一つもすることなく眺めていた。
すると……後ろから物音が聞こえた。
「わ……私は一体……今までどうして……?」
どうやらマスケラードが意識を取り戻したようだ。
こんな短時間で起き上がるとは……やはり強いなこの男。
……でもちょっと静かにしてくれないかな?
「な……! アミン殿が、拘束されている!? こ、これは一体……! ナ、ナード様?」
ああ、もうコイツ……。
「うるさいぞ、マスケラード!」
「うわっぁ!? ナード様どうしたのですか!? 目が……目が血走ってますよ!?」
「ああ、もう3分以上も目を開いているからな。そろそろドライアイだ」
「ど、どうしてそこまで!?」
「どうしてだって! あの……あの光景を目に焼き付けているからだぁぁぁ!!」
俺はもう一度、尊い(?)百合(?)のやり取りをしている二人を指差した。
「なっ……そういうことか!!!!!」
流石、ド変態マスケラードは、俺が言わんとしていることを察したらしい。
そして、悔しそうに地面に拳を叩きつけた。
「どうして……どうして……女っばかり!! 男同士のやり取りはないのですか! 是非、男versionをお願いします!! ナード様がアミン殿の立場で!」
コイツ、どさくさに紛れて恐ろしいことを言い出したな。
もう寝てろよ、マジで! 今、いいところなんだから!
だが……ショータイム(?)は、突然終わった。
「さぁて、もう女騎士さんを苛めるのは飽きましたし……本番といきましょうかね」
本番……! 本番とは、つまり本番ですか!? ゴクリ……!
と、スケべェな俺は過度な期待をしてしまったが、そんな訳がなかった。
ラブリーから魔力の高まりを感じた。
そして、アミンのポニーテールをゆっくりとあげる。
「……<セドゥクティオ・マグヌス>」
甘く囁くように詠唱したあと、その薄紅色のぷっくりした柔らかな唇を……アミンの首筋にそっと触れた。
ちゅ……
「ン゛ッ!?」
その時、アミンの背筋が小さく跳ねる。
やがて……口づけをしたアミンの首筋を目標に、闇のモヤみたいなものが集まってきたと思ったら、そこにべっとりと紫色のキスマークが跡として残った。
「んふふふ……♡」
ラブリーが、喉の奥から鈴を転がすようにこぼれた笑い声をあげたあと……右手をかざす。
アミンを縛っていた闇の黒縄はスルスルとその拘束が解けていった。
「ア……アミン……?」
頭も垂れ、両手もぶらんとした状態で立つという奇妙な格好をしている彼女に俺は声をかける。
すると、聞こえたのは……
「に……げ……て……く……だ……さ……い……」
そんなアミンの声。
直後、そんな言葉とは裏腹に、彼女は地面に刺さっていた愛剣を瞬時に抜くと……。
「ナード様……早く……早く……!」
その顔は、今にも泣きそうな表情をしているものの、その剣先は真っ直ぐ俺に突き立てられていた。
「身体が……まったくいうこと聞いてくれません……! このままだと私……ナード様を……!」
「アミン……!」
……いやぁ、マジで女でも身体だけ支配できるのか。
てか、うん。あまりにも、急転直下百合を前に、俺調子に乗りすぎたな。
早く助ければよかったのに。ごめんね、アミンちゃん。
不思議と……まったく後悔してないよ。
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