第23話 魔物フラグ!?



「俺が、魔物って……? お、おま……なに言ってんだよ……あははは……」



自分でも驚くくらい乾いた笑いだと思った。



実際、緊張で口の中の唾が消えてしまったようだ。



今までずっと魔物はもちろん、下級知能を持つ魔族だってこの7年間まったく交流すらしなかったのに――。


なぜ、どうして俺が……よりによって〝魔物〟だと疑われているんだ?



――破滅フラグ。



俺の中で、その恐怖の文体が浮かび上がってきた。



それを必死に首を横に振ってかき消そうとする。



落ち着け。



これはなにかの誤解だ。



それ以外考えられない。



「ちょ、ちょっと待ってくれよ。冗談にしてもキツイって……。な、なぁ、どうしてそんな風に王聖騎士団は考えているのか教えてくれよ」



俺は今の自分にできるいっぱいの笑顔でマスケラードにそう頼んだ。



大丈夫だ。もし、俺が魔物だと本当に疑っているのであれば、こんなことをわざわざ本人に言うことはしない。もっと緻密な調査をする筈。



それに<ステータス・チェック>だって俺に許可を取らずにとっとと秘密裏にやればいい。



もちろん、俺ほどのレベル(777)であれば、半径7キロメートル以内なら、誰が俺に<ステータス・チェック>をしたかわかる。



レベルが高い者ほどそういう能力にも長けており、それを警戒してのことかもしれない。



もし、していたのであれば俺は気がついている。



現にマスケラードが俺に<ステータス・チェック>をした痕跡はなかった。



ただ、俺が思うに、マスケラードが許可を取りたいのはそんな理由ではないと思う。




多分、コイツは……




「いいでしょう。一から説明させていただきます。いえ、実のところを言うと、私はナード様が魔物である可能性はほとんど0%なんじゃないかと思っています」



その言葉に俺は、彼が見えない机の下で小さく「よし」と握り拳を作る。



やはりそうだ。ある程度確信を持っているからこそ、遠回しに言ってきたんだ。



「私だって王騎兵の端くれです。魔物の中には巧妙に魔力を調整し、変化の魔法で人間に化ける者もいますが……それくらい私の〝目〟なら簡単に見抜くことができます」



流石だな。名に恥じない相応の実力を備えているというわけか!



ふー、焦らせやがって、あぶねぇあぶねぇ。



「――それに! こんなカッコ良くて可愛い爬虫類顔のナード様が……あの忌々しくて醜い魔物の筈がない! うん!」



確信を持って握り拳を作るマスケラード。



うーん、その根拠をまさか王聖騎士団に報告するつもりか?



「さて、話の続きをしましょうか。そもそもナード様は《マナ・レヴェル・セリエ》はご存知でしょうか?」



「あ、ああ、もちろん」



《マナ・レヴェル・セリエ》――。



これは王宮の正門前と玉座の間にそれぞれ1柱ずつ設置されている、古代文明によって造られた魔力感知と識別の神器である。



まあ、レーダー探知機ってやつだ。



王都および王宮周辺は常にこのレーダーによって魔力の監視が行われ、魔物などの敵が防衛範囲に入ってきたら王聖騎士団や、同盟貴族たちが連携し、即時対応するというカリキュラムになっている。



まあ、この辺は原作でもちょっと登場したな。



あの悪役貴族ナード=ランベッリが起こした〝王立学園生徒惨殺事件〟でだ。



シナリオでは、終盤、攻略キャラとヒロインが、王宮近くで王の前で婚姻を誓うが《マナ・レヴェル・セリエ》が反応し、王立学園が魔族たちに襲撃されていることを知り、「みんな私たち行くまで耐えていてねーー!」と、ヒロイン達が駆けつける――という、中々カッコイイ展開がある。



いやぁ、今思い出しても中々胸熱だったよなぁ。



って、浸ってる場合じゃないな。



にしても、ここであのレーダー探知機が登場してくるなんて、なんかちょっと不吉だな。



嫌でも俺がフラグを避けたい〝ナードルート〟の光景が目に浮かぶからだ。



「そもそも、魔族や魔物と人間とでは〝マナ〟の保有量そのものが違います。単純な数値で比較するなら、およそ3倍から10倍以上。それほどの差があるのです。しかも、魔族の持つマナは人間のそれとは根本的に〝質〟が異なり、より濃密かつ異質な波動を放ちます。そして――この《マナ・レヴェル・セリエ》は、そうした差異を逃さず捉える構造になっている。わずかな数値の揺らぎでさえ、正確に反応するのです」



マスケラードはそう説明する。



魔力との違いは、前世でいう、人間と動物の関係を想像してもらったほうがわかりやすいだろう。



人間が持つ筋力や骨格など、熊やライオンやサメといった動物と比べたら全然大したことはない。



魔族や魔物の力関係もそういうことだ。



ただ、人間がそんな動物たちと武器などの道具を使って渡り合えているのと同じ理屈で、この世界では、魔法や魔道具といった〝武器〟で、彼らと同等、いやそれ以上の力で戦うことができている。



だから人間は魔族たちに魔力で負けていても、戦争では拮抗しているということである。



いや、現在はやや人間側のほうが有利かもな。



まあ、つまり、そういう魔族独特の魔力を察知する装置が《マナ・レヴェル・セリエ》というわけである。



「たとえ魔族がどれほど気配や痕跡を巧妙に隠したとしても――この装置は逃しません。 わずかな違和感でも即座に反応し、その情報は王聖騎士団へと自動的に伝達されます。我々がその反応を確認したのは……今から3日前のことです」



「なるほど3日前か……」



確かあの時は、俺がチュートリアル雑魚共を瞬殺した時だったな。



まあ、アイツらもなぜかレベル20近くあったから俺も多少は力を解放して――



……って、え? 



ま、まさか……



「魔物らしき者の出現が確認されたのは、12ː10頃、王立学園内です。直ちに私が確認へ向かったのはそれから1時間後のことでした。その時、王立学園内で戦闘の痕跡が確認されました」



「……………お、おう」



「近くにいた学生に聞いたところ、なにか爆発音が聞こえたという証言を聞いたということが確認できました。つまり、なにかしらの交戦があったことは確実でしょう」



「………………お、おう」



「その後も調査を続けていた中で、王立学園から〝アロリア殿の護衛要請〟が届きました。そして、純血派の学生が彼女の命を狙ったと知ったとき――私の中で、一つの線が繋がったのです。つまり、〝純血派が魔物に化け、光系統の使い手であるアロリア殿の暗殺を試みた〟。もしこの仮説が正しければ、これまでのすべてに説明がつくのです」


「そ、そうだな! うん、そうに違いない!」



その仮説のまま有耶無耶になれ!



「しかし……純血派の3人の生徒を尋問しましたが、彼らが魔物であることはあり得ないという結論に至りました。あまりにもレベルと魔力が低い」



「だ、だよな……うん……」



あっちゅーまに論破されたな。



「まあ、純血派は、我々王聖騎士団とはいえ、政治的な後ろ盾がある組織なので、関わると面倒だと思い、あまり突っ込んだ話はしませんでしたが……3人はなにか隠していると思いました。――口を割らせることはかないませんでしたが、おそらく誰かに〝脅されているのではないかと〟」



「…………………………」



「そして、同様にアロリア殿もなにかを隠しているように見えましたが、彼女も詳細は話してくれませんでした。しかし――とある生徒が目撃していたんですよ」



「…………………………」



「アロリア殿が――ある男の人と手をつないで人影のない研究棟で走っていくという姿を。その人こそ――ナード様であることを」



「…………………………」



「以上のことから、状況的に、アロリア殿も純血派も――なぜかあの場にナード様がいたことを隠していたのではないか……という推測を立てることができました。なぜそんなことをしたか……。今までの私の言動を見ていれば、なんとなく察しかつきますよね? ――ナード様」



俺はまるで心臓を掴まれるようなマスケラードの尋問に耐え切れず、思わず俯いてしまった。



やばい……そういうことか……。



あの《マナ・レヴェル・セリエ》が反応したのは――俺の〝マナ〟。



レベル777という異次元な数字が、俺が魔物であると、レーダー探知機にさせちまったんだ……!



それぐらい俺が持つ魔力は、文字通り〝人知を超えている〟!



くそ……破滅フラグ回避のために、俺は死ぬ気でレベルをラッキー7に揃えたっていうのに、とんでもない大どんでん返しで、裏目に出ている!!??



なんとか、俺のレベルについては、チュートリアル雑魚共に喋んじゃねえぞ、コラと、口止めし、アロリアには内緒にしてくださいとお願いしたが――もう見抜かれているかも……。



「ナード様、改めてお伺いいたします」



それからマスケラードは打って変わって組んで手をギリリという音が聞こえるほど握り締め――



「あなたは――」



目を広げ、まるで睨みつけるように――



「あなたは――!」



俺にこう聞いた……。




















「アロリア殿とお付き合いをしているのでしょうか!!??」



「いや、そっちかよ!!」

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