第65話 庭園ダンジョンの守備隊
「皆、無事か?」
遥か彼方から突如襲ってきた衝撃と斬撃。
それは神竜隊を狙ったものではないと気づくのにリュウガですら遅れた。
浮島となっているフロアを真横に一文字のごとく両断、障害物となっているはずの建物や塀も無慈悲に倒壊。
「たいちょーのおかげで助かりましたよー」
神竜隊に届いた斬撃はリュウガの双剣によって見事止められた。
それが神竜隊に到着した時はだいぶ弱まっていたおかげだ。
それを誰よりも実感しているのは当然本人であり、その手に残った振動の感触から意識が離れない。
「今のはダンジョンの仕掛け……いや、魔物の仕業か?」
「もー、アタシのドラゴンテールなんかかわいいもんですよー」
「斬撃が放たれたのはあちらの方角だな。よし……」
「ま、まさかあっちに行くつもりですかぁー!?」
リュウガはタツキ達、隊員に背中を見せて歩み始めた。
双剣で斬撃を受けた時、彼の血が騒いだ。
心臓がドクンと鳴り、全身を騒がせる血は斬撃の主を歓迎している。
(本当にダンジョンの魔物の仕業か?)
リュウガの口角が無意識に上がって犬歯を覗かせた。
生まれて初めて味わうその感覚の正体はわからない。
リュウガはひたすら笑う。
「あっちに行くぞ」
「え、まさか斬撃を放った主のところに?」
「なんだかなぁ……。オレさ、正直に言うと退屈だったんだよ。どの魔物も歯ごたえはないし、探索者相手なら武器なんか使うまでもない」
リュウガは双剣を床に向けて同時に振った。
床が斬れて、下層のフロアにある建物の屋根に取り付けられている鯱の尾が断面を見せて落ちていく。
「もしこのダンジョンにオレとまともに戦える奴がいるなら、それは幸運どころじゃない。つまるところ、オレの本質は探索者じゃないのかもな」
タツキも隊員達もリュウガの言葉を否定も肯定もしない。
神竜隊のメンバーといえど、真の意味で彼を理解できるはずもなかった。
人間が竜の理解者になれるのかという話だ。
「よし、よーしよし。なんだか楽しくなってきたぞ。ランチボックスでも持ってくればよかったな。味気ない非常食じゃ物足りない」
そう一人で高揚するリュウガの後ろを隊員達はついていくしかない。
細かいスケジュール管理や経理、その他雑務はタツキの仕事だがこの神竜隊の隊長はリュウガだ。
(あんなに楽しそうなたいちょー初めて見たかも……ん?)
タツキがきょろきょろと見渡すと明らかに一人足りていないことに気づく。
(……イグル、どこいった?)
姿を消したタイミングは神竜隊が斬撃に動揺している間か否か。
いずれにしても神竜隊の目を盗んで離脱できる辺り、イグルは腐っても隊長格という事実を置き土産とした。
彼が何を企んでいるかはタツキの知る由もない。
しかしイグルが帝鳥隊の隊長の座につくに相応しい実力を発揮できる状況を彼自身が作り出したのだった。
* * *
「騎馬兵!」
黒い馬にまたがった鎧武者達がパカラパカラと蹄の音を響かせて迫った。
あれは水戸黄門で見た姿だけど、全身が漆黒で塗りたくられてまるで闇の武者といった風貌だ。
それにあの弓手も無視できない。
<し、深淵の武者! S級が四体!?>
<かつて07号部隊を何度も退かせた最強の守備隊……この数はおかしい!>
<07号部隊の敵は一体のみだったと聞いているが……?>
<フ……フフッ! 五体は史上初だな! 庭園にとってそれほどの危機ということだな! ハハハッ!>
<ガドウ大臣……?>
最強の守備隊と呼ばれている四体の武者達は確かに今までの武者と風格が違う。
しかも俺と同じ刀を武器としている武者、槍や鎖鎌、弓と様々な戦法が予想できる。
馬が床をジャリッと鳴らして、なかなか踏み込んでこないのが冷静だ。
――ヒュンッ!
「……ッ! あの弓手も無視できない!」
高い建物の窓から矢を放つのは小悪魔風の見た目の弓手だ。
頭巾を被っていて、その仕草に俺達を殺すこと以外の感情は一切込められていない。
人間と違って余計な雑念が一切ないんだ。
「さすがにここまで下層にくると、魔物が一味も二味も違うか」
「トーヤさん! ファリーがあのアーチャーデビルをやっつけるデス!」
「いや、あの高さに加えてこの距離だよ。接近を許すわけがない」
「ノープロブレムなのデス! にんっ!」
ファリーちゃんが駆け出して、同時に小悪魔が矢を放った。
ところがファリーちゃんはわずかに残像を残して矢を見事に回避してしまう。
「サムライ奥義! サムライシャドー!」
<ぶ、分身したのか!?>
<なんだあの子どもは! まさか侍だとでもいうのか!>
<あれはアースレイン社のご息女だろう! 社長! どういうことですか!>
<オォー! ファリー! 見事にサムライに近づいた! おこづかい10万円!>
<だったら母さんは12万円よ>
<トウヤさん、ご覧いただけまして? これが自慢の妹なのよ。6万円>
「さらっとすごい額のおこづかいが入ってる!」
おこづかいなんて俺はそんなに貰ってなかったよ。
小学校高学年まで一ヶ月で確か500円くらいだった。
それでもほとんど使ってなかったから、ずいぶんと溜まったな。
「にんにんにんっ!」
ファリーちゃんは一発も矢に当たることがなく、蜘蛛みたいに壁を高速でのぼって小悪魔の前に顔を出した。
さすがに壁の下には矢を放てず、目標を見失った小悪魔はさすがに虚を突かれたようだ。
「きぶんそーかいなのデース!」
「ぐぎぁッ!」
見事、小悪魔の喉元を的確に斬り裂いた。
あの魔物は遠距離攻撃に特化している分、接近戦は弱いのかもしれない。
「よし! 俺達も負けてられるか!」
俺が深淵の武者達に斬り込むと、あっちも一斉に攻撃を開始した。
鎖鎌を回転させて刃の竜巻を形成して、馬で跳躍しながら槍を放てば地面に穴が空く。
高い移動速度で俺の死角から一度に数十本以上の矢を豪雨のように放つ。
「千羅死図死ッ!」
槍、矢、鎖鎌。すべての到達点を見極めて刀で弾く。
槍の鎧武者が一瞬の怯みを見せた瞬間、もう一つの奥義を叩き込む。
「剣華上刀ッ!」
槍の鎧武者の槍を持つ腕ごと斬り飛ばしたと同時に複数の斬撃が分散。
鎖鎌の鎧武者の胸を斜めに切断、弓の鎧武者の矢を引く腕を落とす。
この間は一秒に満たず、
「……回析猟利ッ!」
攻撃手段を失って更に隙が生まれたところで俺は体を回転させた。
大雑把な技だけど、その威力で鎧武者達に更なる追撃を入る。
硬い鎧ごと体を分断させて、それぞれが吹っ飛んで橋の下にある池に落ちていった。
「ふぅ……紙一重だった」
<どこが、どこが……?>
<え、え、えす、えす級が……瞬殺、しゅん、さつ……?>
<ちらし寿司に喧嘩上等! 懐石料理! ふざけているのか!?>
<こ、こ、こんな、こんな剣技は見たことがない! ひゃく……いや! 150万円!>
<これはCGだ! ガドウ大臣! そうでしょう! そうに違いない!>
<ファンタスティーーーク! トウヤボーイに300万!>
<さすが私の……いえ、お友達のトウヤさんね。えっと……あら、おこづかいがもうないわ。ママ、おこづかいちょうだい>
<仕方ないわね。はい、50万円>
すごい金額の取引が容易く行われた気がするんだけど。
俺は気を緩めずに残り二体の深淵の武者を見据えた。
ところがあっちはリコさんと戦っている。
「くっ……!」
さすがのリコさんも苦戦しているみたいだ。
というのもリコさんが戦っている深淵の武者は腕が四本もあって、刀も四本。
なんだかどこかで見た造形の魔物だ。
(あれ八つ裂きマシーンみたいだ。だけどあっちより数段強いな)
それぞれの腕の剣さばきに無駄がなくて手数も多い。
その凄まじい剣速から繰り出される技はリコさんの全身を確実に切り刻む。
リコさんの大剣だと相性が悪いかもしれない。
「リコさん!」
「私が倒します!」
リコさんは歯を食いしばってあの深淵の鎧武者と対峙していた。
ここで俺が手を出すのはリコさんへの侮辱だ。
俺がリコさんと深淵の武者、一対一の立ち会いを邪魔するはずがない。
それに――。
(なんだろう。リコさんが負ける姿がまるで想像できない。それどころか……)
アースレイン社で大剣を新調してもらった時から、リコさんの様子が今までと違った。
セイとケンが屯田兵もどきを蹴散らす様を視界の端に入れつつ、俺はリコさんから目を離さない。
気がつけば食い入るようにその立ち会いの行く末を楽しみにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます