第64話 庭園ダンジョンの守り

 轟音が鳴り響いた。

 新たな罠か魔物の襲撃かと警戒して見渡せば、遠くのフロアが倒壊している。

 思わず目を疑う光景で、あれもダンジョンの罠かと思った。


「リコさん、あれって……」

「わ、わかりません……。罠の類かもしれませんが、そうなるとあそこに他の探索者がいた可能性があります……」

「そーデス! 人がいないのに発動するトラップはありまセン!」


 リコさんとファリーちゃんの言う通りだ。

 あそこにある罠が発動したとしたら俺達の他に別の探索者がいることになる。

 あんなフロアごと破壊されるような罠に巻き込まれた探索者がいる?


 いや、それ以前に俺達以外の探索者がいるなんて聞いてない。

 そういう説明は受けてなかったはずだし、俺が聞き逃したとしてもカイリさんは絶対聞き逃さない。

 ただでさえ得体が知れないダンジョンにいるだけあって、俺の神経は高ぶっていた。


「俺達以外に他に誰か探索者がいるんですか!?」


<い、いや、そんなことはないと思うが……>

<君達以外に誰もいるわけないだろう。そこは一般には知られていない秘匿ダンジョンだぞ?>


 視聴者のおじさん達も誰も何も知らないみたいだ。

 だとしたらあれは?


<それよりさっきの活躍に見惚れた! 10万円を進呈しよう!>

<私は15万円だ!>

<皆さん、トウヤボーイを低く見積もりすぎだ! 50万円!>

<しゃ、社長! 太っ腹ですなぁ!>


「え、なに? そのお金は?」


 おじさん達がすごい金額を口走っている。

 まるでスパチャみたいだ。


<説明していなかったな。この配信でも彼らが君達にいわゆるスパチャのようなものを送ることができる>

「ガドウさん? そ、それって、10万円のスパチャってことですか?」

<動画配信サイトではせいぜい5万円が上限だが、ここでは無制限だ。どうだ、涎が出てきただろう?>

「い、いや、涎とか出ないし金額がすごすぎて申し訳ないというか……」


 前々からスパチャというものは本当に感謝すべきものだと思っていた。

 皆、惜しみなく俺なんかのためにお金を入れてくれるんだからたまに申し訳ない気分になる。

 そのお金は皆が汗水垂らして稼いだお金なわけで、俺はそれをいただいているわけだ。


(だからこそ気が引き締まるし、がんばろうって思えるんだよな)


 だけど今回は金額の桁がまるで違う。

 申し訳ないだとか以前に現実感が湧かない。

 政府の高官とか言ってたけど、どれだけお金持ちなんだ?


<せいぜいがんばりたまえ。せっかくの金も生きて帰らなければ意味がないのだからな>


 ガドウさんの言う通り、こんなことで驚いている場合じゃない。

 さっきの謎のフロア倒壊みたいに、このダンジョンはわからないことが多すぎる。

 まずは紙をまき散らした魔物を追わないと。


 階段を下りて下層に進み、また曲がりくねった階段を下りて。

 螺旋階段みたいな道を下りていくと長い廊下に出た。

 両脇には武者みたいなのが鎮座していて――。


「トウヤ様! 魔物です!」


 鎧武者が一斉に立ち上がり、グルリと俺達のほうを向いた。

 その手に持つ武器は俺と同じ刀だ。


「さ、侍!?」

「それはトウヤ様です!」

「いやそうじゃなくて!」


 兜の奥は暗黒そのものでまったく生命を感じない。

 そんな魔物が鎧を軋ませて斬りかかってきた。


<おぉー! 庭園名物! 嘆きの武者! 庭園の番兵より手強いぞ!>

<あの鎧の化け物はかつて07号部隊を大いに苦しめたと言われているな>

<侍少年がいかに腕が立とうと、あの鎧はほとんど刃を通さん>

<07号部隊も状況によっては戦いを避けたという記録もある>

 

 鎧の化け物か。硬いだけなら地下鉄ダンジョンの魔物と同じだ。

 ただこの魔物、屯田兵もどきより格段に動きが鋭い。

 その太刀筋は腕に覚えがある人間のそれと近いように思える。


「ふんっ!」


 俺は鎧武者の刀を一度に三つほど同時に受けて防いだ。


<なんと!? ちょうど三体分の刀を侍少年がたった一本で……>

<あの乱戦で攻撃の着地点を見極めたか。だがそれだけではあの嘆きの武者は止まらん>


 どことなくガドウさんの声が弾んで嬉しそうだ。

 もちろんこれで止められるなんて思ってない。


「流師……葬免」


 俺の刀が鎧武者の刀を滑り、鎧武者三体を斬った。

 硬い鎧武者だろうが地下鉄ダンジョンのミキサーマシーンだろうが関係ない。

 鎧の化け物を兜ごと斬り裂いた勢いでバラバラになった残骸が後方にまき散らされた。


 続いてリコさんの大剣を鎧武者が刀で受けるけど、そのまま叩き潰す。

 リコさん、ああ見えてかなりのパワー派だ。

 アースレイン社で武器を強化してもらったおかげもあるけど、リコさんはスキルで大剣を強化していた。


 あの大剣を振り下ろす直前に氷で重量を加える。

 攻撃後には即スキルを解除するという無駄のない一連の動作は見惚れてしまうほどだ。


「ガルルルッ!」

「がうっ!」


 セイとケンが鎧武者を牙で裂いて、兜をくわえてもぎ取ってしまった。

 そのまま大暴れして他の鎧武者に激突して、この場はしっちゃかめっちゃかだ。


「ファ、ファリーも活躍するデス! にんっ!」


 小柄なファリーちゃんが鎧武者の間をすり抜けるようにして動く。

 短刀で鎧武者を攻撃するも、かすり傷一つつかなかった。

 当然、攻撃を受けた鎧武者は暗闇の兜をファリーちゃんに向ける。


 が、そこにファリーちゃんはすでにいない。

 高速で動き回って鎧武者に断続的に攻撃を加えてダメージを与えていった。


<ワハハハハッ! なんだ! 面白いぞ!>

<あの嘆きの武者をものともしないとは……>

<18万円やろう!>

<ファリー! 偉いぞ! おこづかいをあげよう! 100万円!>

≪おこづかいの桁がおかしいよ!?≫


 そりゃカイリさんだって突っ込むよね。

 ただファリーちゃんじゃあの鎧武者はまだ倒せない。

 フォローは俺達が行いつつ、この場を突破することに努めた。


「早くあの紙をばらまいた魔物を見つけないと……」

「がるっ!」

「セイ?」


 セイがくんくんと鼻を動かしながら俺達をどこかに導いているようだ。

 下層を駆け抜ける俺達、現れる屯田兵もどきや鎧武者。

 こうも立て続けに現れたんじゃたまったもんじゃない。


「心気一天流奥義……」


 俺は走りながら身を低くして構え、居合いのごとく刀を振った。


円動正死えんどうまさしッ!」


 水平に円を描くように動き、斬撃はリコさん達の外側へ波紋のように広がった。

 四方八方から迫る屯田兵もどきや鎧武者、壁、柱。

 すべてが切断されて、すべてが停止する。

 魔物達は体が二つに分かれてから一斉に倒れた。


<なんだ! 魔物が突然倒れた!>

<か、壁が、建物が崩れるぞ!>

<エンドウマサシは父の名だが、なぜトウヤ少年が知っている!?>


 斬られて形を維持できなくなった建物がズズズと断面を見せながら倒壊していく。

 それは遥か遠くのフロアの建物にまで波及したようで、まるで高層ビルが重さに耐えかねて潰れていく様のように沈んでいった。


<て、て、天変地異か! ダンジョンを破壊する気か!>

<これは本当に侍なのか! そんなものではないだろう!>

<まずい、まずいまずい! 鳥肌が止まらん! 70……いや、80万円だ!>

<いやこんな素晴らしいものを見せてもらったのだから90万だ!>

<ブラボー! トウヤボーイ! 300万円!>

<私も少しばかり恵んであげようかしら……14万>


「あ、ありがとうございます……」


 いくら一掃するためとはいえ、絶対にやりすぎた。

 もし他に探索者がいるのだとしたら巻き込んでないか心配だ。


「ト、トウヤ様、今のは……」

「昔、心気一天流の継承者が戦を終わらせるために編み出した奥義らしい……」

「今のはまさにサムライなのでゴザル! にんにん!」


 今のが侍かどうかはわからないけど、一定の効果はあったみたいだ。

 この辺りの魔物が片付いたことによってより軽快に探索ができる。

 その甲斐があって走りに走ると、ついにその姿を捉えることができた。


「大変ダー! 大変ダー! 曲者ガトンデモナイゾォー! 絶対ニ アノオ方ニ 近ヅケサセテハナラナーイ!」


 一つ目のゴブリンが騒いでいると、奥から騎馬兵みたいな姿の魔物がやってきた。

 鎧武者が馬に乗ってるのか。それに――。


(弓兵もいるのか)


 五重塔みたいな建物の窓から弓矢がキラリと光った。

 このダンジョン、すごい守りだ。

 ん? すごい守り?


(魔物達は一つの意志をもって何かを守っている……?)


 あの一つ目の魔物の発言からしても、そうとしか思えなかった。

 一体このダンジョンの奥に何があるんだ?

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